「だいたいあんたは昔から!!」
部屋にいくつもの家具が飛び交う。
お皿がUFOのように宙を舞う。
イスまでもが宙を踊っている。
中に包丁が混じっているが深く考えたらお終いなので気にしないでおく。
一方に男性が一人。
もう一方に女性が一人。
その二人を見える位置で家具が飛び交うのを避けた形で少女が一人。
「・・・・・・・。」
少女はもうどうしてもいいか分からずにオドオドしている。
だが危険は感じている。
この二人が喧嘩をすることは珍しいことではないのか
家のそこら中に破壊され直された跡がある。
「もう、学校行くからね!」
少女は大声で叫んだ。
二人は聞いていないようだがこのままでは遅刻してしまう上、
もう自分が何を言っても無駄なことはわかっている。
玄関を出て、いつもの用に道路を歩く。
一匹の不思議な人形のようなものを抱きかかえている。
よく見ると同じような人形が玄関に居た。
「もうどうしていつもいつも・・・。」
少女は一人愚痴る。
「あんなに喧嘩してるのにどうして結婚したのかなぁ。
まあしなかったら私が生まれて来なかったけどさ。」
ここで溜め息をひとつ。
「昔からああだったのかなぁ。」
ここでひとつの考えが脳裏によぎる。
もしも二人が結婚した動機を思い出せば簡単に喧嘩が終わるのではないか!?
でも問題がある。
今の状態の二人にこのことを聞くのは逆効果。
ならば誰に聞くか。
よく考えると誰に聞いたらいいかわからない。
――じゃあ見てみる?――
辺りが光に包まれた。
「だぁぁーー!てめえーー!!」
2−Dの教室にはいつもの光景が展開されていた。
当然、事の発端は笠置八満である。
ちなみに今彼は床の上に叩きのめされた。
となるとやはりいつも通りにイスを持ったシアンが横に立っている。
八満は勢い良く立ち上がりシアンにくってかかる
「なにしやがる!シアン!」
「進歩ないわね、あんた!ちょっとはポン太のこと考えてよね!」
「ポン太の親は俺だ!俺の教育の邪魔をすんな!」
「相手のトランプの手札を教えることが教育と?」
「それができれば勝てるだろうが!!」
さらにもう一撃八満の脳天に向かって情け無用の一撃。
と、たわいもないいつも通りの会話が弾んで(?)いた。
そんな会話を繰り広げている一同を木の上から見つめる一人の少女がいた。
「あれだ、やっと見つけた。」
少女はそれだけ言うとさっと木の上から降りてそして何処かへ走り去った。
放課後。
八満は部活へ出る準備をしていた。
近くでシアンが同じように荷物の片付けをしていて、
ポン太は周りをグルグルと飛び回っている。
放課後でもなぜかこの2−Dのメンバーは多くが残っている。
それはまた何か面白いことでも無いだろうかと言う期待かもしれない。
まあ、並の人間なら自分に被害の及ばない楽しい出来事は起こって欲しいと
願ってしまうものである。
そんな願いが叶ったのか、唐突にトラブルしか運ばない男が八満に近づく。
「おい八満。」
親友かつ悪友である乙部清丸だ。
彼の頭には常時ネコ化の被り物があるが、そこからミサイルやレーザーが飛び出す、
はたまた冷房設備の秘密を暴こうとした勇気ある者はいない。
「なんだ清丸。」
「なんかお前のこと探してるやつがいるらしいぞ。」
またポン太絡みか、と内心八満は思う。
その前に清丸に見つかったと言うことはそいつも神獣狙いと見なされて、
出会う前にその存在を消されかねない。
まぁ厄介ごとが減っていいかな、と少しは思うがさすがに
見殺しにするわけにはいかない。
この辺、金銭欲丸出しの八満の隠れたやさしさなのかもしれない。
あるいは出会ったら無視して厄介事を避ける計画かもしれないが・・・。
「どんなやつだよ。」
「さぁ、直接会ったわけじゃないしな。でも・・・。」
そう言って、清丸はドアの方向を指さす。
そこには一人の少女がたたずんでいた。
燃える様なシアンそっくりの紅い髪。
年はだいたい1つか2つ下だと思われるがハッキリはしない。
服は見慣れない服を着ている。
見た目はシアンをほんの少し小さくした感じだ。
「・・・・・・。」
八満は無言でシアンの方を見た。
「知らないわよ・・・。」
シアンにそっくりの紅い髪から姉妹かと思われるが、
八満自身もシアンの姉妹とは両方と会っている。
「どうしましたお嬢さん。」
その少女にバカJr.ことオーキッドが話し掛ける。
このオーキッドは神獣のポン太を狙ってここにやって来たのだが、
なぜか入学し、その上剣を常備しているため危険この上ない。
「一応確かめておくけど、あなたが笠置八満だよね。」
Jr.を完全に無視して八満へ話し掛ける。
「ああ。」
答えるとポン太が八満の肩に留まる。
「え!?それがポン太?ほんとに全然変わってないんだね!」
嬉しそうにポン太を抱きかかえる。
「ふ、困るなポン太に用がある時は俺に紹介料3000・・・。」
八満は吹き飛ばされた。
「あんた、もしかして空から!?」
荷物の入った鞄を八満に思いっきりジャストミートさせたシアンが
少女に対して話し掛ける。
「空?ああ、空ね。違うよ。私が来たのは空からじゃない。」
そして何かを思い付いたような仕草をして、
「もしかして、お・・・シアン!?」
「そうだけど・・。」
へーと言う感じで少女はシアンを見つめていた。
シアンといえば少しこの少女に不安を感じていた。
大陸の人間ではない、でも大陸のことは知っている。
そんな人間は・・・このクラスにはたくさんいるが
八満のことを知らないところを見るとこの学校の者ではない。
なんせ八満は有名だから。
なぜか少女はシアンの名前を聞いてからシアンに対しての警戒がなくなった。
逆にシアンは少女に警戒の色を見せている。
「あ、言い忘れたけど、私の名前は玲奈(レイナ)だよ!」
「そうじゃなくて、なんで大陸の出身者じゃないのに大陸のことを?」
玲奈はいっぱくおいて言葉を出す。
「今は、今は言えない。」
「で、なんの用だよ。」
復活した八満が話し掛ける。
「ん?ああ、ええっとね。調べたいことがあるんだ。」
「ポン太のことか?」
ポン太を指さす。
「ま、まあ似たようなもんかな。」
「じゃあさっさと終わらしてくれよ。」
「あ、時間掛かるから取りあえず部活出てきていいよ。」
シアンだけは納得していないようだったが
今ここで議論しても仕方のないことなので部活の方へと向かった。
「ねぇ!」
清丸は玲奈に呼び止められた。
「なにか用かい?」
玲奈は周りをさっと見回して清丸の方へ向き直る。
「あの二人のことについてなんだけど。」
「まあ、シアンちゃんはガードが固いから利用するならバカ八だろう。
なんなら手伝ってあげてもいい。」
ニヤッ。
唐突に変な回答をされると困るものだ。
玲奈はまったく次の言葉が思いつかない。
一度呼吸を改めて、落ち着いて考え直す。
「そうじゃなくて、あの二人ってどんな感じなの?」
「どんなとは?」
「男女の仲としてだよ。」
清丸は少し考えて答える。
「あまりその点には注意していないけど、最悪なんじゃないかな。
ポン太くんがいなければシアンちゃんはもう居ないだろうし。
二人が仲良くしているのは見たことがないと言っていい。
まあ学校での話だけどね。」
(まぁ、僕にとしてはシアンちゃんには後ほど多大な貢献を
してもらわないといけないから今帰られては困るんだけどね。)
玲奈は硬直する。
あまり聞きたくない答えだった。
もっとも先程の様子を見れば誰だって仲が良いとは思わないだろうが。
(ええい!もうここまで来たら全部調べてやる!!)
父親の負けず嫌いな性格を受け継いでいるため
こんな所では挫折しない。
清丸と別れて聞き込みを続けてみる。
しかしどんなに聞き込みをしても返ってくる返事は
「八満?あいつは最低だな。」
「シアンちゃんがかわいそう。」
「金しか頭にないね。」
「あいつは敵だ。」
ばかりだ。
いい噂など全くない。
さすがに挫折したくなる。
「とにかく、もうすぐ部活も終わるだろうし、行ってみよう・・・。」
八満はと言うと既に部活は終了し、制服へと戻り
もう後は帰るだけと言う状態だ。
「ったくなんだったんだ、あいつ。」
八満はバックを持ってシアンに話し掛ける。
「さあ、でも地上の人間なのに神獣や大陸のことも知っていたし、
ただ者じゃないかもしれない。」
「俺も知ってるぞ。」
ゴスッ!
「当たり前でしょ!」
シアンの肘打ちが見事に八満に決まった。
「もしかしたらポン太を狙って近づいてきたのかもしれない。気を付けて。」
「もしかして・・・。」
八満が顔に手をあてる。
「何か心当たりがあるの?」
「チャートの野郎がポン太を調査するために俺に払う調査料を払いたくないがために
俺に秘密で調査してやがるとか・・・。」
強力なアッパーが八満にヒットした。
「真面目に考えてよね!ポン太がピンチかもしれないのに!」
その前に自分自身の生命の危機を感じずにはいられない。
「そんなに気になるんだったらあいつに直接聞いてみればいいだろ。」
既に二人は校門の前に立っているので今が最後のチャンスかもしれない。
八満が校舎に向かって指さす。
「まあ気にする必要はねぇよ。
今まででポン太を狙って来たやつのこと考えればなんとかなるだろ。」
だが今まで狙ってきた輩はクリムソン船長とオーキッドのバカ親子。
意外に説得力に欠ける発言だったことを言ってから後悔する。
「どっちにしたってまた会いに来るって言ってたろ。
ならそん時でいいじゃねぇか。」
「うん。」
シアンの顔からは今ひとつ不安が抜けていない。
その顔を見て八満はひとつ溜め息をもらして
「とにかく今日は帰ろうぜ。
明日俺が気が向いたら調べておいてやるよ。
地上の人間なら清とか使えばなんとかなるだろ。」
八満は歩き出す。
シアンと言えば少し驚いた顔を、
そしてなぜか一人で納得した顔をしている。
これが八満という人間、この事がシアンにはわかっている。
「帰った!?何処に!?」
「何処にって、家に。」
野球部の一同の前で玲奈が大声で叫んでいる。
玲奈はさっときびすを返して走り去る。
が、戻って来る。
「ちょっと聞きたいんだけどさ。」
野球部の一同に向かって聞いてみる。
「笠置八満とシアンの仲ってどんな感じ?」
その一言がスイッチだったかの用に野球部の部員たちに
炎が燃え上がる。
「許せねぇ。なんであんなやつがシアンちゃんと
一つ屋根の下で生活してやがるんだ。」
「・・・・・。」
無駄だった。
あまり学校で聞いたものと大差はない。
ここまでの結論を考えるとどう見ても学校内では
二人の仲は最悪のようだ。
だが、もしかしたら家の方では違うかもしれない。
もうそれに賭けるしかない。
(ハッキリ言って毎朝あんなことをされては身がもたないよ。)
そして今一度八満の家に向かって走り出す。
取りあえず家の中まで入れるかはわからないので
下校途中を見ておきたい。
最悪の場合はシアンにだけでも本当のことを話して現在の状況を
確認しておきたい、と言うのが本音だ。
と、ここで一つの考えがまたもや脳裏に過ぎる。
先程までずっと目的に向かって突っ走っていたからきづかなかったが
もしも、このまま夜になってしまったら何処に泊まるのか。
あまり考えたくないが・・・。
これはもしかしたら二人の下校を見に行くよりも先に
解決しておいた方がいい問題かもしれない。
だが考えてもあてがない。
とりあえず今できることは二人も見に行くことだ。
後のことは後で考えればいい。
現実から逃げたと言い換えても間違っていないだろう。
いた、と心の中で玲奈は呟く。
近場の電柱の裏に身を隠し二人の声が聞こえる距離を保つ。
が八満は立ち止まったりしゃがんでみたりと
一定の距離を保つのが難しい。
「あんた。」
「なんだ?」
シアンはしゃがんでいる八満に向かって話し掛けた。
「そうやっていちいち自動販売機の下を覗き込むのやめなさいよ!」
教科書が入っているためあきらかに威力の増した鞄を
重力の方向へ叩きつける。
「がっっ。」
プシューー。
なぜか湯気が立っている。
さっと八満が勢いよく飛び起きる。
「んなこと俺の勝手だろうが!!」
ドガッ!
今度の一撃は下から上に向かって遠心力たっぷりの一撃が
あごにジャストミートする。
「いてててて。」
八満はあごをさすりながら起き上がる。
「なんだか今日はやけに突っかかるなシアン。」
「え?そう?」
自分でもきづいていないようだが、
今日は八満を殴る回数がいつもよりもほんの少し多い。
ほんの少し・・・。
物陰から見ている玲奈は思う。
(・・・学校の噂って・・・本当かも・・・。)
最低最悪。
まさにこの言葉は今目の前にいる男のために
存在しているかのように思えてならない。
まだここに来てからただの一回も良い所を目撃していない。
目撃できるできないではなくて根本的に無いのでは?
そう思ってしまう。
「あいつのことについては明日俺が調べてやるって言ったろ。
地上のことについてはお前よりも俺たちのが詳しいんだから
俺に任せておけよ。」
「違うの。その子のことじゃなくて、
一応その子のことではあるんだけど。」
意味のわからない言葉を吐く。
「もしかして何処かで会ってるのかなって。」
自分はオーキッドのことも忘れていたことだし、
ありえないことでは無いだろうと思う。
「あの玲奈って子、私の名前聞いていきなり警戒を解いた感じだったでしょ。
だからもしかして会ったことあるのかなって・・・。」
「ふっ、しゃあねぇな。
調査料上乗せであいつと会ったことがあるかどうかも
調べてきてやるよ。」
次の瞬間近くの塀に顔をめり込ませる八満の姿があった。
「・・・はぁ。」
玲奈は溜め息をついた。
八満たちの後ろ姿を見送りながら。
普段から金銭欲丸出し、宿題を教えるのに子供から金取ろうとするわ、
そのくせ自分の金は出そうとしないわ・・・。
それでも良い所の一つや二つはあるんだろうと思っていたが
ここまでとは流石に思っていなかった。
もうなんだか泣きたくなってくる。
わざわざ未来からやって来た。
夫婦喧嘩を終わらせるために(できれば永久に)
しかし糸口さえ掴めない。
(一旦未来へ戻ろうかな、いやあいつの力は気まぐれだし、
もう二度と来れないかもしれない。)
「あら、あなた」
ひとりのおばさんが話し掛けてきた。
写真で見たことがある。
間違いなく八満の母親だ。
「シアンちゃんのご親戚?」
「え、えっと、そんな感じかな。」
間違っている答えではない。
だが否定すれば今夜は野宿となってしまうかもしれない。
これはチャンスだ。
二人の観察もできて布団で眠れる。
その後適当に相槌を打ちながら八満の家に向かった。
「ただいま。さぁどうぞ。」
玄関の扉を開けて玲奈を向かい入れる。
「失礼します。」
良かった良かったと心の中で思いながら家にあがる。
「今シアンちゃんを呼んで来ますからね。」
「あ、あの・・。」
(いきなりつまずいてしまった。
嘘が一瞬でばれてしまう。
まあ嘘ってわけじゃないんだけど。)
おばさんは客間へと向かってシアンを呼びに行く。
ばたばたと音を立ててシアンが走ってくる。
まぁたぶん親戚と言われて姉妹のどちらかが来たのだと
思っているのだろう。
「あ、あんたは!」
ごくありきたりの予想通りの反応があった。
その声を聞きつけて八満もリビングに入ってくる。
「あ、昼間の。」
(どーしよー!?)
玲奈は考えたがわからない。
考えに考えて行き着いた答えは。
「こんばんは!」
大失敗だったかもしれない。
あるいは成功かもしれない。
どちらにしても沈黙が場を支配することはなくなった。
それを考えれば成功に近いと言ってもいい。
「で、なんの用だよ。」
これまた朝同じような台詞を吐いたと思われる。
「いや、あははは。
泊まるとこなくてさ、途方に暮れてたらおばさんが現れて。」
「ちょうど良かった!あんたに聞きたいことがあったのよ!」
「私に?」
なんだろう、と本気で玲奈は思う。
思い当たることはない。
二人の仲を嗅ぎ回るのはやめてくれと言うのならわかるが。
ちなみに、それは結局思い当たることがある、と言うことになる。
「ポン太の親は八満なんだからね!他の人には無理よ!」
「は?ポン太の親?」
ここで自分の記憶を思い返してみる。
そういえば昔いろいろなやつがポン太を狙って来たらしい。
つまり、自分もポン太を狙って来ている輩に間違えられているらしい。
「あ、信じてもらえないかもしれないけど、
別にポン太を取ろうとしてるわけじゃないよ。」
「じゃあなんの用なのよ!」
シアンは完全に喧嘩腰だ。
どう説明したらいいものか、おおいに迷う。
まだ本当のことを言うわけには行かない。
名前を名乗ってしまったからには後々どちらか片方だけでも
本当のことを言わないとならなくなってしまっている。
だが今はだめだ。
特に明確な理由はない。
今言ってしまうと身の危険を感じる気がする。
ただの勘だ。
今朝の占いで猫に気を付けろと言われた気がするが
家が騒がしくて良く聞かなかった。
よくよく考えてみると朝ネコのような物体が近くにいたような
いなかったような気がする。
「ま、まあ気にしないで。」
今度のは間違いなく最低の答えだった。
シアンと言う火に油を注いでしまった。
「気にしないでですって!それでポン太を奪っていくつもり!?」
これではらちがあかない。
(こうなったら最終手段一歩前!)
「いや、実はこれは秘密にしてくれって言われたんだけどね。
チャート様が極秘に二人のことと神獣のことを調べろって。」
玲奈は意を決して嘘を吐いた。
「やっぱりか!」
へ、と玲奈は八満に向かって声を漏らす。
「ならば調査料5000円を支払ってもらおうか!」
ドスッ!
八満の後頭部に強烈なラリアットが入る。
「あ、あのね。シェンナからの報告を受けてると思うけど
今はまだ結果を出せる段階じゃないの。」
玲奈はシェンナって誰?と思いつつも次の言葉を考える。
「まあ、二人の普段の生活を見せてもらうだけだから。」
本当にてきとうな嘘をつくもんだと思う。
その後なんとか家に居れることになった。
この前シェンナが来たのにもう別の人が来るとは、
シアンはそう考えていた。
前回調査員のシェンナが来た時は苦労をした。
なんとか報告を先延ばしに出来たが、
やはりそれがまずかったのだろうか。
「ねぇ!シアン。」
急に呼び止められる。
振り向くと玲奈がいた。
「な、なにか?」
「八満ってどんな人?」
「チャート様から聞いてないの?」
シェンナはこの時シアンがいるから大丈夫だと答えた。
「あなたから見てどんな人か聞きたいの。」
調査と言うよりも恋の話をしているようではないかと玲奈は思う。
しかし、自分の調べたいことはこれなのだから仕方ない。
「そ、そうね。」
シアンは考え込んだ。
まさかここで金銭欲丸出しのポン太のことを考えてくれないやつ、
とは言えない。
「ちょっと言葉では表しにくい人かな・・。」
少しまずい答えだ。
この答えだとならば八満本人に確かめるしかないと言い出す。
「それって良い所もあるってこと?」
意外な答えを玲奈が返してくる。
「う、うん。(極々希に)あるよ。」
「ふーん。」
あるのかと、少し安心する。
これで全く無いなどと言われた日にはどうしようもなくなる。
玲奈はそれだけ聞くとその場から立ち去った。
シアンはすぐに八満の部屋へ向かった。
そう、ボロを出さないように注意するために。
「八満入るよ。」
ドアを開けて部屋へ入る。
「なんだよ。」
「いい、あの子はチャート様からの調査員なんだからあの子の前では
真面目な人間として生きてよね!」
また無茶苦茶なこと言う。
八満のこの性格は大陸の果実をもってしても、
八満の性格の力が上回った程なのだから
「だいたい、お前空から人がくればチャート様チャート様って、
ふざけんなよ。あんなフード野郎がどうしたってんだよ!
俺をこけにしやがって、ぜってぇ殴りこみをかけてやる!!」
すでにこちらも分けの分からんことを言う。
「そんなこと言ってると殺されるわよ、あんた!!」
「返り討ちにしてやるわ!!」
「できるわけないでしょうが!!」
玲奈は一人ドアの傍で聞き耳を立てていた。
自分のせいでさらに二人の仲が悪い方向に発展している。
「そんなにチャート様のご機嫌をとることが大切なら、
空に帰ってご機嫌取りでもしてくりゃいいじゃねぇか!!」
「!!!」
一旦そこで言葉の嵐がやむ。
「バカーーー!!!」
バタン
ドアが勢い良く開きその奥には、
鼻血を出してぶっ倒れている八満の姿があった。
「・・・大丈夫?」
一応かなりの割合で玲奈のせいなので八満を気遣っておく。
「あの野郎、手加減ってやつを知らねぇのかよ。」
チャートの名前を出したのは失敗だったかもしれない、
玲奈はいまさら後悔していた。
シアンはチャートの名前に敏感に反応する。
だが過ぎてしまったことだ、悔やんでも仕方ない。
結局なんの進展もなしに次の日を迎えることになる。
翌日
今日は日曜のため学校はない。
いい具合に部活もない。
玲奈のことを調べようとしていたが昨日の内に
明らかになったのでその必要も無い。
「あの野郎まだ怒ってやがるのか。」
八満はぼやく。
しゃあねぇな、と思い立って出掛ける準備をする。
「ちょっと出掛けてくる。」
「あまり遅くならないようにね。」
母親は答えるがいつもならここでポン太についてくるシアンは
完全に無視体制だ。
玲奈は場の雰囲気がまずくて黙り込んでいた。
八満は出掛けて行った。
取りあえず玲奈はフォローに回ることにした。
「あのさ、シアン。八満はチャート様のこと良く知らないんだし・・。」
実を言うと自分など会ったことさえない。
「私って邪魔なんだと思う?」
シアンが唐突に玲奈に質問をする。
「そ、そんなことはないんじゃないかな。」
今までのことを見ていると今ひとつ自信がわかない。
「大陸に八満の性格を直せそうな人っているかな・・。」
もしいるなら変わるべきなのだろう、そう思って口にしてみる。
「たぶんだけど、いないんじゃないかな。
あの性格は生まれつきのものだから死ななきゃ直らないと思う。」
少なくとも玲奈のいた未来まで変わることはない。
「そうかな・・・。」
シアンの声にはいつもの生気ない。
本当に気にしているようだ。
何か言葉を掛けてやりたいけれど、
玲奈には掛ける言葉がない。
そのままダラリと過ごし、いつの間にか夕方近くまでなっていた。
八満は今だに帰って来ない。
さすがに心配になってきたのかシアンが立ちあがる。
「私ちょっとポン太と八満探してくる。」
そう言って駆け出した。
ドンッ!
「痛ってー。」
「八満!?」
ドアを勢い良く開けたため八満に思いっきりぶつかった。
「何しやがる!シアン!」
カチッ
「何ってあんたがポン太を連れてなかなか帰ってこないからでしょ!」
「まだ5時だぞ!何も問題ねぇだろが!」
「あんたがポン太をどこかに置いて来たらどうしようかと思ったのよ!」
「んなことするかよ!!」
しないとは言い切れないところが八満なのだが。
八満は疲れたようにドアの中へ入る。
「昨日は悪かったな。」
「いいわよ、いつものことでしょ。」
八満はポケットから一枚のチケットをシアンに差し出す。
「何よこれ・・・。」
シアンがチケットを覗き込むとそこには・・・。
―――神楽星特別招待券―――
「こ、これって!?」
少し前に清丸が持ってきた高級料理店神楽星の無料招待券だった。
あの時は結局、券は消し炭になってしまい、
誰もそれを手にすることはできなかった。
「お前行ってみたいって言ってただろ。別に行きたくねぇなら券かえせ。
オークションにかける。」
「ううん、ありがと。」
それを見ているとあの寒さを思い出すのかくしゃみをひとつして
八満は家の中に入っていく。
「でも、これどうしたの?」
「ああ?ポン太が福引券拾ったから商店街まで行ってやったら当たったんだよ。
ご丁寧にペアご招待券がな。」
「じゃあ、もう一枚あるんだ!」
「ふざけんな!やるわけねぇだろ!」
残り一枚はどうする気なのか、オークションでも出す気なのか。
それとも、自分で食べに行く気なのか。
「2枚あるんだからいっしょに行こうよ。どうせ場所わからないしね。」
「け、どういう風の吹き回しやら・・・。まあ、いいけどな。」
「じゃあ早く行かないと混んじゃうよ。」
「わかってるよ。」
二人と一匹は出掛けて行った。
横で見ていた玲奈は少し驚いたがなにかを納得した感じになっていた。
それとデートじゃないのこれ?と言う突っ込みは入れないことにした。
「おばさん!おじさん!昨日は本当にありがとうござました!」
玲奈は八満の家を発った。
しばらくして、八満、シアン、ポン太は神楽星から出てきた。
「ふー食った食った!」
八満は満足そうに笑みを浮かべている。
「本当においしかったね!」
シアンも同様のようだ。
「ん?あいつ玲奈じゃねぇのか?」
「え、あ、本当だ。」
少し先の路地裏で玲奈がシアンを手招きしている。
「ちょっと行ってくる。」
シアンが玲奈のところに行き着くと、
玲奈は周りに自分たちの会話が聞かれないことを確認して
口を開き始めた。
「実はね・・・・。」
この後、玲奈はどこかへ行ってしまった。
話を終えて来たシアンはしばらくの間、
顔を真っ赤にしていたがどこか嬉しそうだった。
再び光が少女を包み込んだ。
「よし帰って来れた!実は戻れるか心配だったんだよね。」
すでに夕方になっていた。
「まあこれくらいの時間のズレはね。」
学校は完全にサボりの形になってしまったが収穫はあった。
すぐに家に帰ってみると、
夫婦喧嘩は終わっていた。
「玲奈おかえりなさい。」
「ただいま!」
全く不思議だがあれだけ散乱していた家具がほとんど元に戻っている。
「久しぶりにあそこに食べにいくか。」
男が言った。
「うん!早く行こう混んじゃうといけないから!」
玲奈が元気よく答える。
男一人、女一人、少女一人、そして空に浮かぶ人形が2体。
神楽星と書かれた料理店へ向かっていた。
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