++ The moment of truth ++






いつもの朝。
普段どおりに二人と二匹で登校していた八満達。
そしていつもの言い争い。
「ったく、あんた何でもっとポン太とヴァイスに優しくできないの?!もとはといえば
あんたが起きないのが悪いんでしょ!!」
「馬鹿野郎!!起こすのに火ィ使う奴がいるかッ!!もう少しでチリチリになるとこ
だったんだぞッ!!」
「だからって殴ろうとしなくてもいーでしょッ!!それにそのくらいやらないと起き
ないでしょあんたはッ!!」
「あんだとこの野郎〜ってッ!!」
いきなり男子生徒が八満にぶつかってきた。そのまま走り去るのかと思いきや、振り向いて、
「あ!悪ィ!!平気か?!」
と、謝ってきた。八満が何言うかわからないでシアンが代わりに
「全然大丈夫です。こっちこそすいません、邪魔でしたね。」
と、笑顔で言った。その横では八満が怒りをあらわにしていた。
男子生徒は一瞬複雑そうな顔したがニコッと笑って走って行った。
そして言い争いが再発したのは言うまでもない。


昼休み、シアンがヴァイスと屋上で日向ぼっこしていると、一人の男子生徒が現れた。
「……今、平気?」
いきなり見知らぬ男子から声をかけられシアンは硬直していた。
「あ、その、俺、別に怪しい者じゃないよッ!ただちょっと話したくて……あ、思 いっきり怪しいよねッ、ごめん、違くてッ」
その慌てぶりに思わず微笑んでしまったシアン。そんなシアンを見て安心したのか
男子生徒は落ち着きを取り戻した。
「…あの、俺3Bの岩村凌っていいます。実はさ・・・」


昼休みがもうすぐ終わる頃、八満達はカードをしまい始めていた。
「み〜み〜」
「あんだよ、ポン太。」
「み〜みぃ〜」
「……お前本当ホーウィにでも言葉教えてもらえ、なッ?」
「み〜みぃ〜〜!」
「ポン太君はシアンちゃんを心配してるんじゃないか?」
横から顔を出す清丸。その関心の全てがポン太にいっているのは明らかだ。
「シアンを心配?何でだよ。」
「いつもならシアンちゃんはこの時間にはとっくに教室にいるはずだろ。だからじゃ
ないのか。」
「そっかぁ〜?寝てんじゃねぇのか?」
「どっちにしろ迎えに行けよ。お父〜さん。」
「はぁッ?!」
「ヴァイス君も一緒だろ?」
「あのなぁ、清丸……」
「貴様などが行くよりこの僕が行った方が良かろう。」
そしてキッドも乱入。
「シアンさんも喜ぶしな。そしていずれは僕と…そして神獣も…」
馬鹿らしくなってきたので八満は渋々探しに行った。
(どーせ屋上で空でも見てんだろ…)


八満が屋上に着くとそこには空を見ているシアンとその横でシアンを心配そうに見て
いるヴァイスの姿があった。
「ったく…おい、教室戻るぞシアン。」
反応はない。
「おいシアン、聞いてんのかよ?」
ようやくシアンは振り返った。その表情は幼い子供のようだった。
「…八満?あ……ごめん、戻るね…行こ…ヴァイス…」
ゆっくりと階段を降りてったシアン。その異変は明らかだったが八満は何も言わなかった。
ヴァイスは機嫌が悪いらしく八満に捨て炎を浴びせていった。


学校が終わり八満は部活に行った。いつもならシアンもついてくるのだが、
「ちょっと用事あるから先帰るね。ポン太の事よろしくね…」
と言って部活には来なかった。そして八満は先輩方に鉄拳等を受けるハメになった。


シアンは家に帰らず何故か学校の体育館に足が向かっていた。自分でも本当に何故だかわからずに。
体育館からはボールのつく音と掛け声が聞こえてきた。
(俺バスケ部の部長やってんだけど……)
言葉が頭をよぎった。体育館を覗くと、いた。確かに岩村だ。
「ほら、そこパス早く回せ!!つなげろ!!止まんなッ!!」
「ディフェンス早く!!戻れッ!!フリーにすんなよッ!!」
「ドンマイ、ドンマイ!!落ち着いていけッ!!よくボール見ろッ!!」
それはシアンが見た事ない、想像もつかなかった岩村の姿だった。凄いと、思えた。
素直に良いなと思えた。こんなにも一生懸命でバスケが好きだって伝わってくる、そんな岩村が…。自分にはあるのだろうか、こんなにも熱中するものが…。
そんな思いに耽ってる時バスケ部らしき男子が近づいてきた。
「…君、シアンちゃん?俺、凌のダチなんだけど…あいつに用あんの?呼んでこようか?」
「えッ?あ、いいです!すいません、もう帰るんで…」
「あ、あのさ…俺が言うのもなんだけど、付き合ってる奴とかいなかったら……あいつの事よろしく。あいつ今までバスケ馬鹿ってゆーかバスケ以外の事にはウトくてさ、そんなあいつが自分から告ったって凄ぇ事だと思うんだ。」
「・・・・・・」
「だから、そのさ、前向きに考えてやってよ、あいつの事。…じゃあ俺練習に戻るわ。気ィつけて帰んなよ。」

「見に来なきゃ良かったかな………」


八満が家に着くと母親にご飯だからシアンを呼んで来いと言われた。何故か気まずさがあった。何もないのに。
「……おい、シアン、飯だから降りてこいってよ。」
返事がなかった。八満は少し不安になった。
「おい、起きてんのか?飯だっつってんだろ!」
「………わかった……」
ドア越しのシアンの声は重々しかった。八満は浅く溜息をついて
「……何があったんだよ?言いたくないなら良いけどよ。」
「…………ねぇ八満……八満は誰かと付き合った事ある………?」
「はぁ?!何言ってんのお前。」
「…てゆーかさ、付き合うってどういう事なの……?」
「あぁ?…そーだな…一緒に帰ったり遊んだりする事じゃね?」
何か俺とシアンの関係に近くないか?と八満は思ったが、ま、いーかと流した。
「………そっか……ありがと……」
「あぁ……何があったか知らねぇけどとっとと飯食いに降りてこいよ。冷めるぜ。」
「……うん…分かった………」
その夜はとても静かに過ぎていった。


そして数日が過ぎたある日、八満は買い物を頼まれて近くのスーパーまで行った。
その帰りに通りかかった公園で重苦しい雰囲気の 男女を見かけた。そのうち女と思われる方が走り去って行った。泣いてる様だった。
男は俯いて八満の方へ歩いていった。
(やべ、見てたのバレる!)
と八満は思って急いで帰ろうとしたがポン太が公園に五百円玉が落ちているのを発見して
「みッ?!みぃ〜!!」
と言ったので男が八満に気付いた。
「………あーッ!」
「はいッ?!」
「どっかで見た事あると思ったらシアンちゃんと住んでる人だろッ?」
「はぁ?そーだけど……」
んだぁ?こいつ、と思って驚いていたら
「……俺の事知らない?聞いてない?」
「あぁ…」
「俺さ、…自分で言うのも何なんだけど……シアンちゃんの事好きなんだ……てか、告った…」
「へぇ〜……」
(そのせいだったのか、シアンがおかしかったのは。何となく予想はついてたけど…)
「俺三Bの岩村。一応…よろしく。…って変だよなぁ。」
「いや、別に……さっきどうしたんスか?女の人泣いてたっぽかったっスけど…」
「あ…見られてたか…。その……付き合って欲しいって言われて……断ったとこなんだ……」
「シアンがいるからですか?」
「うん……てか俺自身シアンちゃん以外に考えらんないってゆーか…」
そう言ってる岩村の顔は赤かった。
「……何でそんなにシアンを……?」
「…この前のバスケの試合…ボロボロだったんだ…情けねぇけど……俺の力不足だったんだ……。 その日、家に帰る気分じゃなくて学校の体育館にいたんだ…したらシアンちゃんが入ってきて、 なんだっけ、ポン太?とかくれんぼしててさ。すっげぇ楽しそうで笑顔でさ、 こっちまで何か心が温かくなって……明日からまた頑張ろっかなって思えたんだ……凄ぇ肩の力抜けたんだ。同時に何か傍にいてほしいって思った。傍で笑っててほしいって思った……」

話聞くんじゃなかったな、と五百円玉を握りしめながら八満は帰った。


次の日の放課後、シアンは岩村に呼び出された。
澄み切った青空、優しすぎる程の風、響いてる声、全てを見下ろせそうな屋上。
「呼び出してごめんね。返事聞きたくてさ……」
照れ笑いする、笑顔が似合う、凄く似合う優しい人。
「そんな、謝らないで下さい。全然平気です。」
必死に首を横に振るシアン。赤い瞳の奥には迷い、葛藤、不安……
「………先輩……私……」


その日シアンはなかなか帰ってこなかった。
両親に探しに行かされたのは無論八満。
「…ったく、どこ行ってんだよ、あいつは。ヴァイスも一緒だろ、ポン太、お前テレパシーとかできねぇの?」
「みッ?みぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ〜〜〜」
「お、できそうかッ?これは良い金になるな、新芸としてッ!ポン太頑張れッ!!」
「みふッ……」
「………はぁ〜やっぱ無理か〜。ってあれシアンじゃねぇの?」
シアンは公園にいた。俯いて何かを考えている様だった。ヴァイスは心配そうに横に座っていた。
「おい、シアン、何してんだよ。早く帰るぞ。」
「…………」
「シアン?………ッ?!」
泣いていた。声も出さずに。唇をかみ締め,こぶしを握り締め。泣いていた。
「………どうしたんだよ……?」
「……………今日言ったの……先輩に……」
声は小さく震えていた。
「返事をか?」
「…………ごめんなさいって………なのに先輩……笑って《いーよ、ありがとう》って………」
「……」
「………私先輩を傷つけちゃったんだッ…」
「…しょーがねぇ事なんじゃねぇか…?お前だって考えて出した答えだったんだろ?」
「……先輩の事、嫌いなわけじゃないのに…断ったんだよ……」
「…好きでもなかったんだろ?じゃあ、そういうしかなかったんじゃねーのかよ。」
「………曖昧な理由だったんだよ……」
「だからそれは…」
「私なんか断る資格なかったのに……ッ」

それ以上、二人は何も言わなかった.言えなかった。どちらかは、あるいはお互いが、言葉を探してたのかもしれない。
だけど二人の間に言葉が生まれる事はなかった。ただ時間だけが、ゆっくり、二人に 気付かれないように過ぎていくだけだった。










不如意さんより頂きました〜〜〜!!
シアンって華やかめの美人さんだから、『シアンちゃ〜ん!』な人々は
けっこう多いですけど、それってある意味心配いらない。
でも、偶像みたいに扱うんじゃなくて本気でアタック(死語)してくる
人(あ、Jr.がいるか…彼の場合表現方法に若干の問題アリですが・笑)
が、もしいたら…? というの、私もすんごい気になっておりまして。
不如意さんてばそのへんのツボ直撃。
シアンはどう感じるのか、そして八満は……?とドキドキです。
……っていうか!不如意さ〜〜〜んッッ!!!ιι こ、このあと一体
どうなるんですか〜〜〜ッッ!!??(汗)なんつ〜気になるところで
切るんだァ〜〜〜!!!!! うをを。

そしてもうひとつ私の密かなツボ……ヴァイスの『捨て炎』(笑)。
……ともあれ!!有難うございました〜〜〜!!!vvv

追伸。ヘタレなタイトルは私です……不如意さん、スイマセン…。
(ここではとりあえず『正念場』といったような意味で……ι)





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