★ラ・ボエーム
プッチーニのオペラ「ラ・ボエーム」。パリに住むビンボな詩人ロドルフォとビンボなお針子ミミのビンボで悲しい恋を描いた名作でございます。何しろ主人公二人はビンボでございますからロドルフォは肺病を患うミミのために薬を買ってやる金もございません。そのことで苦しむロドルフォ。それを見かねたミミは降り積もる雪の中で「春になったら別れましょう」と自ら提案するのでございます。切なくも悲しい第三幕のシーン…しかし、ここでトホ妻の怒りに火がつくのでございます…。
対談場所:いわんや家居間(ラ・ボエームのビデオを観ながら)
トホ妻 「このミミって女さぁ…」
いわんや「(トホ妻の“怒りのオーラ”に気付いて身構えながら)…な、何だよ?」
トホ妻 「ロドルフォに向かって別れようって言ってんのよね?」
いわんや「…病気のアタシと一緒だとビンボなロドルフォの負担になるからってことだよな」
トホ妻 「じゃ、なぜすぐ別れないのよ?“別れましょう、でも今はまだ寒いから、春まで待って別れましょう”ってどういうことよ?」
いわんや「…だから…それは…」
トホ妻 「別れるのを春まで待たなきゃならない理由ってなんなのよ?」
いわんや「…だ、だから今言ってたとおり、冬は寒いから…」
トホ妻 「何で寒いと別れちゃいけないのよ、病気なんでしょ?この女は。じゃ、冬の間は一緒にいた方がいい理由ってなんなのよ?ねぇ説明してよ」
いわんや「(とっさに考えて)つまりだな…その…冬は寒い。寒い冬に独りで寝るのは尚一層寒い。だから、せめて冬の間は二人で身を寄せ合って、春になったら別れましょうってことじゃん。寒いからって俺のイヌ布団奪ったくらいだから身に覚えがあるだろ?…おお、何と説得力のある解釈…」
トホ妻 「説得力ないわよ!だってビンボなロドルフォの負担になりたくないんでしょ?春まで別れずにいたら、春までアンタに負担かけるわよってコトになるじゃない」
いわんや「う…それもそうだ。いや、だからさ“愛するアナタと一緒にいたい、でもビンボなアナタに負担はかけたくない”っていう、そういう愛とビンボのアンビバレンツな葛藤がだな…」
トホ妻 「葛藤もヘチマもないわよ。病気でビンボで薬も買えない。でも冬の間は一緒にいた方が良くて春には別れた方がいいって何それ?言ってることメチャクチャだと思わないの?」
いわんや「でもこの二人は愛し合ってるけど別れなきゃならないっていう、そういう状況なワケだろ?それなのに“そんじゃね”とか言ってアッサリ別れたら、それじゃ悲恋にならんだろうがよ」
トホ妻 「じゃ春まで待てば悲恋になるっていうの?」
いわんや「いや…それは…」
トホ妻 「なりゃしないじゃないのよ!説明してよ!」
いわんや「俺がこのオペラ作ったワケじゃないだろ!何で俺に怒るんだよ!」
確かに、そう言われてみるとこの二人がなぜ「今はまだ寒いから暖かい春になったら別れましょう」などと歌うのか、ワタクシにもよく分からないのでございます。しかし「ラ・ボエーム」はこんなささいな歌詞の破綻があろうがなかろうが、やはりワタクシの大好きな名作オペラ。第一幕の有名なアリア「私の名はミミ」のサビのところなど、もう涙が出るくらい美しく切ない旋律でなのございます。もし鑑賞のチャンスがございましたら、皆様も一度舞台で御覧頂きとう存じます。
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