トホ妻×いわんや・「いぬブトン戦争」のテンマツ

 い起こせばトホホ妻帝国のホームページを立ち上げたのは99年7月の終わり、夏の真っ盛りでございましたが、気が付いてみればもう11月も終わり…めっきり寒くなってまいりました。寒くなってくれば恋しいのは何と申しましても暖かいフトン。冷え込んだ日曜日の朝などにトイレに起きて「あ、今日は会社行かなくていいんだ」と思いながらもう一度暖かいフトンにもぐり込む…こんな時にこそ幸福を実感するという方はワタクシ以外にも多いのではございますまいか。

カイマキの説明図 て、冬のフトンに何をかぶるかとなると人によって色々好みがございます。普通のワタ布団、電気毛布、羽毛布団等々、選択肢は多々ございますが、ワタクシはカイマキブトンをかぶるのが実は大変好きなのでございます。あるいはこれをドテラと呼ぶ方もいらっしゃいましょうが、とにかくカイマキにはフトン自体に袖が付いておりますから(左図I参照)、寝床で仰向けになって本を読むような場合、普通の四角いフトンと違って袖に腕を通して本を持つことが出来るため、腕や肩も冷えず、まことに結構な寝具なのでございます(左図II参照)。

 かるに、トホ妻はこのカイマキを「袖がじゃま」「ヘンな形だからイヤ」などと悪口を並べ立て、自分は普通の四角い掛けブトンを用いていたのでございます。従いましてワタクシどもは毎年冬になるとトホ妻が四角いフトン、ワタクシはカイマキをかぶって寝ることになるわけでございます。

 タクシ、結婚前からこのカイマキを愛用しておったのでございますが、何しろ若かりし独身時代に買ったアクリル綿の安物。結婚した頃にはすでに十分ボロ布団と呼ぶにふさわしい様相を呈しておりましたが、結婚して年月が経つにつれて表面の布はあちこちホコロビ、いよいよスゴい有様になってまいりました。そろそろ買い替えないと…と思ってワタクシは冬が巡ってくるたびに新しいカイマキの購入を提案するのですが、トホ妻は買うのであれば普通の四角いフトンにすることを要求してきたのでございます。

 ホ妻にすれば、新しいカイマキを買うことを禁じていれば、いずれ耐え難くボロボロになったカイマキに音をあげたワタクシがあきらめて普通の四角いフトンを買うだろうと計算したのでございましょう。しかし、トホ妻がそういうつもりならこちらも意地。抵抗運動を続けるレジスタンス戦士のような心境で年々ボロくなる一方のカイマキを使い続けたのでございました。

 かし「フトン劣化促進要因」はこれだけではございません。それはワタクシの方がトホ妻よりも体温が高いという事実でございまして、たとえボロボロのカイマキであってもワタクシの体温で暖められたソレは冷え症のトホ妻がかぶる四角いフトンに比べると「ヌクい」のでございます。こちらの方がヌクいことがわかると、トホ妻はあれだけカイマキを糾弾し続けたくせに、ワタクシが目を離したスキに暖かいカイマキ寝床を占領するといったような非道な侵略行為をくり返し、カイマキを取り戻そうとするワタクシとの間で醜いフトンの争奪戦が繰り広げられたのでございます。

 く存じませんが犬を飼っている御家庭などで、いらなくなったタオルや毛布を防寒用に犬小屋に敷いてやると、犬が毎日座ったりカミついたりしているうちにますますボロボロにして、しまいにはほとんど原形をとどめないモノになってしまうということがあるやに聞いております。ワタクシのカイマキも買い替えを許されないまま使い続け、しかもワタクシとトホ妻に引っ張られ続けているうちに、まさにそれに近いものになり、トホ妻はやがてそのカイマキを「いぬブトン」という蔑称で呼び始めたのでございます。

 かに、その「いぬブトン」の外側は長年の劣化によってそこらじゅう破れスリ切れ、もはや中身のワタを保持することが不可能な状態になっておったのも事実なのでございます。当然、裂け目・破れ目の至る所からは薄汚れたアクリル綿の臓物がむごたらしく飛び出し、しまいにはカイマキの上下・裏表すらほとんど判別し難い状態でございましたから、犬ですら見向きもしない、単なる布とワタの醜悪な塊りと化しておったのでございます。そのようなカイマキを夫婦で奪い合うわけでございますから、ワタクシどもの“いぬブトン争奪戦”はまさに犬畜生にも劣る争いだったと申せましょう。

 のように、冬になるたびに畜生道に堕ちたようなフトン生活を送っていた我々でございますが、ワタクシとて人間としての尊厳を失いたくはございません。とうとう昨年の冬、ある日曜日に「オレはこれからカイマキを買いに行く。何が何でも買いに行く!」と宣言し、マナジリを決して「閉店特価セール」という看板を掲げたフトン屋におもむき、ウムを言わせず新しいカイマキを購入したのでございます。

 れは従前のアクリル綿製「いぬブトン」とは違い、ミッチリとマワタが詰まった立派なカイマキ。これをかぶるとその軽さ・暖かさは実に心地好いものでございまして、いぬブトン生活から比べるとまさに地獄から天国に昇ったような気分と言っても過言ではございません。しかし、いざその軽さ・暖かさを知ると、あれほどカイマキを「買うな」と言っていたトホ妻がカイマキ寝床を不当に侵略する回数もますます増えたのでございます。

 かも恐ろしいことに、今度はトホ妻が長年使っていた四角いフトンのヘリのあたりが破れ始め、徐々に「いぬブトン2号」としての姿をアラワにしてまいりました。せっかく買った新品の心地好いカイマキをトホ妻に侵略され、「いぬブトン2号」を押し付けられるのはワタクシとしても許し難いところ。こうしてトホ妻×いわんやのフトン争奪戦はまるでベトナム戦争のように長期化・泥沼化して続いていたのでございます。

いわんや「オレのフトンだろーそこは。ほら、どいてどいて」

トホ妻 「アタシこんなに冷えて寒がってるのよ。そんな妻にフトン出ろって言うの?可哀相だと思わないの?ああひどい。」

いわんや「そんなら自分用にあったかいフトン買えばいいじゃんか。そのカイマキはオレ用に買ったんだから、ほら、どけってば、よいしょ」

トホ妻 「ああーっひどい!夫の暴力!やめてーっ、あーっ」…と、まぁ大体こんな感じの熾烈な戦闘が繰り返されていたのでございました。

 かしつい先日、トホ妻といわんや両者の間に歩み寄りが見られ、画期的な和平交渉が成立したのでございます。今年のクリスマスプレゼントにいわんやがトホ妻にマワタ製のカイマキを贈る、というワタクシの友好的な譲歩提案に対してトホ妻も態度を軟化させ、「いわんやカイマキ」からの撤退を表明。これまたベトナム戦争のような「クリスマス停戦」が実現しそうな気配になってまいりました。

 リスマスプレゼントに妻にカイマキを贈る夫なんて、まぁ日本広しと言えどもワタクシくらいのものでございましょうが、平和のためならワタクシは何でも致します。実は先日トホ妻はフトンの中で「たらみゼリー・どっさりみかん」を食っていた際に、自分の四角いフトン、すなわち「いぬブトン2号」にゼリー汁をこぼしてしまい、さすがの彼女もいぬブトン2号をこれ以上使い続けることにいささか抵抗を覚えたということも和平交渉に有利に作用したようでございます。

 婚以来、と考えると実に9年の長きにわたって冬が来るたびに繰り返されてきたこの「いぬブトン戦争」。和平成立に至る道は険しゅうございましたが、来年からはようやく我々の冬の睡眠にも平和が訪れるのでございます。ノーベル平和賞とまでは言わないにしても、もし「日本カイマキ布団連合会」などといった業界団体があるのであれば、「カイマキの普及と販売促進に貢献した」という理由で表彰状くらいもらっても良いのではないかと思ったりもするワタクシでございます。

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