★ローエングリン

 劇「ローエングリン」。作曲者は「トリスタンとイゾルデ」でも取り上げたワーグナーでございます。このジイサン、実生活では有名指揮者の女房と密通して自分のコドモを生ませるという大変なエロジジイ。そんな生きザマを反映してか、ワーグナーの作品はどれも神聖・崇高に見えながら実は愛欲ドロドロという雰囲気も漂うのでございます。ドイツ出張で愛欲ドロドロ…あいや、仕事でゲロゲロだったはずのトホ妻は、何とミュンヘン国立歌劇場で優雅にコレを鑑賞して来やがったわけでございまして…

対談場所:いわんや家寝室・布団の中

トホ妻 「結局アタシ、ミュンヘンでワーグナーの『ローエングリン』とモーツァルトの『後宮からの誘拐』と、オペラ2本も観てきたけどさ、日本で来日公演観るのに比べたら破格の安さだね」

いわんや「(嫉妬丸出しで)ほぉ〜〜…仕事に疲れて遊ぶヒマなんてない!とかナンとか出発前に言ってた割にゃー、アミューズメントも積極的に楽しんだみたいじゃねーかよ…けっ」

トホ妻 「しかもね、『ローエングリン』がまたすごく良かったのよコレが!」

いわんや「…けっ。そりゃ良ござんしたねー」

トホ妻 「ミュンヘンのローエングリンはエルザ(一応ヒロイン:いいもの)とオルトルート(魔法をあやつる女:わるもの)がヤバい関係っていうことをけっこう強調してて面白かったよ」

いわんや「ヤバい関係ってどういうことさ?まさかレズかよ(笑)?」

トホ妻 「たとえば、第一幕の前奏曲の途中で幕が開くと、舞台にはエルザが立ってるのよ。そこにオルトルートが来る。で、エルザの髪やら頬やらをナデナデする…」

いわんや「別に髪やホッペタくらいナデたからって…」

トホ妻 「腕とかもナデナデ…」

いわんや「別に腕くらい…」

トホ妻 「ムネもナデナデ…」

いわんや「おおっ(←単純)」

トホ妻 「で、そのままオルトルートがエルザにキスしようとする…」

いわんや「おおおっ、それはヤバい(←単純)」

トホ妻 「そこでは一応エルザちゃんは動揺しつつキスを拒むんだけどね。ま、そういう感じの女の愛欲劇があの美しい前奏曲をバックに繰り広げられるわけよ(笑)」

いわんや「はぁー…つまり、あの二人はレズ子ちゃんなのであるってことが、かなりハッキリと提示されるわけだ」

トホ妻 「第二幕でオルトルートが甘いこと言ってエルザに取り入ろうとする時はもっとスゴいことしてたよ。そこではオルトルートはエルザにキスしてたね」

いわんや「おおっ、しちゃったか、うーむ、そりゃマズい…」

トホ妻 「非常にわかりやすい演出だったと思うよ」

いわんや「しかしまぁ『二人はレズ子ちゃん』っていう設定はアリかもな。オレが観た舞台でもエルザの心をガッチリ把握してるのはけっきょく魔女・オルトルートであるっていう感じだったもんな」

トホ妻 「レズっていう考えは以前からあったと思うよ。あそこまでハッキリ示さなかっただけで。でもそう考えると初夜のシーンもスンナリ…」

いわんや「そうか…エルザはレズなわけだから、ローエングリンとの初夜が実はイヤだった(笑)」

トホ妻 「…という解釈も成り立つ(笑)」

いわんや「初夜だっつーのにエルザがギャアギャア言って結局ベッドインしなかったのは、オルトルートの口車に乗せられたからじゃなくて、レズだから単に男とシたくなかったと…ひええ」

トホ妻 「そう考えると、オルトルートがエルザの結婚式を邪魔するあたりもわかりやすいよ」

いわんや「う〜む…シたい男とシたくない女の結婚初夜の攻防と考えると第三幕の見方もちょっと変わってくるよなぁ…う〜む」

トホ妻 「でもさぁ、ローエングリンは一応聖なる騎士なわけだしさ、女とシたがるだけの男じゃ困るよ(笑)。むしろあんまり感情移入させないくらいの感じじゃないと…」

いわんや「いやしかし…初夜があんなじゃ…ローエングリンも落ち込むべ…(←感情移入してる)」

 本の…いや、おそらく世界中の結婚式や披露宴において、メンデルスゾーンの結婚行進曲と並んでワーグナー作曲・ローエングリン第三幕冒頭の結婚行進曲は頻繁に使われているはずでございます。しかしこの結婚行進曲にのって初夜の寝室に入ってきたエルザとローエングリンは結局ナニもせぬまま(いや、別にレズだからというわけではないにせよ)、翌日には永遠に別れるわけでございまして、実はけっこう「縁起でもない曲」なのでございます。それでもこれだけポピュラーになるあたり、さすがは天才・ワーグナーと申すべきなのでございましょうねぇ…本人はエロジジイでしたが。

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