★運命の力

 日、トホ妻帝国掲示板でも「メチャクチャな話のオペラ」として言及した「運命の力」。作曲者は「アイーダ」と同じくヴェルディでございます。名曲が数多く散りばめられたオペラではございますが、ストーリーはもう本当にスゴい御都合主義なのでございます。そこで、今回は「運命の力」の実演をNHKホールで我々が初めて観た時の会話を、3部構成で掲載致しました。「運命の力」を御存知ない方も多うございましょうが、そのメチャクチャぶりの雰囲気だけでも伝われば…と思うのでございます。

対談part1: NHKホール客席にて(『運命の力』開演前)

いわんや「オレ、『運命の力』ってあんまりストーリーを知らないんだよなぁ…」

トホ妻 「これ、話はけっこうイイカゲンなのよ。主人公は実はインカ帝国の王族の末裔だったとか言っちゃってさぁ」

いわんや「とにかく、最後に主人公は恋人のお兄さんを殺すんだろ?」

トホ妻 「うん…でも確かその前に主人公は修道院に入るんじゃなかったかなぁ…」

いわんや「修道士になった上で人殺しすんのか?けっこうひでぇな、それって…」

トホ妻 「でもさ、今日の公演は“初演版”でやるって書いてあるから、もしかするとストーリーも普通のバージョンとはちょっと違うのかも」

いわんや「う〜ん…ま、いいや。見てりゃわかるだろ」

トホ妻 「まぁね…」

「運命の力」公演始まる。第2幕終了でいったん休憩。

対談part2: NHKホール・ロビーにて(『運命の力』休憩中)

いわんや「……………」

トホ妻 「……………」

いわんや「……何だ?ありゃ?……早くも主人公はお兄さん殺しちゃったじゃんか」

トホ妻 「殺しちゃったね(笑)。そうすると、この後の話はどうなるんだろ?お兄さんは本来はラストで殺されなきゃいけないはずなんだけどなぁ…」

いわんや「でも主人公はやっぱ修道院には行くみたいだぞ。さっきそう歌ってただろ?」

トホ妻 「歌ってた…と思うよ。何だかもうよくわかんないけど(笑)」

いわんや「話の展開がスゴいわな。“ああ、ボクはお兄さんを殺してしまった!この際ボクも自殺しよう!あっ!でも進軍ラッパが鳴ってるから戦場で男らしく戦って死のう!でも、もし生き残っちゃったら修道院に入ろう!”ってさ…歌詞の内容はほとんど分裂病だぜ(笑)」

トホ妻 「あれにはアタシもびっくりしたよ。一瞬のうちにすごい心境の変化だよね(笑)…ま、これで第3幕は生き残ったアイツが修道院にいるところから始まるんだろうけどさぁ…」

いわんや「動機も必然性もヘッタクレもなくてさ、とにかく歌詞だけでムリヤリ話を展開させてるって感じだよな。いやスゲェわ…聞きしに優る御都合主義(笑)」

トホ妻 「しかしさぁ…お兄さん殺しちゃって、このあとの話の展開どうすんだろ…?確かお兄さんと妹がラスト直前で再会するはずなんだけどなぁ…何しろ“初演版”なんて知らないもんねぇ。こっから先は完全な“手探り状態”だね(笑)」

いわんや「死んだお兄さんが生き返る…いや、実はお兄さんは死んでなかったとか…」

トホ妻 「でも、ありゃどう見ても死んでたよ!あれでお兄さんは実は生きてましたなんてことになったら、自殺だ戦場だ修道院だぁ〜ッて大騒ぎしていた主人公はほとんどバカだよ(笑)」

いわんや「そうだわなぁ…あそこまでギャーギャー騒いだ揚げ句に“実は死んでませんでした”なんてことになったら、ハッキリ言って俺は怒るぜ」

トホ妻 「まぁどうなることかね…そろそろ席に戻ろ」

「運命の力」公演終了…。

対談part3: NHKホールから渋谷駅まで歩きながら

いわんや「………………ううう〜んん………」

トホ妻 「………やっぱ、実は死んでなかったね。はははは…」

いわんや「何じゃ?ありゃ…死んだはずが実は生きていて、同じ男ともう一度決闘してもう一度殺されて…今度こそ本当に死んだのか?…もうこのオペラに関しちゃ何も信用できないぞオレは」

トホ妻 「今度こそ死んだはずよ(笑)。少なくとも幕が閉まるまでは死んでたじゃん(笑)」

いわんや「メチャクチャなラストだったよなぁ…お兄ちゃんは妹の恋人にもう一度殺されながら、死ぬ間際に自分の妹を殺し、彼女が殺されたショックでその恋人はガケから身投げ…みんな一斉に死んで阿鼻叫喚のうちに幕…って、そんな話オレなら思いついた瞬間にボツにしてるぞ」

トホ妻 「まぁしょうがないわよ。オペラなんて大体そんなもんなんだから…」

いわんや「……ううう〜ん……それにしたって…あんなのアリかぁ?…」

トホ妻 「それよりさ、アタシよくわかんないんだけど、あのジプシー女が出てきて皆でワンワン歌うところがあったじゃない?あれ、本筋のストーリーと何か関係あんの?」

いわんや「……いや……たぶん関係ないわな…何だったんだ?ありゃ…(笑)」

トホ妻 「でしょ?何の関係もないよね、アレ。ちょっと気分変えてこんな場面でも入れてみましょうかって感じで、後から付け足したとしか思えないよね(笑)」

いわんや「付け足してもいいよ。この際それは許す。しかしあそこまでハッキリ死んでみせた兄ちゃんが実は死んでませんでしたってのはオレは許せないぞ」

トホ妻 「いいじゃないよ、世界中のオペラファンは許してるんだから。アナタももっと寛大になりなさいよ…しかしまぁスゴいオペラだったねぇ…」

いわんや「あ〜あ、ビックリしすぎて腹減っちまったよ(笑)…何か食おうぜ」

 にかく、あまりのスゴい展開に唖然としてしまうような話でございました。とは申せ、この「運命の力」はヴェルディの傑作オペラの一つに数えられているのもまた事実でございまして、要するにオペラなんてモノは大なり小なり御都合主義的かつ荒唐無稽なモノなのだと申せましょう。「オペラは堅苦しそうだし、ちょっとなぁ…」とお考えの方も、このスーパー御都合主義オペラ「運命の力」あたりを御覧になれば、たちまち「オペラなんてアホやん」という境地に達してしまうはずでございます。

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