バリ島トホホ紀行その4. 

伝統舞踊と伝統工芸の華麗にしてトホホな世界

 て、我々が最初の3日間を過ごしたウブドという村は毎晩数カ所で様々なバリ舞踊の公演がある芸術村でございまして、我々がバリ2晩目にさっそく出向いたのはケチャック・ダンスの公演。大型ホテルのディナーショーなどで演じられるものと違って村の寺院や集会場などで催される本格派。ところがホテルの車でケチャック・ダンスの会場まで送ってもらおうとしたら外はドシャ降り。スペインで雨のために闘牛を見損ねた悪夢が思い出されて不安になったのですが、ジュウボクズの一人に「雨だけど大丈夫?」と聞いてみると「ノー・プロブレム(問題ありません)」ふーん…どんな会場なんだ?

 砂降りで全ての道が川のようになったウブドの村にあるケチャックダンス会場は…半屋外とでも申しましょうか、屋根と柱はあるけど壁はないという構造の集会場。薄暗い天井を見上げればコウモリが一匹飛び交い、怪しい南国の夜のムードが漂っております。やがて会場の中央にはロウソクをたくさん立てた燭台が立てられ、いよいよ始まるぞ。ワクワク…。

 奏を一切用いず、「チャッチャッチャッ!」という男たちのかけ声だけで盛り上げる一種独特なコーラス?で有名なケチャック・ダンス。テレビなどで御覧になられた方も多いでしょうが、さすがに本場・実物の迫力は素晴らしいものがございました。ケチャックダンスと言えば「チャッチャッチャッ!」が有名ですが、実際には王子様やお姫様などの華麗なダンサーも登場して見ごたえ十分。実にエキサイティングな経験でございました。

ケチャック・ダンスコーラス隊?の勇姿。

 チャック・ダンスに続いて行われたファイアー・ダンスというのがこれまたすごい。ヤシの実のカラで大きな焚き火をつくり、クスブる燃え殻を裸足で踏みしめたり蹴飛ばしたり…あ、熱くないのかよ?足の裏コゲてるぞオイ…。照明を落として真っ暗になった会場に真っ赤な火の粉や燃え殻が飛び散る(その多くは観客の足元にまで飛んで来る)その光景は呪術的なムードも濃厚で、いや〜堪能させて頂きました。スゴいぞ、バリ舞踊。

 れですっかり味をしめた我々。勢いに乗って翌日はワヤン・クリッと呼ばれる人形影絵芝居を観に行こうと計画。「私達は今夜ワヤン・クリッを見に行くであろう。終わったら車でピックアップを頼みたと思う」とヘタな英語でジュウボクズに頼むと「OK。ワヤン・クリッは9時頃終わるから会場前にいて下さい。お迎えにあがります」という調子で夜のお迎えの手配もスムーズに完了。何の心配もなく昼間ウブド観光を楽しみ、夕方頃に歩いてワヤン・クリッの会場に赴いたのでございました。

 んや?人が全然いない…まだ早過ぎるか。でもチケットだけ先に買っておいて…と思って受付らしきテーブルに行くと、そこにいた少年がワタクシの方に歩いて来て「チケット・ノー・セール」と言うではございませんか。え?チケット売ってないの?と怪訝そうな顔をしていると、少年は続けて「ダラン・イズ・シック(ダランは病気です)」と答えますが…ちょっと待て、ダランって何さ?だらん?…ここでガイドブックを読んだ時の記憶が電光のように蘇ってきました。ダランって確か人形影絵芝居の、その人形使いのコトじゃなかったっけ?

 はぁ…つまり人形使いが病気だから今日の公演はとりやめってこと?と思ってワタクシが右手を曲げて枕に頭を乗せるジェスチャーをして「シック?(病気?)キャンセル?(中止?)」と確認すると少年ケラケラ笑ってうなずきます。わーい、ちゃんと意思の疎通が出来てるよ。ははは…はは…トホホ。セビリヤの闘牛といい、バリの影絵芝居といい、何でいつもこうなの?我々は落胆してウブドで晩メシを食い、ホテルに戻って迎えは必要無くなったことをフロントに伝えて部屋に戻ったのでございました。ぢぎじょー。

 かしここで泣き寝入り?する我々ではございません。さっそく高級ホテルの高級バーで代案を検討し、翌日の朝に少し早起きして、別の村で催されるバロン・ダンスの公演に行こうと決めたのでございます。この「バトゥ・ブラン村の朝のバロン・ダンス」はガイドブックなどにはほとんど記載されておりませんが地元では有名なものらしく、ジュウボクズのひとりが「あそこのバロン・ダンスはいい。ぜひ御覧なさい」と推奨してくれたものなのでございます。明日の昼にはこのホテルをチェック・アウトしてビーチのホテルに移動するわけですが、こうなったらチェック・アウト前の午前中に賭けてやる!

 して迎えた翌日の朝。8時にホテルを出て車で20分ほどのバロン・ダンス会場へ。バロン・ダンスと申しますのはガムラン音楽の伴奏がついた伝統舞踊でございまして、獅子舞そっくりのバロンをはじめとして華麗な踊りとコミカルなパントマイムが組み合わされた伝統舞踊。バリ舞踊に限らずダンスというと何となく夜観るものというイメージがございますが、朝の光の中で観るバロン・ダンスというのが、これがまた実に新鮮で美しい。うーむ、余は満足じゃ。

 だチェック・アウトの時間までは多少余裕があったので、送迎のジュウボクズはちょっと寄り道をして我々をバリ伝統工芸・木工細工の工房見学に連れて行ってくれたのでございます。この工房は木工細工のショップも兼ねていて、土産物を買う観光客の姿もたくさん見られます。到着した我々にはさっそく「工房ガイド兼工芸品営業マン」とでも言うべきオジサンがついてくれたのですが、このオジサン、何となくアメリカの俳優ゲイリー・オールドマンに似てるように思えて仕方がない。

 本語も少し喋れるゲイリー・オールドマン氏、木彫の材料などについていろいろ説明してくれます。「コレ、ビャクダンノキ」ほ〜、白檀の木か…「コレハ、コクタンノキ」ほほ〜、黒檀ね、なるほどなるほど…「コレ、ワニノキ」…今なんて言った?ワニの木?「わに?」とワタクシが顔の前で腕をパカパカさせてワニのマネをするとなぜかゲイリー・オールドマン氏大笑い。ダランの病気のマネをしたらケラケラ笑ったチケット少年といい、バリの人にはアホなジェスチャーが受けるのか?

 ニのマネなんかする軽いヤツと思って親近感を持ったのか、このゲイリー・オールドマン氏とワタクシはけっこう仲良くなりまして、ひとしきり見学や買い物が済んだあと庭で一緒にタバコを吸いながらいろいろ雑談しておったのでございます。ところが、トホ妻が他の木彫作品を見にちょっといなくなったのを確認するとゲイリー・オールドマン氏、突然ある木彫作品を指さして含み笑いしながら「コレ、バリ・サイズネ」と言い出すではございませんか。「え?何が?…おお!こ、これは…!ぎゃはははは!日本人もっと小さいよ。はははは!」「ワッハハハハハ…!」

 ったくもう…洋の東西を問わず、バカな男どもの間で交わされるヨタ話は同じでございますねぇ。このゲイリー・オールドマン氏、よほどこの「バリ・サイズ」が気に入ってると見えて最後にはワタクシと一緒にこの前で記念写真を撮ろうと言い出しまして、大笑いしながらトホ妻にシャッターを押してもらったのが下の写真でございます。なお、青少年教育上の観点から下の写真では問題の「バリ・サイズ」そのものは切り取っておりますが…。え?切り取る前の写真を御覧になりたい?ワタクシまで直接メールで御請求頂ければ…後日「○○サンが写真を見たいと請求してきました」と言いふらします(笑)。

いわんやの後ろに屹立するのが問題の「バリ・サイズ」。

 んなバカなことをしつつホテルに戻って、チェックアウト。そこから今度は旅行代理店の手配した車に乗ってバリ島最後の一泊を過ごすヌサ・ドゥアというところにあるビーチのホテルに移動したわけでございます。もちろん、このビーチのホテルも同じ系列のチョ〜高級ホテル。ギョッとするほどキレイな室内、一部のスキもないジュウボクズたちのホスピタリティ…しかしこの楽園の如きバリ滞在も最後の一泊を迎えてしまったわけで…あ〜あ、ホント、短い旅…。  

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