バリ島トホホ紀行その5. 

高級リゾート・ジュウボクズとの静かな戦い

 級ビーチリゾートホテルで迎えた朝。今日の夜には飛行機に乗らなければなりません。とにかくまず午前中のうちにビーチに出てみようではないか、ということで我々は朝食もソコソコに浜辺へ。生まれて初めて見るインド洋でございます。バリ島と隣のロンボク島の間の海はアジア動植物体系とオセアニア動植物体系を分ける「ウォーレス線」が通っていることでも有名な場所。うーむ…感慨深いのぅ。

 テルのプライベート・ビーチにはほとんど客がおらず、いわんや家専用ビーチかと見まごうばかり。客より圧倒的に人数の多いジュウボクズがさっそく我々専用のアズマヤをセッティングしたり「何かお飲み物は?」と聞いてきたり、寄ってたかってという感じで世話を焼いてくれます。「浜辺でデッキチェアに寝転びながら冷たいドリンク」というのは南国リゾートの象徴ともいえるスタイルでございますが、実際にソレを自分で体験したのなんて生まれて初めてでございます。ビーチサンダルはいて海の家のクソ高い缶コーラを買いに行ってたいわんやが…ああ、こんなことがあっていいのか。

いわんや家専用ビーチ。皆様ぜひ一度おこし下さい。

 かしこれは今日に限ったことではございません。とにかくバリに滞在している間じゅう、この「ジュウボクズたちが寄ってたかって…」という状態はずっと続いていたわけでございまして、プールにフラッと足を運べばたちまちデッキチェアにタオルが敷かれ、何も言わずとも氷のいっぱい入ったミネラル・ウォーターが置かれ、ちょっと泳いで戻ってみればさっき身体をふいたバスタオルがいつの間にかキチンとたたまれてる!…「な、なにもそこまで」と恐縮してしまいますが、ここで恐縮しているようではダメ。鷹揚とした態度で「サンキュ」と挨拶してこそ高級リゾートの客…うう、ビンボが染み付いちまったオラにゃそんなことムリだス。

 えばですよ?ワタクシがレストランで食事しながらビールを飲んでいる。ロンググラスに入ったビールを飲み干して…「もう一杯飲もうかな」「大丈夫。何もしなくてもあと10秒以内にジュボクズが来てお代わりは?って言ってくると見たね」という我々の会話が終わるか終わらぬかのうちに女性ジュウボクズが音もなくテーブルに寄って来て「お済みですか?お代わりは?」…10秒もかかっとらん…ま、負けた。

 えばですよ?そうやって我々がレストランでメシを食って部屋に戻ってみると…おお、もう部屋は片付けられてる。エステに行って戻ってみると…ま、また部屋は片付けられてる!そんな調子でちょっと街を観光して戻って来れば片付けられてる、バーで一杯やってる間にも片付けられてる…いったい一日に何度片付ければ満足するんだジュウボクズ?!「アタシたちがレストランとかに行くとサッと掃除担当ジュウボクズに指令が飛ぶのかな?」「…かもな。しかしさ、普通なら部屋掃除って順々にやるはずなのに、ココは常にフリーのジュウボクズ・お掃除隊が今か今かと待ち構えてるとしか思えん…」

 チャック・ダンスを観に行った夜は前にも書きましたようにウブドの村は土砂降りが上がったばかりで全ての道は川のようになっていたのですが、ワタクシがチケットを買っている間、ジュウボクズから会場への行き方の説明を受けていたトホ妻があとで言うには…「会場に行く道がちょっと上り坂でジャバジャバ水が流れてたじゃない?このサンダルだと濡れるなぁ…と思ってたらさ、あのジュウボクズのニイちゃん、ほとんどアタシをオンブしそうな勢いでさぁ(笑)、もう慌てて断ったわよ」

 んなある日、せっかくウエルカム・フルーツがこんなにテンコ盛りになってるんだから少し食ってみるか、と思って手近なオレンジを一つ手に取ったら…次の瞬間、きれいに盛られたフルーツの山はたちまちガラガラと崩壊し、しかも崩れ落ちたマンゴーか何かがテーブル上の灰皿をはじき飛ばして、ツルツルの高級床に落ちた高級灰皿は粉々!!…と目をつぶったら奇跡的に灰皿は椅子のクッションの上で止まり、破局的事態は辛うじて回避…ぜぇ、ぜぇ…。この不始末の掃除をジュウボクズに頼むなんて小心な我々に出来るはずもなく、自分たちでオロオロと飛び散った煙草の灰を新聞紙の上に集め、テラスに出てハタハタと証拠隠滅。慣れないことをするものではございませんねぇ…。

 せ相手は世界の上流階級やセレブリティに接し慣れたジュウボクズ。日本代表としてあまりブザマな姿は見せられませぬ。しかし、少なくとも観光に関してはヘンに遠慮する必要は全くございません。「お客にバリを楽しんでもらいたい」というジュウボクズたちの意識徹底ぶりはまったく大したもので、実際、我々はこのホテルに滞在中に何度も「バリはいかがですか?」「何か御覧になりたいモノは?」といった調子でよく尋ねられたものでございます。何か見たいものがあったり行きたいところがあればどんどんジュウボクズに相談することをお勧め致します。ワヤン・クリッの人形使いが病気で公演が中止になった時など、ジュウボクズたちはみんなワガコトのようにガッカリし、残念がってくれたものでございまして、本当に性格の良い人達ばかりでございました…。

 かしこんな楽園の如き日々もアッと言う間に終了。午前中ビーチに行ったその日の夜には我々は早くも機上のヒトでございます。あーッ!帰りたくないーッ!!…と言いつつ10月12日の夜にイヤイヤ現地を発って、ジャカルタ経由で翌13日土曜日の朝に成田に帰ってきたわけでございます。ちなみに、バリ→ジャカルタ間は空席が目立った飛行機もジャカルタからはワサワサと人が乗り込んで満席。折しもジャカルタではアフガン空爆に刺激された反米デモなどが騒がれていた時期でございまして、現地から一時“避難”する駐在員なども多かったのではないかと推測されます。

 あ…そんな緊迫する世界情勢からも、大っ嫌いな仕事からも、一切隔絶された夢のごとき4泊6日。こうして旅行記を書いている今はすっかり仕事に疲れた東京の中年サラリーマンに戻ってしまったワタクシ、半月前にはバリにいたことが信じられない気分でございます。そう言えばワタクシは現地の方から2度ほど「ニホンジンジャナイミタイ」と言われまして、一度は「イタリアジンミタイ」、一度は「バリジンミタイヨ」という評価を受けております。実はワタクシ、東京にいる方が間違っているのでは…?

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