イスタンブールトホホ紀行その4. 

●海外床屋フェチの次は風呂屋フェチ?

 て、過去のスペインあるいはバリ旅行記などをすでにお読みで、ワタクシいわんやの「海外旅行時の性癖」を御存知の方であればここで当然の疑問をお持ちのはずでございます。その疑問と申しますのは「海外床屋フェチのいわんやは、イスタンブールでも現地の床屋に行ったのか?」という疑問でございますが、結論から申し上げますと、はい、床屋にはちゃんと行きました。しかも今回はオヤジと2人での海外床屋制覇でございまして、ワタクシにとっては11ケ所目、オヤジにとっては(たぶん)生まれて初めての海外床屋経験になるわけでございますが、それに致しましてもオヤジと一緒に床屋に行くなんて…ワタクシの保育園児以来のデキゴトかも…。

 スタンブールという街はワタクシが床屋を経験した他の海外の街と較べても明らかに床屋が多く、ホテルの周囲だけでもすぐに3軒くらい発見したのですが、この中のドレに行くかとなると…まぁオヤジと二人で行くわけですからとりあえず一番広そうな、椅子が3つある床屋にするか、というわけで、イスタンブール滞在2日目、ブルー・モスクから帰ってホテルでひと休み中に、ワタクシとオヤジだけはノソノソとホテルを出て、かねて目星をつけておいたその床屋にエイヤと突入したのでございました。

我々が行った床屋の外観。看板がイイですねー。

 ヤジの調髪を担当致しましたのは上の写真にも写っているニイちゃんでございまして、ワタクシの頭はもっと若い、二十歳ソコソコと思われる青年が担当。言葉も通じないわけですから、髪を刈られている間のワタクシは鏡に写ったワタクシの頭を刈るニイチャンを眺めていたわけですが、この青年、なかなかプロ意識が強そうで、とにかくワタクシの髪を刈っている時の顔がものすごく真剣です。調髪にかける時間もスペインの床屋などよりも長く、全体に非常に丁寧な仕事ぶりだったと申せましょう。ちなみに、散髪のみでシャンプーもヒゲ剃りもなしで料金は10トルコリラ(約900円くらい)。妥当な金額ではないかと存じます。

 なみに、この床屋はホテルのすぐ近くでございまして、後日この店の前を通ることが何度もあったのですが、彼らにすれば言葉も通じないのに突然やって来たヘンな外国人客と思って印象に残ったのか、見覚えがあるワタクシとオヤジがその店の前を通ると、わざわざ手を振って挨拶してくれたり致しまして、なかなかフレンドリーなイスタンブールの床屋でございました。

 て、普通の海外旅行であれば床屋に行けば「よしよし」と満足するワタクシですが、今回は違います。何しろここはトルコのイスタンブール。せっかくここまで来たのなら、話にだけ聞く本場のトルコ風呂「ハマム」を体験せずにオメオメ帰れましょうや!ハマムに関してはトルコのガイドブックはもちろん、一般書籍などでも紹介されたものが幾つかございますが、中でも有名なのは椎名誠氏が書いた体験記。これはワタクシが読んだモノの中では最も詳細なハマム紹介文献ではないかと思いますが、今回ワタクシは「ネットに発表されたモノの中では最も詳細なハマム詳細サイト」目指して、その実態を記述してみたいと存じます。

 名誠氏の本はワタクシも父親も読んでおりましたから「プロレスラーのようなムクツケき三助が現れ」「ギタギタにされるらしい」ということは分かっておりましたが、我々が行くとなるとオフクロ&トホ妻の御婦人軍団も「アタシたちも行く」ということになりまして、昼はボスポラス海峡クルーズ、夜はナイトクラブでベリーダンスというハードな一日を送った翌日の午前中にハマム突入決行予定が組まれ、どうせ行くなら立派なところにしよう、というわけで観光客向けとしてよく紹介されているハマムに狙いを定めたわけでございます。

 のハマム、ガイドブックによればイスタンブールを代表する立派なハマムで、その歴史は300年以上。かつてはエドワード8世やヴィルヘルム2世、フランツ・リストやナイチンゲールといったセレブたちも汗を流したと言われるトコロらしいのですが、入り口の階段を降りようとすると…うおお!タオルを引っ掛けたマネキン人形なんぞが我々を迎えてくれるではございませんか。何となくサビレ果てた最果て温泉地の共同浴場という雰囲気が漂ってまいりますが…こ、これ、ホントに300年の歴史を誇る立派なハマムなのぉ〜??

何となく周囲の目を気にしながら撮影した入り口マネキン人形

 ず中に入ると料金所がございます。ここで「どのコース」を選択するかを決め(日本語メニューあり)、料金を払うわけでございまして、ワタクシは「入浴+マッサージ」、オヤジは「入浴+アカスリ」、オフクロとトホ妻は「入浴+アカスリ+マッサージ」という豪華コースを選択したわけですが、豪華コースになりますと料金も20ユーロ(トルコリラじゃございません)。約3000円くらいするわけで、入り口にショボいマネキンなんて置いてるクセに料金設定だけは「歴史を誇る立派なハマム」っぽいじゃねぇか、このやろう。

 にハマムのお作法の説明が英語で。「入ったらタオルを渡される。帰りには別のタオルを渡される。アカスリにはこういう布を使う」とか何とか、そんな話を聞いたあと、いよいよ男女別れて着替え。個室に入り、全裸になって最初に渡されたタオルを腰に巻き、支給のサンダルをカラコロ言わせて奥のトビラを開けると、早くもそこは熱気うずまくハマムの心臓部。真ん中に大理石の巨大な熱い台?がございまして、上を見上げるとドーム天井に刻まれた小さな窓から日が射し込んで、まことに神秘的なムード。おおおお。

 りあえず脇にある小部屋サウナで待機せよ、と言われた(と思う)ので、入ってみるとそこにはすでに何人かの先客が同じようにタオルを腰に巻いて汗をかいております。このハマムの中というのは日本のサウナのように「うわアッチぃ!」というほどの温度ではないのですが、じ〜っくりと蒸される感じでたちまち身体は汗ビッショリになってまいります。この小部屋がまぁ言うなればトルコ三助にギタギタにされる、屠殺前の家畜の控え室といったところでしょうか…。

 がて、ヒゲを生やした三助氏がワタクシとオヤジを呼びます。サンダルをカラコロと大理石に響かせて小部屋を出ると、オヤジは床に座らされ、三助氏はザンブザンブとオヤジの頭から小型洗面器で何杯もナマぬるい水をぶっかけ、アカスリをはめた手で「パーンッ!」と勢いよく背中をたたくと一気にアカスリ攻撃スタート。あの…ボクのパパはもう78才のオールド・マンだからその…お、お手柔らかに…とでも言うべきだろうか?と考える間もあらばこそ。もう一人の三助氏が「オラ、おまえコッチ」とワタクシを呼び、中央の大理石製巨大熱い台?に横になるように命じたのでございます。お、おとうさん、じゃあね…。

 名誠氏の著作である程度予想はしてたとは申せ、確かにマッサージはなかなか強烈でございました。お約束の「手のひらで背中パーンッ!」を合図に、うつ伏せになったワタクシの背中にいきなりのワシづかみモミあげ攻撃がサクレツ。黙っていようと思ってもつい「あッぐ!」「うぐー!」という悲鳴?が漏れてしまいます。三助氏はワタクシの悲鳴を聞くと「でぁ〜!」「だぁ〜っはっはっは!」と気合いの笑みを漏らしながら大変御満足の様子で反復攻撃。こうなるともう自分の父親がその後どうなったのかを見る余裕もございません。

 のマッサージなどは片手でワタクシの腕を持ち上げてグイグイ揉むわけで、これ自体はまぁ大丈夫なのですが、最後に三助氏は自分の指とワタクシの指をからませるとグイッと手首を返して…「ピャキパコピキッ!」と指の関節が鳴り、ワタクシが「あぎうーーッ!」と悲鳴をあげるとますます御満足の様子で、嬉しそうに反対側の腕の攻撃に着手。同様に、足のマッサージの時も腿・フクラハギからだんだん下におりて行って、最後に足の指を手のひらでグイッ!…「バコビキッ!」「いうーーーッ!!」「ぐっはっはっは!」…ワタクシの悲鳴も三助氏の高笑いもハマムのドーム内に反響して、凄惨な音響効果バツグンでございます。

 うやくマッサージが終わったら、熱い台を降りて床のヘリのところ座れと命じられます。するとさっきオヤジがやられたように頭からザンブザンブと生ぬるい水をぶっかけられ、巨大スポンジでザッと身体を洗ってもらい、それが済むとまた頭からザンブザンブ…。これで一応終わったようでございます。い、意外に短かったな…ハァハァ。ワタクシの横でズブ濡れボロ人形のように打ちひしがれているオヤジに声をかけて更衣室に戻ることに致しました。途中で乾いた大きなタオルを2枚渡してくれて、それで身体を拭きつつ、最初にもらってすでにビショ濡れのタオルは預けてしまう、というシステムのようでございまして、乾いたタオルにくるまって最初に着替えた個室に戻るというわけでございます。

 室には小さいながらもベッドもございます。どうせ女性軍はアカスリ+マッサージの豪華コース。オレたちの方が早いだろうから、この個室で少し休んで、汗がひいてから出ようとオヤジと話したのですが、とにかくまぁいつまで待っても汗がひかない。まさに身体の芯から温まってしまったような感じで、「ハマムってのは夏よりも、寒い冬に入ると最高なんじゃなかろうか」と思ってしまいます。もっともイスタンブールは冬でもわりと暖かいのでしょうが、誰か日本に冬期限定営業のハマムを作ってくれないかなぁ…。いやいや。本場のトルコ風呂・ハマム、楽しませて頂きました。次に来ることがあったら、もうちょっと料金の安い“さほど立派じゃないハマム”にも行ってみたいものでございます。

着替え用個室はこんな感じ。わりとキレイ。

 マムを出たワタクシと父が外のカフェで“風呂あがりのビール”を飲んで休んでいると、やがて女性軍も合流してまいりました。話を聞くと女性用のハマムは当然オバサンがマッサージしてくれるそうで、男性ほどハードなマッサージでもなく、なかなか快適だったようでございますから、この旅行記をお読みの方がもし今後トルコに行かれることがあったら、男性はもちろん女性も積極的にハマムを体験してみることをお勧め致します。

 の後はすでにおなじみ“ムニュムニュの波止場”の近くにあるエジプシャン・バザールでちょいと土産物などを購入。イスタンブールは何と申しましても「グラン・バザール」が有名ですが、あそこは土産物に値札もなく、掛値も甚だしい場所。イスタンブールでお馴染みの目玉キーホルダーの値段をグラン・バザールで尋ねたら「1個5リラ」だったものが、エジプシャン・バザールでは「2個で1リラ」。土産物を買うなら「イスタンブールのアメ横」と我々が勝手に名付けたエジプシャン・バザールの方がよろしいのではないかと存じます。

エジプシャン・バザールにはこんなスパイスやお茶の店もいっぱい

 曜の夜に着き、土曜の午後に出発するイスタンブール1週間滞在もすでに木曜。とりあえず床屋や風呂屋にも行ったし、土産物も買ったし、さてお父さん、明日どこかぜひ行きたい所ある?と聞いてみると…え?軍事博物館に行きたい?ああ、あのオスマントルコ軍楽隊の生演奏を聞かせてくれるっていうアソコ。ところで、ソレって一体ドコにあるの?というわけで、旅行も終盤に差し掛かってもホッとするどころか、「ツアコンいわんや」は夜もホテルのベッドでガイドブックや地図を必死に調べ、明日の行動予定や移動ルートなどの設定に頭を悩ませる夜が続くのでございました…。

  

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