イスタンブールトホホ紀行その5. 

●阿修羅のごとくトルコ軍楽隊を聞く

 て皆様、向田邦子原作の「阿修羅のごとく」というドラマ、最近封切られた映画版の方ではなく、もう25年くらい前にNHKで放送されたドラマの方を御記憶の方はいらっしゃいますでしょうか。八千草薫や加藤治子、いしだあゆみ、風吹ジュンなどが出た、NHKドラマ史上でも名作の誉れ高い作品でございますが、あのドラマを御記憶の方であれば、極めて印象的なBGMもあわせて覚えておられる方が多いのではないかと存じます。実はあのBGMこそがオスマン・トルコが誇った世界最古の軍楽隊「メフテル」の演奏でございまして、「阿修羅のごとく」というドラマが日本にトルコ軍楽隊の音楽を紹介する上で果たした先駆的役割はものすごく大きいと言わざるを得ません。

 ちど聞いたら忘れない、何とも言えず印象的な音楽を奏でるこのオスマン・トルコ軍楽隊演奏。イスタンブールでは週に一度、トプカピ宮殿の庭で演奏される他、軍事博物館というところでは毎日演奏されるらしゅうございます。しかもこの軍事博物館には、かつてビザンチン帝国の都であったコンスタンティノープルがトルコ軍に包囲された時、トルコ海軍の戦艦侵入を防ぐために金角湾の入り口を封鎖するのに使ったという巨大な鎖が展示されているそうでございまして、塩野七生の「コンスタンティノープル陥落」にすっかり影響されているオヤジは「このクサリが見たい、軍楽隊を聞きたい」と所望してきたわけでございます。

 マムに行った翌日の金曜日。炎天下の中をタクシーに乗って行きましたですよ軍事博物館。ここは軍事関連の博物館としては世界でも屈指の展示規模を誇る博物館だそうでございまして、ガイドブックなどの紹介は比較的小さく扱われておりますが、中の広さと展示量にはビックリ致しました。確かに、あまり御婦人向けの博物館とは言えないかも知れませぬが、トホ妻やオフクロもなかなか面白がって見ておりました。もっともワタクシは何せ下僕。軍楽隊の演奏場所や開始時間を確認するのに奔走し、それを知らせるために今度は両親やトホ妻を探して広い館内を奔走し…あああ。

これがモンダイの金角湾を封鎖した巨大クサリ。いや確かにデカかった。

 「クサリ目当て」でこの軍事博物館を訪れる観光客は少ないでしょうが、トルコ軍楽隊の生演奏目当てで来る人は多い、と言うよりほとんどがソレ目当てと言う方が正確かも知れませぬ。ワタクシはすでにイスタンブール訪問が決まるずっと前からトルコ軍楽隊の演奏CDをiPodに入れて愛聴しておったくらいでございまして、当時そのままのコスチュームによる生演奏を聞いた時は感激致しました。ドラマ「阿修羅のごとく」にも使われた「ジェディッン・デデン」という曲が最も知られておりますが、その他にも何曲か演奏がございまして、その中に日本の「さくらさくら」がメロディーも歌詞もオリジナルのまま出て来たのには驚きました。日本人以外の観光客は「これもトルコの曲なんだ〜」と思って聞いていたでしょうが、我々だけはビックリ仰天でございます。あれはひょっとすると日露戦争の勝利を祝して日本の曲を導入したのかな…??

写真をクリックすると演奏のMIDIが聞こえてきま……せん

 事博物館からタクシーでホテルに帰ってきて、さて晩飯までひと休み…とは言ったものの、今日は金曜日。明日の午後はもう日本に帰る飛行機の中でございます。イスタンブール滞在最後の夕暮れ風景を見ずにノンビリ昼寝なんかしてられっかい!というわけで、ボロワタのように疲れた身体にムチ打ってワタクシ一人、阿修羅のごとくムニュムニュの波止場まで散歩に行って参りました。あちこち写真を撮ったり、激甘トルコスウィーツを食ってのんびりお茶を飲んだり、滞在最後の日にようやく、束の間の気楽な単独自由行動を楽しめたわけでございます。ふんがー。

イスタンブールの夕暮れはモスクのシルエットでムード満点。

 て、何とか無事に金曜日も終わりました。明日の午後の空港までの送迎サービスも手配してバッチリ。あとは明日の午前中何をするか…近場にあってまだ見てない博物館でも見て…と思っていたら、ビールに酩酊してゴキゲンのオヤジがまたもや晩飯の時に「最後にテオドシウスの城塞が見たい!」などという変チクリンな要望を出してまいりました。じょ、城塞って一体ドコよ!しかし何で最後の日になってそんなこと言い出すんだろうかまぁ…。下僕には平和な夜はないのでございます。イスタンブール最後の夜もワタクシはホテルの部屋で地図やガイドブックをベッドに広げ、「テオドシウスの城塞」を見るためのルート計画立案作業で寝不足の夜が続いたわけでございました。

  

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