スペイントホホ紀行 その2.

いわんやのヘンな趣味・アルヘシラスではコーランを聞きながら…

 るべきもののない街・アルヘシラスに降り立った我々は、とりあえずマドリッドの公衆電話から予約したホテルにチェックインし、翌日のモロッコ日帰りツアーの申込み(これは現地にワンサとある旅行代理店でどこでも出来ます)を済ませ、メシを食いながらまたもや善後策検討の打合せタイム。結局、「今日は夜行列車で揺られた身体を休めよう。それにアルヘシラスってアラブ情緒があふれてて、なかなか悪くない街だからあとで散歩でもしてみよう」といった方向でほぼ意見の一致を見たのでございます。

map2 て、ここで告白しなければなりませんが、実はワタクシいわんやは海外に行ったら「これだけは絶対に欠かしたくない」という強い情熱に燃える、ある趣味を持っているのでございます。それは「行った国の床屋で髪を刈ってもらう」というヘンな趣味でございまして、今までこの話をした人で「ほぉ〜変わってますなぁ」と言わなかった人はございません。しかしワタクシは生まれて初めての海外旅行からこの「海外床屋探訪」を欠かしたことはほとんどなく、旅行・出張等あわせれば何だかんだ言ってアメリカ・アジア・ヨーロッパにまたがって8箇所の床屋をすで制覇しているのでございます。

 ういうヘンな趣味を持ったワタクシでございます。どうせヒマな午後のこと、アラブの息吹きが感じられるこのアルヘシラスの街でうまいぐあいにアラブ人経営の床屋にでも行きたいなぁ…などと考えておったわけでございますが、モロッコツアーを申込んでの帰り道、路地に面した店をふと見ると、おお、そこにはワタクシが思い描いていた通りのアラブっぽい床屋があるではございませんか!これはもう、明日のモロッコ訪問に備えてこの床屋で髪を刈ってもらうしかございません。ノンビリ休息するはずだったアルヘシラスの午後は、ここに来てガゼン、エキサイティングな予感に包まれ始めたのでございます。

tokoyaいわんやが発見したアラブ風床屋。アラブ女性の写真がウィンドウに。

 うなればもうワタクシは完全な「床屋モード」です。スペインではシエスタ(昼寝)の2〜4時くらいの間は多くの店が閉まってしまいますから、今はまだ早い、5時頃に行けば開いているだろう、と綿密な計画を立て、夕方ふたたび行ってみたら案の定、店は開いております。よしよし。中には客は一人もおらず、明かにスペイン人とは違うアラブ風の顔立ちをしたニイちゃんが一人たたずんでいるのですが、客が一人もいないからと言って怖じ気づく必要はございません。店に入ったワタクシは右手でチョキを作り、それを頭の上でチョキチョキと動かして「OK?」と聞くとアラブ風ニイちゃんもニタッと笑って「OK」と答えます。さぁいよいよ、いわんやの人生で9軒めの海外床屋体験が始まります。わくわく…

 ラブ風ニイちゃんはワタクシを椅子に座らせ、首から下に白いカバーをかけます。この辺は万国共通のプロセスでございますね。やがて霧吹きで髪を濡らし始めましたが、これはかなり念入りにビショビショに濡らします。ワタクシは「どのくらい切るのか?」と聞かれたら指で1cmくらいの長さを示そうと思っていたのですが、彼は何も聞かず、おもむろに脇にあったカセットテープレコーダーで音楽を鳴らし始めたのでございます。

 の音楽は明らかにアラブ風の耳慣れぬ旋律。ってことは、やはりこのニイちゃんはアラブ系だな…モロッコ人なのかな?と思ったワタクシは髪を濡らされながらテープレコーダーを指さして「モロッコミュージック?」と聞いてみたのですが、返ってきたのは「イッツ、コーラン!」という答え。コ、コ、コーラン!!いやぁ〜まさかスペインでコーランを聞きながらアラブニイちゃんに髪を刈ってもらえるとは思ってもいなかったワタクシは、もうすっかり嬉しくなってしまったのでございます。皆様はヘンな奴だとお思いでございましょうが…

 ラブニイちゃんはどのくらいの長さにするか、などとシチ面倒なことは全く聞かず、やにわに電気バリカンでワタクシの後頭部及び側頭部をダイナミックに刈り始めます。いいですねぇ、この大胆な仕事ぶり。ひと通り全体を電気バリカンで刈り終わると、次はハサミで細部の刈り込みに移行。この辺のハサミさばき・手際はなかなかのもので、ワタクシはコーランを聞きながら、これならオレのヘアスタイルの運命はアラーの神とニイちゃんの手さばきに委ねて大丈夫だな、と判断致しました。

 外での床屋が趣味だとワタクシが言うと、「ヘンな頭にされたらどうするの?」とか「何されるか分からないじゃないか」といった心配をする方がおられますが、ワタクシの乏しい体験では、そんな心配などする必要はまずございません。国こそ違え、向こうもプロでございます。大体現在の髪形から判断して「このくらいに切っておきゃ、ま、間違いないわな」というプロの判断で切ってくれるものでございまして、このアラブニイちゃんも、何も言わなくてもまぁ任せておけ、という雰囲気を漂わせるプロの手際だったと申せましょう。なーに、万一ヘンな頭にされたとしても髪の毛なんてほっとけばまた生えるもの。大してリスクはないのでございます。

 りながらニイちゃんは英語で聞いてきます。「どっから来た?」「日本」「日本か…とても遠いな」「うん、とても遠い」チョキチョキチョキ…「フィリピンは?」「へっ?」「フィリピンは遠いか?」「うー…??う、うん、フィリピンも、とても遠い…」チョキチョキチョキ…まぁこんな風にしてなごやかに時は過ぎてまいります。時々、外からコドモが店を覗き込んで「今日、このあと切ってもらえるー?」といった仕草をすると、ニイちゃんは鏡に写ったコドモに向かってアラビア語?で何やら返事。楽しいなぁ、こういう感じ。

 間にして約30分。至福の一時でございました。ちなみに洗髪・ヒゲ剃りはなし、カットのみで料金はちょうど1000ペセタでございますから約700〜800円といったところでございましょう。高いのか安いのかよく分かりませんが、コカコーラの350ml缶が自販機で125ペセタでございますから、コーラ8本分と考えれば、まぁ日本の相場から見ても妥当と言えるのではないかと存じます。

 だ注意すべきなのは、上述のように洗髪がございませんから、床屋を出た時点では髪の毛の切れっぱしが頭にビッシリついているということでございます。一応、襟のあたりは最後にホウキブラシで払ってくれるのですが、肝心の頭の方はスッと頭をなでると手のひらに切った髪の毛ワンサとくっつくアリサマ。床屋を出たあとはホテルに戻ってすぐにシャワーを浴びた方がよろしゅうございましょう。もちろん、ワタクシもそう致しました。

 ぁ、これで頭も刈りました。あとは明日のモロッコ日帰りツアーという大冒険を待つばかりでございます。いわんや&トホ妻は初めて足を踏み入れるアフリカ大陸への期待に胸踊らせながらスペイン3晩目の夕食をアルヘシラスのアラブ料理店でとったのでございました。(→旅行記その3に続く)

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