スペイントホホ紀行 その3.

タンジール観光の合言葉は「ワンハンドレッドペセタ!」

 10月6日水曜日は今回の旅行の目玉の一つ、モロッコ日帰りツアーでございます。前日にツアー申込みの時にもらった控えを持って、船の出る30分前までにフェリー乗り場に集まれと言われていた我々は、少し早めに行ってまずカフェで朝食をとったのでございます。フェリーの出航時間は9時半。フェリー乗り場には旅行代理店の出張所がたくさんありますから、自分が申込んだのと同じ看板の出張所に行って申込み控えを提示すると、ツアー客用のワッペンシールをくれるという手はずになっております。多少余裕を持って早目に行かれた方がよろしいかと存じます。

 となくこのあたりの記述はガイドブックっぽいですが、実際のところ我々は「…って言ってたわよね、たぶん」「うーん、ここで待ってろってことじゃないかなぁ?」といった調子で、相当不安を感じながらオロオロしていたというのが実態でございまして、我々の経験が少しでも、これから行かれる方のお役に立てばと思っているのでございます。

 がて9時半近くなると、我々と同じ銀のシールを貼った観光客が出張所の前にゾロゾロ集まってまいります。同じようにあっちの出張所、こっちの出張所でも客が集合し始めており、それぞれグループごとに貼っているワッペンシールのデザインは異なるというわけでございます。我々「銀のシール」チームは総勢20人ほどでございましょうか。トホホ事件ファイルの「トホ妻と行くモロッコ紀行」にも書きました通り日本人はワタクシども夫婦を含む3人だけで、あとはアメリカ人、ドイツ人、イギリス人などが混じった構成。この20人は係員に先導されて出国チェックを受け、パスポートにスペインから出国したスタンプを押されます。ここから先はもうスペインじゃないわけですね。

map3 り込んだ高速艇で約1時間、いよいよタンジール(あるいはタンジェ、スペイン語読みではタンヘルなどとも呼ぶようですが、ワタクシはちょっと古風な“タンジール”という呼び方が好きでございます)の港に到着。港には「銀のシール」チーム担当のおっさんガイドがすでに待ち受けておりますが、まず驚いたのはツアー客は港のパスポート・コントロールに全員パスポートを預けてしまうということで、この後は一人残らず旅券不携帯ということになるわけです。ひょっとすると、タンジールってパスポートなんか持って歩いたらたちまち盗まれてしまうような街なのか…?

 初はまずバスに乗せられてひと回り。郊外の丘陵地帯(お金持ちや王族の別荘があるところ)を回ったあと降ろされたのが観光ラクダのいる休憩所。もちろん我々はラクダに乗る気などモウトウないのですが、ラクダ使いは「ワンハンドレッド・ペセタ(100ペセタ)!」と呼び掛けながらしきりに乗れと勧めます。おおっと、早くも始まったワンハンドレッドペセタ攻撃!(タンジールではスペインペセタが通用するのでございます)ラクダを断って隅っこで煙草など吸っていると、おおっと、こちらからは物売り攻撃も襲来!ブレスレッドを10個近くハメた自分の腕を差し出して、どれか買えということなのでしょう。うーむ…話には聞いておりましたが、早くも敵は観光客ムシリトリ迎撃体制を整えているようでございます。

 のあと地中海を望む展望台に連れて行かれましたが、そこにはヘビ使いとショボい民俗楽団がいて、写真を撮るとチップの要求。ここでもワンハンドレッドペセタです。やれやれ…その後、ようやくカスバの迷路の中に足を踏み入れたわけでございますが、いやすごい所です、カスバは。当初ワタクシは「団体ツアーなんてヤだから俺達だけで行こうか」などと考えたこともあったのですが、あそこをガイドなしで歩き回るのはちょっと難しい。完全な迷路です。先頭にガイド、最後尾にもう一人ガイド?がいて、我々はちょうど牧羊犬に誘導される羊のような感じでカスバの奥深く入っていったわけですが、あの最後尾のガイドはたぶん迷子発生防止という意味もあったと思われます。kasuba

 タクシはガイドのナマリの強い英語の説明なんてそっちのけで、チャンスを見ては写真を撮ったりしていたわけでございますが、そうやって歩いている間じゅう、物売りはもうひっきりなしに現れ、「こんなもん、買うヤツがいるのかい?」と言いたくなるような商品?を売りつけようと致します。ただ、彼らは数m程度くっついてダメならあきらめますから、それほどウザッタイという感じはございません。あれはあれでなかなか面白い、ないとかえって寂しいとすら思えるのでございます。

 うこうしているうちに昼食。ハッキリ申し上げて昼メシには期待なさらないほうが良いと存じます。ヘンなウエイターが「モロッコン・スップ!!」と大声で連呼しながらサーブしてくれる野菜スープ(これはまぁまぁ)に、お約束のクスクス(あまりおいしくない)、そのあとシシカバブ(ニューヨークで食ったシシカバブの方が10倍くらいおいしかった)と出まして、トホホな民俗楽器演奏が付きます。なお、飲み物代は「昼食込み」のツアー料金とは別で、ミネラルウォーター1本だと150ペセタ。おっと、それから忘れちゃいけない。トホホ民俗楽器交響楽団へのチップでワンハンドレッドペセタですね、はいはい。

 食後もしばらくはカスバ巡り。ああ、もうちょっと落ち着いてあちこち写真を撮りたかったけど、迷子になると大変ですからアタフタと列のあとをくっついて行かざるを得ません。そのあと「銀のシール」チームは巨大土産物屋に全員連れて行かれるわけです。まぁツアーの場合、こういう提携土産物屋巡りはツキモノだから仕方ないか…と、ワタクシはややウンザリした気分だったのですが、この土産物屋でのヒトトキはもう最高にワケが分からなくて実におかしゅうございました。

 初はワタクシやトホ妻、及びもう一人の日本人である一人旅青年がちょっと何かを見るとすかさず店員が寄ってきて「どうだ?買うか?」ってな感じで勧め、「ううん、いらない」と答えるヤリトリが何度も繰返されるわけですが、そのうち、時間がなくなってくると敵は追い込みに入り始め、個々の品物を勧めるというのではなく「バイ・サムシング?」と、とにかく何か買えと迫ってまいります。その赤裸々な営業態度がおかしくて、店員から逃げ回りながら笑わずにはおれません。

 のうち老店員の一人が英語でワタクシに声をかけます。「ジャパニーズ・ペン?」「え?ああ、ボールペンを貸せっての?」「コレクション、コレクション」どうやらペンを集めているから日本のボールペンをくれ、ということのようです。ワタクシは紛失しても良いようにボールペンを2本持ってきておりましたし、その時持っていたのはしょせんパチンコの余り玉で取ったボールペンですから、まぁあげてもいいや、と思って彼に差し出したのです。すると彼はそれを大事そうに胸の真ん中にさし、ワタクシ・トホ妻・一人旅青年という、その場にいた日本人3人全員と握手、握手。思わぬ「日本・モロッコ草の根外交」を展開してしまいました。「あのボールペン、明日あたりすごく高い値段で物売りが売ってたりして…」と一人旅青年。ぎゃははは…あり得る。

 るとこんどは若い店員が寄ってきて「フロムジャパーン?ジャパーン?」と聞いてきます。「イ…イエス…」「ドゥユノウ、ハラダ?ハラダ?」原田?誰だそれ?店員は両手を前に突き出すジェスチャー。先に一人旅青年が気が付きました。「バイクのことじゃないかな?」「あっオートレーサーの原田?」こちらが気が付いたとわかると彼は「イエー」と満面の笑顔でまた日本人3人全員と握手、握手。「ドゥユノウ、ナカタ?ナカタ?」今度はさすがにすぐわかりました。ワタクシが「フットボール?」とサッカーのジェスチャーをすると「イエー」握手、握手。一体何なのでしょう…?

 々がこんなワケのわからない会話をしている脇では、店員が順々に床に小さな敷物を敷いてメッカの方向に向かって敬虔なお祈りを始めます。おお、邪魔しちゃいけない…と思っていると、そのカタワラで一人旅青年がガイドのおっさんから「嗅ぎ煙草」を勧められ、鼻の穴に吸い込んで悶絶。周囲は大笑い。いわんやは普通の煙草で一服すべく、外に出ようとすると…ややや!すでに出口には“フリーの物売り”集団が我々の出てくるのを今か今かとニヤニヤしながら待ち構えているぞ。ひぇー、こりゃ外には出られん。しかし店内に戻れば“店所属の物売り”たちが「バイ・サムシング?」「フロムジャパーン?」。ううう…「アラブの混沌」っていうのはこういうことだったのか…。

girl恥ずかしいけど、いわんやのカメラが気になって仕方がないカスバの女の子。かわい〜

 のあともう一軒、今度はスパイス屋に全員がまた連れて行かれ、白衣のニイちゃんのパフォーマンスを見て買い物したあと、再びカスバの路地を抜け、ようやく港の見えるテラスまで戻って来てひと休み。あー面白かった。バスで港に戻り、パスポートを返してもらって(名前を呼ばれて取りに行く、まるで通信簿を取りに行く生徒みたいでした)、ガイドにチップを渡してお別れ(二人分として500ペセタあげました)。あとは船に乗ってアルヘシラスに帰るだけです。

 思っていたら、おおお!出国審査後の船乗り場にまで物売りが!なぜここまで入れるんだ?「ラストチャーンス!」と声を枯らしながらワケのわからないものを売っているぞ。うーん、やっぱりタンジールはこうでなきゃ面白くない。そういえば最後のバスに乗った時、「銀のシール」チームの中でもひときわその巨体で目立っていた陽気なアメリカ人?の若者が車内で「ワンハンドレッドペセタ、ワンハンドレッドペセタ…」と、物売りの口真似まで披露してくれて、トホ妻ともども大笑いでございました。

 ルヘシラスの港に帰ってきたのはスペイン時間で7時頃(モロッコとは時差が1時間あります)。そこでまた入国スタンプを押してもらい、我々は再び「スペインに来ている観光客」に戻ったわけでございます。モロッコの余韻を引きずりながらも我々は翌日の列車のダイヤを駅でチェック。どうやら朝1番・7時の列車に乗れば、昨日夜行列車が遅れたせいで行けなかったロンダを回ってグラナダに夕方には着けそうでございます。やれやれ、明日は早起きだ…。(→旅行記その4に続く)

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