スペイントホホ紀行 その5.

メリダへ行ってカーチェイス・スペイン道路交通事情

 9日土曜日は朝8時のバスでグラナダから「アンダルシアの華」セビリヤへ。スペインはバス路線が発達しておりまして、街と街の移動は大抵の場合列車よりもバスの方が本数も多く、料金も安くて便利でございます。グラナダ→セビリヤは料金2355ペセタ(1800円ほど)で3時間弱。11時前にはセビリヤのバスターミナルに到着致しました。さぁ、まずホテルを探さなくちゃ。

 論から申しますと、これは意外にあっさりとカタが付きました。情緒あふれるサンタクルス街の小さなペンションに飛び込んだら幸いにもOKの返事。こちらもグラナダの一泊目と同様、シャワー・トイレ共同で5000ペセタ(4000円弱くらい)という安宿でございましたが、とりあえずこれでホッと致しました。さっそく我々が向かったのはマエストランサ闘牛場。ここで闘牛を見ることはワタクシが強く希望していたことで、毎週日曜日にあるはずの闘牛を見るためにセビリヤ滞在を土日にかけて設定し、月曜にセビリヤを出発する予定を組んでいたのでございます。

 牛場に行く途中、街のあちこちに闘牛のポスターが貼ってあります。よっしゃ、思った通り闘牛はあるみたいだな、ほーら、10月12日、5時半って書いてあるじゃん。よしよし…というわけで闘牛場にたどり着いてみるとどうやら前売りチケット発売所らしきものもちゃんとあるではございませんか。ふふふ…全ていわんやの計算通り。さぁ買うぞ。

 応、明日のチケットであることを確認しようと思って窓口で「マニヤーナ(明日)・ビリェッテ?(切符)」と聞いてみると「ノー・マルテ!」え?ちがうの?マルテって何さ?よく考えてみたら…ああ、何ということ!火曜日(マルテス)のことだ!闘牛ポスターに書かれた10月12日って、あしたの日曜ではなく、しあさっての火曜!でもセビリヤは月曜日に発つ予定…ががーん!この時はショックでした。そう、シーズン最後の闘牛は10月12日のピラールの祭りとやらに合わせて行われるんですね。前回マドリッドで闘牛を観た時はその12日がたまたま日曜日だったので、必ず闘牛は日曜日にあると思い込んでいたのが間違いのモト。ああ、どうしよう…。

 こから毎度おなじみ、深刻な打ち合わせタイム。せっかくここまで来て闘牛を見ないのは断腸の思いです。この際セビリヤ滞在を火曜まで延ばしてその分あとを削ろう、という結論に至るまでは、それでもけっこう時間がかかりました。しかしこれで腹は決まった。再度チケット売り場に足を運んだワタクシは今度こそ火曜日の5000ペセタのチケット(約4000円、席のランクとしては中の下、ないし下の上くらい)を2枚購入したのでございます。もっとも、このチケットでまた3日後の火曜日には大変な目に遭うのでございますが…

map5 日、10日の日曜日はセビリヤからメリダという街にバスで日帰り観光。本来、メリダはセビリヤを発って月曜の夜に一泊しようと思っていた街なのですが、上述のような事情で日曜日に日帰りとなったわけでございます。バス代は1570ペセタ(1200円くらい)で所要時間約3時間。ところがこのバスがまた、とんでもない運転だったのでございます。

 ペインのバス路線が発達しているのはすでに触れた通りで、もう何回も乗っておりますし、コワいと感じたことなどなかったのでございますが、このメリダへのバスはコワかった。何しろかなりのワインディングでもカーブの前でいっさい減速いたしません。日本的感覚だと「うわっ、曲がりきれない!」と思うようなスピードでカーブに突っ込んでいきます。こっちはバスがカーブから飛び出すんじゃないか、ふくらんで対向車にぶつかるんじゃないかと、恐ろしくて身の縮む思いでございます。トホ妻も、たまたま乗り合わせた日本人の男性も同じように恐怖を語っておりましたから、日本的運転に慣れた者にとってはあり得べからざる走りっぷりだったのは確かでございましょう。

meridaメリダにはこんなローマ遺跡があっちこっちに点在しているのです。

 リダではローマ時代の遺跡めぐりをたっぷり楽しんだのですが、問題は観光を済ませての帰路。メリダのバスターミナルに戻った我々は、行きとは違うバス会社の便で、ほどなく出発のセビリヤ行きバスがあることを知り、そのチケットを買ったのでございます。まぁどこのバス会社でも同じだし、早くセビリヤに帰れりゃその方がいい…ところでバスはどれ?ええっま、まさかこれかよ?!

 のバス、いやバスと称する乗り物はバンでございました。まぁマイクロバスと言えなくもないのですが、席数は運転手以外にせいぜい10人ほど。これは日本的感覚で言えば明らかに大型免許のいらない、普通免許で運転できるバンでございます。行きに恐怖を味わったあの道を、きっとまた同じような運転で、しかも今度はこのバンで帰るわけぇ?ううう…バスなら対向車と衝突してもバスが勝つだろうけど、このバンでは…と、ワタクシその時は本気でそう考えました。大丈夫、事故なんてそんなに起こるもんじゃない、と無理矢理自分に言い聞かせ、我々はそのバンでセビリヤに向けて出発したのでございます。

 度は車も小さいから運転席は目の前。ワタクシはまるで自分が運転するような緊張感でスペインの道路状況や運転スタイルを観察していたのですが、とにかくセビリヤ・メリダを結ぶこの国道、スペインの主要幹線道路なのですが、何せ片側1車線。追越しをかける時は対向車線に出なければならないわけです。確かに道路は空いてはいるのですが、それぞれが相当にトバしておりますから「いつ前の車をパスするんだ?うわっ今はよせ!向こうから来てる!」という感じで、見ていると相当コワいものがございます。

 まけに運転手。別に運転が下手なわけではないのですが、とにかく脇に座った女性客とのオシャベリに夢中でしょっちゅう彼女の方ばかり向く。「おおお、前向いて運転しろよ、オマエ」と言いたくなってしまいます。しかも途中で気が付いたのですが、この国道、街路灯というものが一本もございません。周囲は何もない荒野が広がるスペインの丘陵地帯ですから、夜ともなれば真の闇。そこをハイビームだけを頼りにトバすの?うひゃー、スペインでは運転なんてとても出来ましぇん。

 しろ片側1車線ですから、遅い大型トラックが走っていようものならたちまち後続車はノロノロ大渋滞。その渋滞からみんなが一瞬のスキを狙って争うように追越しをかけまくって、もうF1グランプリのスタート直後を思わせる状況でございます。3〜4台まとめて後ろから強引に追越すヤツ、追越し中に対向車が来てあわててこちらの車列に割り込むヤツ、車間距離なんてクソくらえ、コレはカーアクション映画の撮影か?と思いたくなるようなスサマジい状況でございまして、後日トホ妻が語った「あの時ばかりはハッキリ言って生きた心地がしなかったわ」という言葉が全てを物語っておりましょう。

 かし、スペインのドライバーの名誉のために申し添えれば、彼らの運転技術は確かなものがありますし、普段からそういう状況で当たり前のように運転しているわけですから、抜く車、抜かれる車、割り込む車等々、お互い瞬間的にうまく折り合いをつけているのでございます。クラクションを鳴らすなどということもなく、もちろん後ろからアオったりするような意地悪も致しませんから、運転マナーはむしろある意味では日本より良いとも申せましょう。

 ビリヤのバスターミナルに無事戻ってきたのは9時頃。日暮れの遅いスペインの空もさすがに真っ暗になっておりましたが、ああ、あの街路灯もない山道をまだ薄明るいうちに抜けて来られて良かった。バルのカウンターで晩メシを食い、恐怖のカーチェイスから生きて帰ったヨロコビを確認しあいながらセビリヤ2晩目、日本では10月10日体育の日の夜は過ぎていったのでございました。(→旅行記その6に続く)

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