スペイントホホ紀行 その9.

コストカッター・トホ妻「アタシ達ってケチ?」

 れやれ…長かった旅行記もこれで最終章でございます。マドリッドでは日帰りでセゴビアという街まで足を伸ばしたり、スペイン国立交響楽団の演奏会を聴きにいったりと、けっこう順調かつ平穏な日々でございまして、最後、アエロフロート航空の運休騒ぎも何とかうまく切り抜けて10月17日朝、トホ妻&いわんやは無事に成田空港に戻って来ることが出来たのでございました。

segoviaセゴビアにあるローマ遺跡の水道橋。その巨大さは呆れるばかりでございます。

 て、この旅行記を通読なされた方の中には「夜行列車」「夜行バス」「風呂・トイレ共同の安宿」といった記述が多いことから、我々のことをやたらと低コストな、まぁ有体に言えばケチな奴らだと思われた方も少なからずおられるのではないかと存じます。事実、日本に帰ってきてからこの話をすると驚かれるケースが多く、その驚きの内容はほとんどが「風呂もトイレもない部屋で、よく奥さん文句言わなかったですねー」という類の驚きでございました。

 まり、いわんやだけの「男一人旅」ならともかく、トホ妻という女性と一緒の旅でありながら何とまぁ安く済ませたことか、という驚きが多かったのでございまして、おそらく世間一般の女性たち・奥様たちの好む海外旅行のイメージは、「ゴージャスな高級ホテルにあこがれる」「それが無理でも“ちょっとゼイタク”ってのが大好き」「最低でも一応はチャンとしたホテルでなきゃイヤがる」といったものなのだと思われます。まぁ確かに実際そういう御婦人方が多いのは確かでございましょう。

 かし何しろ連れはトホ妻でございます。彼女は「ヨーロッパ行ってホリデイ・インみたいなトコに泊まってもつまらない。その土地っぽさのある宿の方が面白い」という思想の持ち主でございまして、「トイレ・シャワー共同」など全く意に介しません。そもそも彼女は過去一人でドイツやパリを旅行した際にも「トイレ・シャワー共同」を渡り歩いた強者でなのでございまして、その辺は決してケチだからというわけでもないようなのでございます。

 みに、ワタクシどもがスペインでの13泊に要した宿泊費を計算すると、最高がグラナダでの14000ペセタ1泊(約11000円)、最低が0ペセタ2泊(これは夜行列車と夜行バスで宿泊費を浮かせた分)となり、平均すると約5800ペセタ・およそ4500円くらいとなりましょうか。一人当たりでは2000円ちょい…まぁ旅のスタイルは色々ですが、「いわんや&トホ妻ってケチー!」「なんてチープな旅行する夫婦!」と思う方もいらっしゃいましょう。若い学生とかバックパッカーならともかく、我々のような中年夫婦が…思い起こせばスペイン来るのに使ったのがアエロフロートの格安航空券で成田・マドリッド往復で一人82,000円…やっぱりケチ?

 も、セビリヤで泊まった安宿などは十字架の建てられた情緒あふれる広場に面し、パティオ(中庭)もいかにもスペイン南部・アンダルシアらしい風情があり、トホ妻もいわんやも実はけっこう気に入ってしまったのでございます。シャワー共同ですから宿泊客はみんな相当ダラシなくて、トホ妻などはチェックイン早々、タオル1枚腰に巻いただけの長髪ヒゲ面、まるで磔刑のキリストのような“湯あがり”の外国人男性から挨拶されて目が点になったそうでございます。

 タクシとて、一応は「欧米のホテルではダラシないカッコでロビーをうろうろしてはナラヌ」という教育を受けておりますから、共同シャワーに行くときもせめてGパンくらいはかないと…と思っていたのですが、すぐにその宿屋の雰囲気に染まり、シャワー帰りなどはTシャツにトランクス姿でタオルを首から下げて歩き回り、行き交う外国人旅行者(こちらもみんな超ラフな格好です)たちと「ハーイ」とか言って挨拶を交わしたものでございました。いわんやはこういうダラシなくリラックスした雰囲気というのが大好きで、いやもう実に「イイ感じ」の安宿でございました。

 ちろん、そこは何しろ一泊5000ペセタ(約4000円)でございますから、共同シャワーからはいつも水が漏れていて同じバスルームにあるトイレの床はビショビショ。しかもその共同トイレがいつもトイレットペーパー切れの状態、といったように、なかなかワイルドな性格も秘めた安宿だったのでございます。「アタシそんなトコ、ぜーったいイヤ!」「そんなの、別にどうってことないじゃん」と、まぁ皆様の反応はいろいろでございましょうが…

パティオ(中庭)だけ見ると、何だかとっても素敵なセビリヤの安宿cruz

 にトイレットペーパーがないということは、いろいろ複雑な問題を抱えることになります。しょうがないからトイレはなるべくメシ食いにバルに入った時に、そこのトイレを使って済ませよう。おお、そういや部屋にティッシュがなかったから、ついでに紙ナプキンもゴソッともらって行こう…こうなってくると旅行者というより、だんだん浮浪者という領域に近づいているような気も致します。

 ういえば、セビリヤからマドリッドに戻る時も何も夜行バスを使わずとも、セビリヤのこの安宿にもう1泊し、翌朝早くAVE(セビリヤ〜マドリッド間を結ぶ、まぁ日本で言えば新幹線)で行くという方法もあったのです。夜行バスだと6時間だけどAVEなら2時間半…実はこの移動手段を検討した時、ワタクシは内心「俺ひとりなら安いバスだな。でも疲れるし、さすがのトホ妻もイヤがるだろうなぁ…」と思っていたのでございました。

 かし、AVEだとマドリッドまでの交通費は一人9200ペセタ+セビリヤでのもう1泊の宿泊費…夜行バスなら交通費は一人2750ペセタで宿泊費ゼロ…ということがわかった時、トホ妻はワタクシの顔を真っ直ぐ見つめてひとこと「そっちにしよう」と言ったものでございました…やっぱりケチ? 

注)この旅行記ではすべて100ペセタ=約80円という計算をしています。為替レートでは100ペセタは70円以下ですから5000ペセタ=3500円以下ということになるのですが、実際には現地のボッタクリ両替屋に当たったり、両替手数料などもあって「100ペセタを作るためのコスト」は80円程度になってしまうので、ここでは全て「実勢レート」で記述致しました。

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