台湾トホホ紀行その1. 

●台北の髪廊で松平健になる

 北空港に降り立ったのが19日月曜の夜。その夜はホテルの近くで牛肉麺を食う程度の軽い市内探検でウォーミング・アップいたしまして、20日火曜からがいよいよ本格的台湾観光のスタートでございます。ワタクシが海外旅行して最優先で実行されるべきものと申せば…はい、現地の床屋制覇であることはもう皆様御存知でございますね。今回は床屋行きたいと思いつつガマンしておりましたし、台北は暑い。真っ先に涼しい髪型になっておきたいところでございまして、20日にホテルを出たワタクシは早速床屋探しに着手したわけでございます。

 タクシの希望はコジャレた高級床屋や大型ホテル内の理髪店などではなく、ヒナビて、ウラブレた、外国人客なんて開店以来一度も来たことがないような床屋。そんな床屋を探してデタラメに表通りを歩いてみたものの、意外と床屋がございません。おかしいな。表通りではなく裏通りにターゲットを変えるべきか?ちなみに、昔のガイドブックによると台北には“観光床屋”と称する、床屋とは名ばかりのフシダラな店鋪もあったそうで、そういう店に入らないように気をつける必要もあったようですが、最近は規制が厳しくなってそういう店は姿を消したという話でございます。

 通りから裏通りに目を転じてほんの数分。おおお!まさに絵に描いたようにヒナビてウラブれた裏通りの床屋があるではございませんか。その名も「藝林男女髪廊」!うーむ、何だかスゴそうだ…髪廊。中を見ればオバサンがヒマそうにボンヤリしております。もう他を探すのは面倒だし、ここにしてしまえ。中に入って「OK?」と聞くとオバサン、ニコリと笑って椅子を指差します。よしよし。こうしていわんやの人生12軒めの海外床屋体験の幕が切って落とされたわけでございます。

   

なにせもう藝林男女髪廊ですからね。髪廊。

  

 内はと見れば冷房も効いておらず、扇風機がダルそうに回っているだけ。オバサンがワタクシの首から下に白い布をかぶせても、この扇風機があるために下の方がヒラヒラしてしまいます。オバサン、おもむろに扇風機の向きをアサッテの方向に変えると、ハサミと櫛を持ってワタクシの頭を刈り始めました。この段階では一応オバサンの中には「言葉もわからぬ外国人だし、まぁオトナシめに刈っておこうか」という気持ちがあったはずで、ひととおり刈り終わって鏡を見ると、どうもそれほど短くなってない。うーん…どうせ暑い台湾だし、もうちょっと短くして涼し気なアタマにしたいなぁ…。そこでワタクシは「もうちょっとだけ短く」とジェスチャーで示したのですが、いやそのつもりだったのですが…。

 「もうちょっとだけ短く」というワタクシのジェスチャーを見たオバサン。なにやら嬉しそうに一言声を発すると、今度は電気バリカンを持ってきて、ワタクシの側頭部を嬉しそうに、しかも極めて大胆に刈り始めるではございませんか。いや、あの…そそ、ソコまで短くしろと言ったわけでは…といってもわかんなかったんだろうけどさ、何も電気バリカンで…ああもう遅い…あああ…あああ〜。

 気バリカンでワタクシの左側頭部を大胆に刈り尽くしたオバサン、何やら質問してきます。たぶん「このくらいの長さでイイのね?」と言ってるのでしょうが…。う…う…これはさすがにちょっと短かすぎ…なんて中国語を話せるはずもございませんし、だいたい左側頭部がこうなってしまった以上、他のところを長く残してもかえってヘンです。はいはい、もう好きにしてくれ…と思ってワタクシがうなずくと、オバサンはワタクシとの良好なコミュニケーション成立にゴキゲンな様子でますます嬉しそうに電気バリカンで今度はワタクシの頭頂部を大胆に…うあああ!

 の中のワタクシはもうさっきまでのワタクシではございません。坊主刈り…とまではいかなくても、スポーツ刈りよりは短いよなぁ…と思えるくらいの短さになってしまったことは確かで、こんなに短い髪になったのは一体いつ以来だろう?しかしこの髪型の感じは誰かに似ているような…誰だっけ?…そうか!時代劇のカツラをかぶってない時の松平健じゃないかこの頭は!

 

ちょうどこんな感じでございましたね。もちろん髪型だけ。

  

 の短さそのものももちろんですが、ソコハカとなくソレとなく前髪のあたりが寂しくなってきている、そんな寂寥感を含んだ短髪のたたずまいも加わって、う〜む…これは似ている(髪型だけ)。台北に来て早々いきなりコレか。これから金曜日に日本に帰るまでの間、ワタクシは「ドロボウヒゲを生やしてメガネをかけた松平健」となって台北の街を観光することを運命づけられたわけでございます。いや〜しかしこのスリル、思ってもみない展開。これだから海外床屋はやめられません。 

 なみに、このオバサン床屋。電気バリカンで頭を刈り尽くした後はちゃんと洗髪工程がございまして、しかしヒゲ剃りはナシというプログラム構成。洗髪後、ドライヤーで髪を乾かして(というほどの長さでもないのですが)、最後にハサミで全体をちょっと整えて完成でございます。所要時間は30分ほどだっだでしょうか。おそらくこの店ではメッタにない外国人客であったはずのワタクシを、このオバサンは最後までとても嬉しそうにニコニコ笑いながら見送ってくれたのでございました。

 お、この裏通りの理髪店…あいや、髪廊での料金は300NT$(ニュー台湾ドル)でございまして、日本円にすれば大体1000円〜1100円といったところ。後にワタクシは台北市内の、もっとシャレた床屋で「洗髪だけで250NT$」あるいは「髪と洗髪で500NT$」といった看板を目にしておりますから、この300NT$という価格は現地レベルで見ても「やや安い」といったレベルと推定され、外国人向けフッカケ料金ということは絶対になさそうでございます。実に良心的なオバサンでございました。

 うして松平健カットになったワタクシ。この日はそのあと松平健のまま故宮博物院に行き、松平健のまま昼飯に焼餃子(台湾ではコレを“鍋貼”と称するようでございます)を食い、松平健のまま足裏マッサージをし、松平健のままホテルに戻って…いや、実を言いますとホテルに戻る時、フロントの女性(日本語も上手でとても親切なレディたちでしたが)が、外出で鍵を預ける時とは全く様変わりしたワタクシの頭髪を見て「さっきのお客さんとは違うヒトだ」と言いやしないかとちょっとビビッていたのですが、幸いにもスンナリ部屋の鍵を渡してくれたのでございます。

  

ついでに故宮博物院の写真でも

  

 ぁ、の旅行記を読んだおかげでアナタもう台湾の床屋は全く恐くなくなりましたね?あの髪廊は「男女」と書いてございましたから男性でも女性でもオッケーなのは間違いないはずです。もし皆様が台湾旅行する機会がございましたらぜひ行ってみてはいかがでしょうか。場所はかなり正確に覚えておりますワタクシ。行けばきっと、それまで自分では思ってみなかったような、「あのヒトに似ているワタシ」を発見できるはずでございますよ、あっはっは!

  

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