台湾トホホ紀行その2. 

●淡水・紅毛城はネタの宝庫だった

 宮博物院に行ってきた火曜の夜、ワタクシはホテルの自室でマツケン・カットの涼しい頭でいろいろ考え、今回の台湾観光の方向性をやや軌道修正することに致しました。それはつまり「故宮博物院を見てしまえば、あとは台北市内に『ぜひ見たい』と言えるほどのものはない」「それなら、残りの日は台北郊外の観光に軸足を移そうではないか」という方向転換でございまして、水曜はさっそく台北駅から電車とバスを乗り継いで九分という田舎町に、木曜日は台湾海峡に面した淡水という街に行ってみることにしたのでございます。

 6月は日本も梅雨ですが台湾も雨期。この連日の遠足で結果的には雨に降られることが一度もなかったのはまことに幸運だったと申すべきで、さすがは究極の晴れ男・いわんやの威力、と申し上げたいところでございますが、いやもう…その暑いこと、暑いこと…。特に九分に行った時はドウかなるかと思うくらいの、尋常ならざる暑さだったのでございます。

 の九分(実際には“九分”のフンの字はニンベン+分。しかしその字はパソコンでは出せませんので、ここでは便宜上“九分”で記述させて頂きます)、ヴェネチア映画祭グランプリ、キネ旬ベストテン1位など、数々の映画賞に輝いた侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督の名作映画「悲情城市」のロケ地として一躍有名になり、また最近では「千と千尋の神隠し」のモデルにもなったという噂もあるほどの、実に昔風のレトロな雰囲気が残る街。ここは台湾に行ったらぜひ足を伸ばそうと思っていた場所でございました。

  

レトロな風情あふれる九分の家並み

  

 の心配ばかりして帽子もかぶらず飲料水も持たずに出かけたワタクシ、九分をしばらく歩いているうちにだんだん「暑い」を通り越して「これは危険かもしれぬ…」というキブンになってまいりました。とにかくまぁ暑い。暑さで朦朧となりながら歩いてあちこち写真を撮った後は、映画「悲情城市」で飲み屋の撮影に使われた風情のある喫茶店で冷たいレモネードを飲み、さて、映画にも出てきた、もう少し山奥の旧金鉱のある街まで足を伸ばそうか…なんてとても無理。あの暴力的暑さには完敗でございます。ここはとりあえず台北に戻って冷房の効いたホテルの部屋でひと休みしなくちゃ…。あとで聞いたらこの日の台北周辺の気温は35度だったとか。トにもカクにも暑かった。

  

映画でも使われた美しい眺望

  

 の九分での炎熱地獄に懲りたいわんや。次の日に台湾海峡に面した海浜リゾート地・淡水に遠足に出かけたときはさすがにもう少し暑さ対策を整え、マツケン刈り頭には帽子、カバンにはペットボトル緑茶「健康の油切」を入れて炎暑の中を向かったわけでございます。この淡水も風光明媚で有名なところですが、映画ロケ地にもなった九分に比べるともうちょっと肩の力が抜けた感じが致します。台湾海峡をのぞむ景観ポイントになぜか布団が干してあったりするくらいで…。

  

海峡に向かって布団を干そう

   

 かし淡水をバカにしてはいけません。ここには遠い昔、スペイン人・オランダ人によって作られた赤壁の美しい居城、その名も「紅毛城」が今でも保存されておりまして、淡水観光のちょっとしたポイントになっております。どうせ外を歩いてても暑いだけ。軽い気持ちでこの城に行ってみたのですが…いやぁ、特に有名というわけでは全然ないあの海辺の西洋館が、まさかあんなにネタの宝庫だったとは…。

  

紅毛城の日陰と日向のキョーレツなコントラスト

  

 毛城の中は当時の家具調度が再現されており、なかなか立派なものでございますが、かと言って「すげえ!」と驚くほどのものでもございません。2階にあがると…おや?レンブラントの絵がいっぱい飾ってあるぞ。オランダ人も住んだといわれる紅毛城ですから、その関係でフランドルの大画家・レンブラントの絵を陳列しているのでしょう。もちろん絵は模造品…というか単なる写真ですから、これまた「すげえ!」と驚くほどのものではございません。この紅毛城、室内は写真撮影は禁止ですが、展示物にはとりたてて写真に撮りたいほどのモノもないよな…

 かし、ある部屋に入り、あるモノを見たワタクシは驚きのあまり息が止まりそうでした。撮影禁止でありながらカメラを取り出し、決死の秘密撮影を敢行せずにはおれませぬ。だってだって、レンブラント画伯本人がそこで自画像描いてるんですから!いやぁびっくりしました。これは素直に「すげえ!」と思います。ええ思いますよ。絵画史に燦然と輝く巨匠中の巨匠に、まさか台湾でお目にかかれるとは思いませんでしたよレンブラントさん!御会いできて光栄だなぁ。

  

製作中の巨匠レンブラントを台湾で発見!

  

 影禁止の室内でこっそりレンブラント画伯の後姿をカメラに収めたワタクシ。こうなればどうしても「どんな顔なのか?前にまわって画伯の顔も写真に残したい」と思うのが人情です。当然です。何しろレンブラント御本人なんですから。あたりに人がいないことを確認しつつ、そ〜っと窓際に移動し、レンブラント画伯のご尊顔を拝める位置に立って…うあああーー!どうせこんなコトだろうとは思っていたけど、やっぱりうああーーー!!

  

  

画伯…ずいぶん変わり果てたお姿に…

  

 かしワタクシにはわかりませぬ。かくのごとくトホホなレンブラント人形?をココに設置することに一体どんな意味が…?こんなモノ置かない方がよっぽど…あいや、そんなヤボな追求はやめるべきですね。…、気を取り直して他の展示物を見てみましょう。台湾の場合、こういった展示物に関する説明が中国語なのは当然として、それを英語に訳したものの他に日本語に訳したものが用意されているケースも多く、日本人観光客にとっては大変助かります。ほら、現にこの紅毛城でも、台湾の国際化に尽力したとかいう外国人の歴史資料展示解説に日本語版があって…

  

    

 ははははは!「アレンがイルス」か!そ、そうスか。いや〜…やっぱ台湾の日本語はこうでなきゃいけないス。もういわんや感動ッス。いや、打ちのめされたと言ってもいいス。淡水の紅毛城にはアレンがいるス!巨匠レンブラントもいるス!まいったス。脱帽ス。もうだめス…。
   

台湾トホホ紀行INDEXに戻る    その3を読む