公立大学学長研修会1999

 今、日本の大学はその在るべき姿を厳しく問われている。国立大学は独立行政法人化問題の検討に追われ、公立大学は財政問題等の対応に苦慮している。このような難局を乗り切るには、学長達が現状を正しく認識し問題の所在を的確に把握しなければならない。公立大学66校の英知を結集し、公立大学協会をさらに活性化するために、公立大学学長研修会の開催を企画した。思いついたら「善は急げ」、各方面の多忙なスケジュールを調整して頂いて早速11月29日に開催することに決め、会場を岩手県立大学にお願いした。有り難いことに急なお願いであったにも拘わらず快くお引き受け頂くことができた。
 11月の下旬になっても暖かい日が多かったが、天気予報によれば月末には寒波が来そうだという。当日の朝、盛岡に電話してみたら「今雪が降っています」というので、鞄に傘を詰め込んで出かけた。途中、一関から先は雪が降っていて一面の銀世界だったが、幸いにして盛岡に着いたときには晴れていて、朝降った雪も既に解けてしまっていた。盛岡の積雪は3センチだったという。駅から外に出てみると流石に寒い。
 初日の会場は駅の直ぐ近くにあるホテルメトロポリタン盛岡 New Wing である。ロビーに受付が作られていて、それらしい雰囲気が漂っている。早速チェックインを済ませ、会場を点検してから、東北大学法学部の藤田宙靖教授に御挨拶した。藤田教授は行政法が専門であるが、行政改革会議の委員を務め、ジュリストに独立行政法人に関する論文を発表して一躍有名になった。この「藤田論文」は「太平の眠りを覚ます蒸気船」として議論の中心となり、以来藤田教授はこの問題に関する第一人者である。今回、研修会で採り上げるテーマについて予めアンケート調査をしたところ、国立大学の独立行政法人化問題に対する関心が最も高かったので、藤田教授に講演をお願いしたのである。
 講演会の会場は立派な会議室だった。「公立大学協会の活動を実質本位なものにしたい」と思って企画した研修会なのに、こんな立派な会議室でやると逆に「形式張った学長会議」の雰囲気になってしまうのではないかと恐れたが、藤田先生の講演「国立大学の独立行政法人化問題の現状」が大変分かり易かったために、大勢の参加者から活発な意見や質問が出て、私の心配は全くの杞憂に終わった。
 藤田先生と夕食を御一緒した後、横浜市大の加藤学長、大阪市大の児玉学長と市内見物に出かけた。開運橋を渡って繁華街へ行ってみたが、寒いので皆赤提灯に入っているらしく、人通りが少ない。岩手公園、旧盛岡銀行本店、ござ丸、紺屋町番屋、石割桜、啄木新婚の家等を見て歩いた。すっかり冷えてしまったので、少々燃料を入れてホテルに帰った。

 朝起きてみて驚いた。窓の外の景色は真っ白で、しかもまだしんしんと雪が降っているではないか。朝食を済ませ、バスで県立大学へ向かった。雪のために普段の倍位かかって大学に着いた。一面の銀世界である。雪が降り続いているので、残念ながら岩手山も姫神山も見えない。
 雪の中を駆けつけた増田知事から歓迎の挨拶があり、岩手県が県立大学にかける熱意が並々ならぬものであることを感じることができた。引き続き、宮城大学の野田学長と岩手県立大学の西澤学長から基調講演をして頂き、質疑を行った。昼食後は、3班に分かれて討論を行った。予め行ったアンケート調査で希望の多かったテーマを3つ選んで各班に割り振り、そのテーマを含めて自由に意見交換をした。第1班は「財政」、第2班は「管理運営」、第3班は「公大協の活性化」をメインテーマにして2時間半にわたり議論を展開してもらった。
 分科会が終わった後、学内見学をした。500億円を投じて作ったというだけあって流石に素晴らしい! ゆとりあるスペース、充分な施設・設備、どれをとっても羨ましい限りである。特に、ソフトウェア情報学科では新入生から全員が自分の机とパソコンを与えられているという。「是非うちの事務局長に見せたいね」という声があちこちから聞かれた。
 昼頃まで降った雪は15センチ程積もっている。この時期にこれほど降るのは珍しいという。公立大学の学長達を歓迎するため天が特別な演出をしてくれたらしい。バスで今夜の宿舎である花巻温泉千秋閣へ向かった。風呂に入って、夕食を食べながら自由に懇談し、合間に花巻の郷土芸能「鬼剣舞」の実演を鑑賞した。その後、予定にはなかったが公立大学学長カラオケ大会が開催され、野田学長、児玉学長、白子学長、加藤学長、錦係長、桜田女史等が自慢の喉を披露した。公立大学学長のカラオケのレベルは驚くほど高いことが分かった。但し、私は“犬吠崎派”免許皆伝の腕前であるから滅多なことではマイクを握らない。

 最終日は、前日の分科会の議論の様子を白子学長、加藤学長、児玉学長から報告してもらい、それを元に全員で活発な意見交換を行った。公立大学協会の部会や委員会の多くが形骸化している現状を改めること、相互の情報交換機能を強化すること、事務局体制を強化すること、・・・、等幾つかの課題が確認された。
 研修会終了後、時間のある者は宮沢賢治記念館を見学し、「やぶ屋」でわんこ蕎麦を体験した。私は70杯食べて「大関」の認定証をもらった。
 初めての試みであり、しかも急な企画とあってどうなるか不安であったが、会員校の半数を超える出席があり、極めて活発な意見交換ができたことは有意義だった。お忙しい中を日程をやりくりして参加して下さった学長の皆さんに御礼を申し上げるとともに、会場をお引き受け頂き至れり尽くせりのお世話をして下さった岩手県立大学に心から感謝申し上げたい。


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