公立大学学長研修会2000

 今年の公立大学学長研修会は、10月30日から11月1日までの3日間、広島市立大学において56名の学長が参加して開催された。
 開催当日の30日朝、東京発9時52分の「のぞみ9号」に乗り込むと、偶然にも宮城大学の野田学長と同じ車輌だった。車内が空いていたので隣席に移動し、宮城大学で新設を予定している「特任教授」制度などについて苦労話を伺った。広島までは遠いと思っていたがあっという間に4時間が過ぎ、定刻13時43分に広島駅に到着した。
 初日の会場は駅に直結しているホテルグランヴィア広島である。早速チェックインを済ませて4階に行くと、既に受付が作られていて、それらしい雰囲気が漂っている。研修会の会場になっている「悠久の間」を覗いてから、常任理事会の会場が用意されている3階へ下りた。公立大学協会の組織等を現状に相応しく改革すべく、約半年をかけて「公立大学協会組織等検討会」において検討してきた案を、この研修会に報告することにしていた。そのためには前もって常任理事会で確認しなければならないのであるが、メンバーの時間調整が難しくてどうしても事前に開催することができず、予め資料を送付しておいて会議は直前開催ということになってしまった。14時から常任理事会を開催して、検討案の最終確認をした。
 15時から「悠久の間」で研修会が始まった。「形式張った学長会議」の雰囲気になるのを恐れて座席指定はしなかった。最初は、地元の企業「株式会社モルテン」の民秋史也社長による「これからの大学に期待すること」と題する講演である。モルテンはバスケットボールやサッカーボールなど競技用ボールの国内トップメーカーであり、スポーツ用品以外にも自動車部品を始め多角的な経営を展開している。民秋氏は文字通りオーナー社長であり、御自身の豊富な経験と実績に裏付けられた興味深い講演は迫力満点であった。
 引き続き、先程常任理事会で確認した公立大学協会の改革案を検討会の座長である横浜市立大学の加藤学長から報告して頂いた。検討段階でアンケート調査をするなど各大学の意向を参酌しながら纏めた改革案であるが、負担金値上げなどが含まれていることもあって、活発な意見交換が展開された。幸にして大筋で理解が得られたので、今後検討会で更に詰めて最終案を来春開催の総会に提案することとなった。但し、規則改正を必要としない項目については、できるものから早急に着手していくことが確認され、初日の討議を終えた。
 討議の後は夕食である。初日は「各自広島の夜を楽しむ」ことになっているので、三々五々灯りさざめく広島の街へ繰り出していった。我々は事務局の錦君の案内で駅前の焼鳥屋に“登楼”と相成った。大阪市大の児玉学長は鶏肉を召し上がらないにも拘わらず焼鳥屋に入ってしまったので、私は運良く2人前食べることができた。すっかり満腹になったので、横浜市大の加藤学長、大阪市大の児玉学長、愛知県大の森学長、宮澤東京事務所長、事務局の影本君と私の6人で、腹ごなしを兼ねて平和記念公園まで歩いた。「30分位」といわれてその気になったが、相当な距離であった。照明に浮かび上がる原爆ドーム、折り鶴に囲まれた原爆の子の像、「安らかに眠って下さい 過ちは繰返しませぬから」の碑文が刻まれた原爆死没者慰霊碑などを回って、タクシーでホテルに戻った。23時を過ぎていた。

 2日目は早めに朝食を済ませて、8時30分にバス2台に分乗して広島市立大学へ移動した。「科学と芸術を軸に世界平和と地域に貢献する国際的な大学」を建学の基本理念とする広島市立大のキャンパスは、斜面を利用して実に広々としている。講堂小ホールに集まり、藤本学長の挨拶に続いて広島市の森元助役から歓迎の挨拶があった。予定では秋葉広島市長がお見えになる筈だったが、生憎ドイツ副首相の広島来訪と重なってしまったという。秋葉市長はアメリカの大学や広島修道大学などで教授を勤めた経験を持つ数学者であり、私の後輩に当たる。お会いできるのを楽しみにしてきたのだが、都合がつかなかったのは残念だった。
 10時20分から56名の参加者が6班に分かれて13時20分まで分科会討議を行った。テーマは特に指定せず自由に選んで時間の許す限り議論をしてもらった。分科会終了後、食堂に集まって慌ただしく昼食をとり、14時から3つのグループに分かれて学内見学をした。驚いたことに校舎やキャンパスは開学7年目というのに全く汚れていない。国際学部、情報科学部、芸術学部の3学部合わせて入学定員400名という規模からは想像できない位恵まれた施設・設備である。LL教室3室と自習室を備え8ケ国語の学習ができる語学センター、情報処理実習室3室を備えあらゆる環境に対応できる情報処理センター、芸術学部教員の作品が展示されている芸術資料館など、何れも羨ましい限りの素晴らしいものだった。広島市の「広島市立大学」にかける熱意が並々ならぬものであることを肌で感じることができた。
 再び講堂小ホールに集まり、「独立行政法人化問題」に関する議論を行った。先ず第1委員会委員長である高崎経済大学の石井学長から委員会の報告をして頂き、次に文部省の「国立大学等の独立行政法人化に関する調査検討会議」のメンバーである北九州大の田中学長、横浜市大の加藤学長、愛知県大の森学長及び大阪市大の児玉学長から会議の状況を報告して頂いた。引き続き特別出演をお願いした都立大学の磯部法学部長から、独立法人化問題について行政法の専門家としての見解を講義して頂き、これらを基にして活発な議論を展開した。議論の後、国立大学等の動きを見ながら公立大学協会としての対応を検討するために、田中学長、加藤学長、森学長、児玉学長、長野県看護大の見藤学長及び磯部教授で特別委員会を構成することが承認された。
 白熱した議論を終えて、17時に大学を出てホテルに戻り、懇親会が開催された。懇親会終了後22時(!)から1階のロビーに田中学長、加藤学長、森学長、児玉学長、見藤学長と私が集まり、早速第1回の特別委員会を開催した。カラオケ帰りで上機嫌の錦君達事務局のメンバーも加わって盛り上がり、“午前会議”になったところで散会にした。

 最終日は、前日の分科会の議論の様子を、座長をお願いした釧路公立大の荒又学長、岡山県大の本田学長、前橋工科大の道脇学長、富山県大の川端学長、茨城県立医療大の阿部学長及び静岡県大の廣部学長から報告して頂き、それを元に全員で活発な意見交換を行った。内容は「財政問題」「法人化問題」「評価」「学長のリーダーシップ」「教員任期制」「特任教授」「地域貢献」「入試」「教育」など多岐にわたった。12時過ぎに研修会の全ての日程を終了し、昼食をとった後、2泊3日の学長研修会は解散となった。
 学長研修会は今年が2回目であるが、昨年を大幅に上回る参加者を得て、極めて活発な意見交換ができたことは有意義だった。お忙しい中を日程をやりくりして参加して下さった学長の皆さんに御礼を申し上げるとともに、会場をお引き受け頂き至れり尽くせりのお世話をして下さった広島市立大学に心から感謝申し上げたい。
 これからも学長研修会が益々有効に機能し、全国の公立大学 72校の絆となり、また公立大学の一層の繁栄の礎となることを願ってやまない。


公立大学協会前々会長の私的ページへ