2007.07.08

誤字等No.166

【助さん角さん】(誤変科 固有亜科)

Google検索結果 2007/07/08 助さん角さん:10,800件

日本の時代劇における定番中の定番といえば、ご存知「水戸黄門」。
そして黄門様のお供といえば、「助さん」と「格さん」ですね。

剣術の達人、「助さん」こと佐々木助三郎。
柔術の達人、「格さん」こと渥美格之進。

群がる悪人たちを懲らしめるため、今日もまた、光圀公の指示がとびます。

「助さん、格さん、やっておしまい!」
「あらほらさっさー!」

圧倒的な強さで悪人をなぎ倒す二人の活躍は、爽快そのものです。
(何か違うものが混ざっているような気もしますが、無視してください……)

叩きのめされ、戦意を喪失する悪人たち。
そんな彼らに「とどめ」をさすべく、格さんは懐から「最終決戦兵器」を取り出します。
それは、どんな強敵をも一撃でひれ伏せさせるという、伝説のレアアイテム。

「頭が高い! 控えおろう!!」

時代劇の悪人といえば、暴れん坊の将軍様にも斬りかかる連中です。
「前の副将軍」という微妙な肩書きだけで屈服させることなど、到底できません。
その光景は、最終決戦兵器の破壊力がいかにすさまじいものかを物語っています。

……と、冗談はさておき。
日本人なら誰でも知っている、と言っても大げさではないほど有名なこの話。
助さん」「格さん」の名も、全国レベルで知れ渡っていることでしょう。

しかし、その漢字表記までを正確に記憶しているか、となると、いささか「心許無い」人も多いようで。
特に、印籠を取り出すという重要な役割を持っているはずの「格さん」が問題です。
格さん」ではなく「角さん」だと思ってしまっている人が、たくさんいます。

実際に検索結果の件数を比べてみましょう。

格さん:約 130,000件
角さん:約 114,000件

なんとか本家「格さん」が上回っているようですが、その状勢はきわめて微妙です。
無論、この結果がすべて水戸黄門の話題というわけではありませんが、それにしても多いですね。

なぜ、これほど「」の字が人気なのでしょうか。
生真面目な性格からの連想か、あるいはその風貌からか。
どういうわけか、「」よりも「」の方がぴったりくるような気がしてしまいます。

原因のひとつとして考えられるのは、将棋の「角 (角行)」です。
将棋の戦局を左右する大駒、「飛車」と「角行」。
黄門様を「玉将」にたとえるなら、飛車・角は文句なしに「助さん」「格さん」でしょう。

剣の強い助さんを「飛車」にたとえ、多彩な技を持つ格さんを「角行」になぞらえる。
イメージぴったりです。
角さん」なる表記には、このような想像が関連しているのかもしれません。

助さん」「格さん」ともに、他にも様々な漢字表記を見ることができます。
それらの一部は、後述の「亜種」でご紹介します。

格さん」の場合、誤字だけではなく「駄洒落」も豊富です。
「核酸」とかけた「デオキシリボ格さん」などは、理系の学生にはおなじみですね。
(え、なじみでない? それは失礼しました)

さて、水戸黄門の「助さん」「格さん」にはモデルとなった人物がいます。
それが、徳川光圀の家臣だった「佐々宗淳」と「安積澹泊」です。

この時代の人には珍しくないのかもしれませんが、この二人、いくつもの名を持っています。
「諱 (いみな)」「字 (あざな)」「号 (ごう)」などと呼ばれる名です。
さらに、「通称 (通り名)」もありました。
佐々宗淳の通称は「介三郎」、安積澹泊は「覚兵衛」です。
間違いなく、これらが「助さん」「格さん」の名の由来ですね。
ならば、「介さん」「覚さん」という表記は、「誤字」ではなく「本家」だとも主張できそうです。

ちなみに。
水戸黄門関連では、実に大量のトリビアがあります。

上記の二人は「侍」というより「学者」だったとか、
光圀の時代に「副将軍」という役職は実在しなかったとか、
日本で最初にラーメンを食べたのが光圀だとか、
食べるだけでなく、自ら麺を手打ちするようになったとか、
佐々宗淳の実兄の子孫が、初代内閣安全保障室長の佐々淳行氏だとか……

まだまだネタはありますが、それらを語りだすと長くなってしまいそうなので、このくらいでやめておきます。
興味のあるかたは、色々と調べてみてください。
ただし、インターネット上に散らばる情報が「すべて真実」とは限りませんのでご注意を。

[実例]

日本人とは、かくも「誤変換」に弱いのでしょうか。
このような「誤変換」が原因と思われる誤字等の品種を、「誤変科(ごへんか)」と命名しました。
そして、誤変の波は人名や地名などの「固有名詞」にまで及んでいます。
そのような品種を、誤変科から分岐した「固有亜科(こゆうあか)」と命名しました。

[亜種]

角さん助さん:2,120件
介さん格さん:176件
介さん角さん:119件
輔さん角さん:22件
助さん核さん:8件
助さん各さん:7件

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