2005.10.16

誤字等No.143

【更新復暦】(似字科)

Google検索結果 2005/10/16 更新復暦:152件

今回は、名無しさんからの投稿を元ネタにしています。

検索結果の件数は少ないですが、なかなか派手な誤字ですので、これだけでも十分という印象です。
世の中には、「なんとなく、それっぽい」だけで満足してしまう人たちがいるのですね。

おそらく、ただ「復暦」とだけ書いてあったら、何のことだか理解できません。
」は、「帰る (往復)」「戻る (復元)」「繰り返す (反復)」などの意味を持つ漢字です。
」は、「こよみ」や「カレンダー」の意味ですね。
「暦に戻る」「繰り返すカレンダー」……意味不明です。

これが「更新復暦」という形になったとき、やっと正体が判明します。
履歴」のつもりだったんですね。

自分のWebサイトに「更新履歴」を載せる人は、非常に多いです。
ここ「誤字等の館」にも、それらしきものは置いてあります。
要するに、サイトを更新してきた経歴を記録したもの、です。

それがなぜ「復暦」になってしまうのでしょうか。
履歴」と比べてみると、漢字は二文字とも変わってしまいました。
おそらく、「読み」も変化しているはず。
この間にどのような変化があったのか、その過程を追ってみます。

まずは出発点である「履歴」。
りれき」と読みます。
更新履歴」の他には、「履歴書」の形でもよく使われますね。
学歴や職歴など、たどってきた経歴を記した書面です。

ここから「復暦」への変化は、二つの漢字をそれぞれ独立して考察します。

後者の漢字「」から「」への変化は、簡単に推察できます。
この両者が「よく似た漢字」であることが原因ですね。
文字の形も似ているし、読みも「レキ」で共通です。
手書きでも書き間違うこともあるでしょうし、誤変換もあるでしょう。
注意力が足りなければ、「履歴」が「履暦」になっていても違いに気付くことさえないかもしれません。
「歴史」を「暦史」と書いてしまう人もいるでしょう。
その逆に、「西暦」を「西歴」と書く人もいるはずです。

もうひとつは、「」から「」への変化です。
考えられる第一の原因は、やはり文字の形が似ていることですね。
」から「」の部分を取り除けば、「」になりますから。

これが原因であるならば、二文字とも「似た形の文字」であることが原因で変化したことになります。
このことから、誤字等の館では「更新復暦」を「似字科」に分類しました。

」から「」に変化する可能性は、他にもあります。
第二の原因は、「誤読」によるものです。

  1. 履歴」の読み方が分からない。
  2. 」の中に「」を見つけ、とりあえず「ふくれき」と読んでみた。
  3. そのまま「ふくれき」として学習してしまった。
  4. 読みは「ふくれき」として覚えたが、「」の漢字は忘れた。
  5. ふくれき」で変換しても、「履歴」は出てこない。
  6. なんとなく、「それっぽい」漢字を選んでみた。
  7. 復歴」の完成。

最後の過程で「」以外の漢字を選べば、「ふくれき」と読めそうな表記は他にも色々と作れます。
複歴」「福歴」「服歴」「副歴」などなど。
実際に、上記すべて実在を確認できました。
明らかに、この人たちは「ふくれき」だと思い込んでいますね。

もうひとつ、少しだけ複雑な過程も考えられます。
それは、間に「」という漢字をはさんだ二段変化です。

」と「」は、よく似た漢字です。
履歴」という言葉をよく知らない人なら、「」と「」を見間違えても不思議ではありません。
実際に、「覆歴」と表記している人たちもいます。
それどころか、検索で見つかる件数は「復歴」の何倍にもなっています。

この「覆歴」もまた、「りれき」とは読めません。
やはり素直に読めば「ふくれき」です。
そして、「ふくれき」という読みだけを記憶し、「」の字を忘れてしまえば、上記の「誤読」に合流します。

まとめると、「」→似た文字→「」→同じ読み→「」という段階を踏んだ変化ですね。

以上すべてを合算して、ようやく「履歴」が「復暦」へと変貌します。
ここまでくれば、もはや、「うっかりミス」などの範疇に入るような間違いではありません。
日本語に対する「挑戦」の領域です。

毎度のごとく、「亜種」もいろいろと探してみました。
簡単に思いつくようなバリエーションは、すべて実在します。
一人や二人ではありません。
こんな間違いに気付かない人が、何百人と実在するのです。

見つけた亜種は後述しますが、そのほとんどは、おそらく「ふくれき」と読まれていることでしょう。
「俺様流」で勝手な読み方をして、勝手な漢字を当てはめる。
そんな言葉を、ウェブサイトのトップページで堂々と公開する人たち。
個人だけではありません。企業も混ざっています。
この現状は、いったい何を物語っているのでしょうか。

ところで、前述のように「履歴」は「履歴書」の形でも使われる言葉です。
就職試験で「履歴書」を提出したはずが、「復暦書」になっていたとしたら……
残念ながら、その場で不合格決定です。きっと。

[実例]

日本人とは、かくも「似たような字形」に弱いのでしょうか。
このような「似たような字形」が原因と思われる誤字等の品種を、「似字科(じじか)」と命名しました。

[亜種]

更新覆歴:434件
更新複歴:89件
更新福歴:6件
更新服歴:362件
更新副歴:18件
更新復歴:244件
更新履暦:264件
更新覆暦:975件
更新複暦:88件
更新福暦:60件
更新服暦:153件
更新副暦:99件
更新復暦:152件

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