2005.10.30

【誤字等の談話室 36】

誤字等の館 (ごじらのやかた) に寄せられる読者様のコメントに対して館主が答える「誤字等の談話室」、その第36弾です。

[083]

「一発触発」なる言葉を使った友人がいたので、疑問に思い「一触即発」では
無いかと質問してみた所、「歌の歌詞にもあるから正しいのでは?」と言う答
えが返ってきました。

検索してみると確かにワンサカ出てくるので、「一触即発」ではなく、「一発
触発」でもそれはそれで正しいのでしょうか?

「触発」という言葉は、実在します。
意味は、

  1. 何かに触れて爆発すること。
  2. 何らかの刺激により行動の意欲を起こさせること。
使われる機会は、後者の方が多いでしょうか。
例文は「友人に触発されてジャズを聴くようになった」などといった形です。

さて、それでは「一発触発」とはどういう意味でしょうか。
要するに「一発で触発した」あるいは「一発で触発された」ということですから、その線で解釈すると…

  1. 軽く触っただけなのに、すぐ爆発してしまった。
  2. 話を聞いただけで、すぐにのめり込んでしまった。

このどちらかの意味で使っているのなら、間違いではありませんね。
少々分かりづらい表現ですので、問題がないとまでは言えませんけど。

もし、この言葉を「今にも爆発しそうな緊張感」「危機に直面」といった意味で使っているのなら。
それは明らかに「一触即発」の間違いです。
弁明の余地も無く、言い訳するだけ恥の上塗りになる正真正銘の誤字です。
自信を持って、「間違っている」と言い切って構いません。

実際、間違えている人は多いですね。
「誤字等の館」本編の方で考察してみても面白いかもしれません。

ところで、この件に関しては、言葉の間違い以上に気になることがあります。
それは、「歌の歌詞にもあるから正しいのでは?」という考え方そのものです。

はっきりいって、そのような考え方は、今すぐ捨て去るべきです。
この台詞自体が、「言葉」に対する「常識の無さ」を証明してしまいます。

「歌」という「作品」に、日本語としての「正しさ」など求められていません。
それよりも、「語感」や「リズム」といったものの方が優先されがちです。
日本語だけではありません。
文法など無視して適当な英語を混ぜた歌詞は、たくさんあります。

無論、でたらめな日本語ばかりというわけではありません。
流麗な日本語をきっちりあやつる作詞家も大勢います。
正しい日本語だけで構成された歌も、正確な英語が記述された歌もあるでしょう。
しかし、「正しさ」だけにこだわっていては、アーティストとしての「センス」は発揮しづらくなります。

「当て字」や「造語」はあたりまえ。
漢字に普通ではない「読み」をさせたり、わざと妙な言葉遣いをすることで印象を強くしてみたり。
それが、「歌詞」というものです。
特に「インパクトがすべて」の流行歌では、その傾向が顕著なものとなります。

そのような現状に気付くことすらできず、「歌詞にあるから正しい」などと思っているとしたら。
基礎的な「国語能力」自体も疑われてしまう状況です。

もしもそんな勘違いが横行しているようだと、作詞家にとっても不幸なことになりかねません。
歌詞が子供たちに間違った日本語を教えているとして、教育上「有害」という烙印を押されてしまうとか。
悪夢ですね。
躾や教育の不備を「他人」のみの責任と断定する親が大量にいる現代ですから、笑い話とも言い切れません。
難儀なものです。

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