2004.07.10

誤字等No.093

【一瞬先は闇】(取違科)

Google検索結果 2004/07/10 一瞬先は闇:294件

今回は、匿名希望さんからの投稿を元ネタにしています。

たとえ順風満帆に見えようとも、一瞬の後には悲劇が待ち受けているかもしれない。
まさに未来は予測不能である。
…とでも解釈すればよいのでしょうか。

一瞬先は闇」という言葉は、まるでそんな「ことわざ」が実在するかのような印象を与えます。
ところが、それは勘違い。
本来の言い回しは、「一寸先は闇」。「いっしゅん」ではなくて「いっすん」です。

行く道の一寸先には、何が転がっているか分からない。
まさに未来は予測不能である。
…意味としては、ほとんど同じですね。

一寸」とは昔の日本で使われていた長さの単位の一つで、ほぼ3cmに相当します。
尺貫法が廃止された現代では、長さを示すために使われる機会はほとんどありません。
その代わりに、「わずかな距離や時間」を示すたとえとして使われることがあります。
それは、「一寸」の別の読み方である「ちょっと」という言葉にもあらわれています。

余談ですが、おとぎ話に登場する「一寸法師」、いくらなんでも身長3cmでは小さすぎます。
これでは「お椀の船」を操るのも並大抵のことではないでしょう。
解釈は色々と試みられているようで、「生まれたときのサイズで名づけられたものの、鬼退治の頃には五寸くらいには成長していた」という説もみかけたことがあります。
が、ここはそう杓子定規に「身長一寸」とせず、「背丈が非常に小さい」ことをたとえて「一寸」と呼んだと解釈した方が自然だと思います。

振り返って、「一寸先は闇」ということわざ。
これもまた、きっかり「3cm先」ではなく、「すぐ目の前」と考えた方が良いでしょう。
あるいは、前述のように「一寸」を「ちょっと」と読んでしまえば、より分かりやすいかもしれません。
このように、「一寸」という単位そのものには馴染みがなくても、ことわざを理解することは可能です。

しかし、この言い回しに出会った機会が、「文字」ではなく「音」だとしたら。
いっすん」だったものが、よく似た発音の「いっしゅん」と聞き間違えられてしまったとしても、不思議はありません。
そして、現代日本人にとって馴染みのある言葉は、圧倒的に「一寸」よりも「一瞬」でしょう。

さらに、冒頭の説明のように「一瞬先」でも「それらしい解釈」が十分に可能です。
しかも、結果として「一寸先」の場合と「同じ意味」が導き出されました。
すなわち、「一寸先」であるべきところが「一瞬先」になっていても、そのまま話は通じるわけです。
偶然にしては、よくできたものです。

別の見方をすれば、「それらしい解釈」が可能だからこそ、「一瞬先は闇」ということわざが実在するという誤解を生むとも言えます。
さらに言えば、「時間」と「距離」の両方を指し示す「一寸」とは違い、「一瞬」は「時間」だけに関わります。
考え方次第では、現代人に馴染みやすい「一瞬」の方が、「予測不能な未来」を表すためにはふさわしいのかもしれません。

まだまだ件数的には普及していない「一瞬先は闇」ですが、今後「一瞬派」が増加し、一大勢力を築くまでになれば。
未来の国語学者から、「言葉の進化」として扱われるようになる可能性も、ないとは言い切れません。

[実例]

日本人とは、かくも「別の言葉との取り違え」に弱いのでしょうか。
このような「取り違え」が原因と思われる誤字等の品種を、「取違科(とりいか)」と命名しました。

[亜種]

一瞬先はやみ:1件
一瞬先は暗闇:4件
一瞬先は真っ暗:1件
一瞬先は光:13件
一分先は闇:2件
一秒先は闇:2件

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