2004.07.13

誤字等No.094

【そんじゃそこらの】(平誤科)

Google検索結果 2004/07/13 そんじゃそこらの:948件

そんじょそこらの品物とは訳が違う!」
自分の扱っている商品の価値を謳い揚げる、商人の常套句です。
他人の作品を賞賛するときにも、「そんじょそこらのものとはレベルが違う」などと表現したりします。
勘違いしている人がいるようですが、「そんじゃそこらの」ではありません。

ところで、この「そんじょ」とは一体何のことでしょうか?

そこら(其処ら)」は、「その辺の場所」あるいは「その程度」といった意味で普通に使われる言葉です。
そこいら」「そこら辺」などの変形もあり、「漠然とした」感じで何かを指し示すときに登場します。

一方の「そんじょ」は、「そんじょそこら」という組み合わせ以外では滅多にお目にかかれません。

このような「そんじょ」という言葉の備える「意味不明さ」が、微妙な言葉の変化を誘発したのでしょうか。
そんじゃ」「そんじゅ」など、いくつかの変種が登場しました。
中でも「そんじゃ」の数が多いのは、発音してみて「違和感が比較的少ない」言葉だからかもしれません。
もともと意味不明な言葉であれば、「そんじょ」が「そんじゃ」になったところで、たいした違いはないのでしょう。

そこらの」だけでも、「どこにでもある」「珍しくもない」というニュアンスを示すことはできます。
これに「そんじょ」が付くと、その意味はさらに強調されます。
そんじょそこらの物じゃない」と続くことで、「ありふれた一般的なものとは違う、特別な存在である」ことを表現できるようになるわけです。

そんじょ」の本来の形は「そのじょう」で、漢字表記すると「其定」となります。
」が「度合」「程度」を表す言葉であるとすれば、「其定」は「その程度の」という意味になります。
そこから、人や物を直接的に明示せず、大雑把に指し示す表現として使われるようになりました。
さらに、漠然と指し示すという点では同類の「其処ら」と組み合わせることで、曖昧さはもっと広がります。
そのようにしてアバウトさが強調されたことから、「ありふれたもの」という意味合いが生まれてきたのでしょう。

しかし、現在では「そんじょ」だけで意味を解釈することは難しくなっています。
そのため、「そんじょ」は「そこら」を強調する接頭語のような役割が定着してしまいました。

単なる「強調」のための言葉であれば、その意味まで追究する必要はありません。
そんじゅ」でも「そんじゃ」でも、同じように機能させることが可能です。

そんじょ」で覚えたはずの言葉が、曖昧になる記憶と共に「そんじゃ」へと変化したのか。
それとも最初から「そんじゃ」と誤認識して覚えてしまったのか。
あるいは両者の区別がついていないのか。
「よく分からないけど、どっちでもいいや」と思っているのか。
そんじゃ」を使うようになったいきさつにも、色々な事情がありそうです。

さらに亜種を探す過程で、「損所そこらの」という表記も見つかりました。
しかも、意外なほどの件数がヒットしています。
読みは、おそらく「そんじょそこらの」でしょう。
平仮名のままで良いものをわざわざ変換してしまった、というタイプの誤変科誤字等です。

損所そこらの」を書いた人は、発音としては、言葉を正しく覚えていることになります。
入力の途中で、誤って「変換」キーを押してしまったのでしょうか。
まさか、「」などという表記が正解だと思い込んでいるはずはないと思うのですが…

[実例]

日本人とは、かくも「平仮名の間違い」に弱いのでしょうか。
このような「平仮名の間違い」が原因と思われる誤字等の品種を、「平誤科(ひらごか)」と命名しました。

[亜種]

そんぞそこらの:10件
そんじゅそこらの:162件
そんじよそこらの:14件
そんじゃぁそこらの:1件
そんじゅうそこらの:13件
損所そこらの:59件
損じゃそこらの:2件

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