2006.03.11

誤字等No.151

【NEC特選街】(取違科 固有亜科)

Google検索結果 2006/03/11 NEC特選街:33,100件

誤字等の館で初の題材、「サイト名」の登場です。

正しい表記は、「NEC得選街」。
日本電気株式会社 (NEC) が運営している、SOHO/企業向けのショッピングサイトです。
NEC製の企業向けパソコンやワークステーション、プリンタなどを扱っています。
NECビジネスPCの情報発信サイト「8番街」と対をなしているようないないような、微妙なネーミングです。

ところで、「得選」とはどのような意味の言葉でしょうか。
辞書を調べてみたところ、二つの意味が載っていました。

1) 采女(うねめ)の中から選ばれた御厨子所(みずしどころ)の女官。食事などの雑事に従事。
2) 律令制で、考課の対象となる官職。
(「大辞林」より)

なにやら、難しい言葉が並んでいます。
「采女」は天皇・皇后に仕えた雑役担当の女官、「御厨子所」とは天皇の食膳調理を司った役所だそうです。

ということは、「得選街」とは、天皇の食事を作る女官さんがたくさんいる街のことでしょうか。
…さっぱり、意味がわかりません。
それが「ショッピングサイト」の名前になっているのも、理解不能です。

と、このような無理矢理な解釈は、NECさんにとって想定外のことでしょう。
たぶん、ほぼ確実に、サイトの名称は上記の「得選」とは何の関係もありません。
きわめて単純に、「特選」と「お得」とを掛け合わせた「造語」のつもりなのだと考えるのが妥当です。
実際、NEC以外でも「得選」という言葉をキャッチフレーズに使っているところは少なくありません。
それだけ、簡単に思いつく「安直なフレーズ」だということです。

安直である上に、さしてインパクトもない造語は、それを見た人の記憶に残りません。
造語であることに気付かず、「とくせんがい」という読み方だけを覚えている人も多いでしょう。
そのような記憶の持ち主が文章を書けば、普通に「特選街」と表記することとなるでしょう。
それが自然です。
こうして生まれたと考えられる誤字が、今回の表題「NEC特選街」です。

無論、本当は「得選街」であることを知っている上での「誤変換」である可能性もあります。
同一ページ内に「得選」と「特選」が混ざっているようなページは、誤変換である確率が高いです。
しかし、ページタイトルから本文中の記述まで、徹底的に「特選」になっているサイトは、きっと違います。
この場合、「特選」が正しい表記であることに一片の疑いも持っていないと考えることができます。
NECが「造語」を使っていることに気付かず、「一般用語」である「特選」と取り違えた状態です。
これを主原因とみて、ここ誤字等の館では「NEC特選街」を「誤変科」ではなく「取違科」に分類しました。

企業にとって、「サイト名」はひとつの「ブランド」です。
使い方次第では、ビジネスに数々の利点をもたらす「財産」です。
NECほどの大企業がその価値を理解していないなど、絶対にあり得ません。

しかし、「ブランド」が力を発揮するためには、消費者に「認知」されることが必須条件です。
認知度を向上させるために、各企業は莫大な金額を投入し、広告を展開します。

NECが、どのような意図を持って「得選」という言葉を作り出したかはわかりません。
その背景に、どのような戦略があるのかもわかりません。
ただひとつ言えるのは、何らかの戦略自体は確実に存在していることです。
戦略の無い企業が、一流であり続けることなど不可能ですから。

が、少なくとも「得選街」というサイト名だけに限るならば。
その名前に「ブランド」としての効果があるかどうかは、疑問です。
多くの人が「特選街」だと思い込んでいるのなら、正しい表記「得選街」は認知されていないことになります。
そして「特選街」の方は、一般的な「普通の言葉」です。
「固有名詞」ですらありません。
NECの「得選街」がブランドになっているかどうかと問われれば、「No」と答えざるを得ないでしょう。

さらに、このサイトには大きな問題があります。
NEC得選街のURLは、以下の通りです。

http://club.express.nec.co.jp/store/default.htm

キーワードとなるのは、「club」「express」、そして「store」。
得選街」を連想させる言葉は、ひとつも入っていません。

関連サイト「8番街」はどうでしょうか。

http://www.express.nec.co.jp/index.html

こちらも、「8番街」につながる言葉は一切見当たりません。
このようなURLを使っている点で、NECがこれらのサイトを「ブランド」にするつもりのないことがわかります。
すなわち、ブランド戦略に失敗しているわけではなく、ブランド化しないこと自体が戦略なのです。

ついでに、NECのトップページからリンクされているサイトを色々と調べてみました。

パーソナル製品の総合情報サイト「121ware.com」。
PCショッピングサイト「NEC Direct」。
携帯電話の情報サイト「ワイワイもばいる」。
インターネット総合サービス「BIGLOBE」。
中堅・中小企業ポータルサイト「SMBcafe」。
ソリューション情報サイト「Business Solution」。

命名方針は、見事なまでに「バラバラ」です。
それぞれが独自の方向を向き、それぞれの基準で命名しています。
その方向性を合わせようとする意識は、皆無です。
さらに、「NEC Direct」を除いて「会社名」とも全然関連していません。
どれもこれも、NECが運営しているサイトである必然性がかけらもない名前です。
そして、これらのURLもまた「共通のルール」など全く考慮されていません。

以上のことから導かれる結論はひとつ。
NECという会社は、WEB上で「ブランド」を形成するつもりなどありません。
「サイト名」を「財産」として育てる意図など、毛頭ないのでしょう。
それは同時に、「企業」として各WEBサイトを支えるつもりが一切ないことの意思表示でもあります。
それぞれのサイトは、自らの力で浸透を図るしかないのです。
名称の認知度を上げたいなら、「BIGLOBE」のように自力で広告展開する必要があります。
無駄に見えますが、それが企業の方針なら、部外者がとやかく言うことではありません。
きっと、巨大企業である故の事情が色々とあるのでしょう。

当事者であるNECがそのつもりなら、「得選街」の表記が浸透しないのも当然です。
特選街」だと思っている人が多いのは、ある意味「必然」の結果と言えます。

ただ、実際には「得選街」と正しく表記しているサイトもたくさんあります。
生みの親に大切にされていなくても、「得選街」は十分に頑張っていますね。

NECは日本を代表するコンピュータメーカーです。
当然、巨大なマーケティング部門を擁していることは疑いようもありません。
優秀な人材が、日夜戦略を練り、展開しているはずです。
皮肉でもなんでもなく、今の状況は「NEC自身が望んだ姿」です。
その真意は、私にはわかりません。
しかし、なんとも「もったいない」という気がしてなりません。
今の時代、WEBサイトには、もっと価値があると思うのですが…

[実例]

日本人とは、かくも「別の言葉との取り違え」に弱いのでしょうか。
このような「取り違え」が原因と思われる誤字等の品種を、「取違科(とりいか)」と命名しました。
そして、取違の波は人名や地名などの「固有名詞」にまで及んでいます。
そのような品種を、取違科から分岐した「固有亜科(こゆうあか)」と命名します。

[亜種]

NEC特撰街:7件
NEC八番街:5件

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