2006.02.04

誤字等No.150

【インストゥールメンタル】(外誤科)

Google検索結果 2006/02/04 インストゥールメンタル:350件

今回は、「nrg」さんからの投稿を元ネタにしています。

フューチャリング」や「トリヴュート」に続く、音楽関連用語から生まれた外誤科の誤字等です。
音楽好きには、妙な外来語を使いたがる傾向でもあるのでしょうか。
今回ご紹介する誤字等も、前記二者に劣らず不思議な外来語です。

もし、「インストゥールメンタル」という発音に「英語らしさ」を感じているのだとしたら、それは大きな勘違いです。
自分が「生粋の日本人」であることを自覚した方が良いでしょう。

一般的に、楽器による演奏だけで構成される、歌の無い楽曲を「インストルメンタル」と呼びます。
語源となった英単語「instrumental」は、「楽器の」「楽器で演奏される」などの意味を持つ形容詞です。
厳密には「インストルメンタル・ミュージック」とでもすべきところでしょうが、日本語では「インストルメンタル」だけで通用します。
この言葉、カタカナでは「インスツルメンタル」あるいは「インストゥルメンタル」と表記されることもあります。
ここまでは、「表記の揺れ」の範囲です。

instrumental」の四文字目にある「t」は、母音の無い「子音だけの音」です。
日本語の「五十音」の範疇には存在しない発音ですので、「正確な発音」のまま外来語化することはできません。
」にするか「」にするかは、もはや「感性の問題」と言って良いでしょう。
より「発音しやすい」方を選ぶ、といった基準で十分です。

」でも「」でもなく「トゥ」を選ぶ人は、「原語の発音」を重視する人かもしれません。
日本語の「タ行」を構成する子音は「」とは違いますので、子音のみの「t」音を「トゥ」と表記したくなる気持ちは理解できます。
トゥ」を「母音入り」で発音しているようでは台無しですが、きっちり「子音のみ」で読むなら「英語っぽい」発音も可能です。

ところが。
悲しいことに、日本人の多くは、そこまで器用ではないのです。
トゥ」を「子音のみ」で発音するなど思いもよらず、しっかり「母音入り」で発音している人は大勢います。
いや、それだけではありません。
トゥ」を「一音」として発声することすらせず、「トゥ・ー」と「二音」にして読んでいるケースも多いものです。

普段から、そのような読み方が習慣化していたのなら。
文字として「インストゥルメンタル」と表記されていても、読むときには「インストゥールメンタル」の発音になります。
その発音は記憶に刻まれ、いつしか表記までも「インストゥールメンタル」に変わります。

これが、私の考える「インストゥールメンタル」の発祥です。
インストウルメンタル」や「インストールメンタル」などの亜種も、「トゥ」を一音で読めなかったことが原因でしょう。

」や「」ではなく「トゥ」を選んでいることから、「英語らしさ」を求めている様子は見られます。
しかし残念ながら、「母音をはっきり発音する」日本人らしい発声法から抜け出すことはできず。
結果として、かえって原語から遠ざかることになってしまいました。
これが、「生粋の日本人」たる証と言えます。

さて、ここ誤字等の館では、これまでにも「トゥー」という表記の含まれる誤字等をご紹介したことがあります。
初期の作品「インストゥール」、そして「ヒール・アンド・トゥー」です。
どちらも、普通に「トー」と発音すれば英語に近い発音になるものを、何を勘違いしたのか「トゥー」などと捻じ曲げたことで妙な言葉になってしまった実例として取り上げました。
発音変化の過程は、今回の「インストゥールメンタル」とは違います。
それでも、その根底にある「考え方」は、おそらく同じです。
他の外誤科誤字等の多くにも共通するその考え方は、「日本語らしくない」音を信仰する思想です。

トゥ」や「ティ」、あるいは「フュ」や「」などの文字が入っているだけで。
「日本語らしくない」、すなわち「外国語っぽい」と単純に思い込んでしまうのでしょう。

そのような人が本当に重視しているのは、「原語」ではありません。
実際の英語での発音など、興味ないのです。
大切なのは「それっぽい」雰囲気があるかどうか。
自分が「それっぽい」発音をする人間であることをアピールできるかどうか。
それは、「見た目」「雰囲気」を最重要視する人たちにとっては、とても大事な姿勢なのでしょう。
カタカナを多用し、妙にカッコつけた文章に登場することが多いのも、そのためと推察されます。

そして、この姿勢は「トゥ」が「トゥー」に変化する「もうひとつの原因」とも考えられます。
音を伸ばして発音することにより、語の中で「トゥー」の部分が「目立つ」ようになります。
「日本語らしくない」音を目立たせること、それは「それっぽい」発音をしている自分自身の強調です。
「それっぽい」発音をする自分を前面に押し出し、そんな自分に酔う姿。
「知識」の問題でも、「英語力」の問題でもなく、その人の「考え方」の問題です。
価値観は人それぞれですが、私はそれを「かっこ悪い」と感じます。

ところで、「インストゥール」には「インストロール」という亜種がありました。
今でも、その件数は増え続けています。
しかし、「インストロールメンタル」という表記は、見つけることができませんでした。
なぜか「インストロール」は「年配男性」の専売特許のようですから、「インストルメンタル」などという言葉とは縁遠いのかもしれません。
これがいわゆる「世代の違い」というものでしょうか。

[実例]

日本人とは、かくも「外国語の発音」に弱いのでしょうか。
このような「外国語の発音」が原因と思われる誤字等の品種を、「外誤科(がいごか)」と命名しました。

[亜種]

インストウルメンタル:317件
インストールメンタル:173件
インストォルメンタル:10件
インストウールメンタル:3件
インスツールメンタル:29件
インスツゥルメンタル:58件
インスツウルメンタル:1件

前 目次 次