チャンバラ再考


 『歴史読本』の2001年12月号の巻頭特集は「戦国7大合戦のなぞと新事実」と題した、戦国時代と呼ばれる時代にあった有名な7つの合戦についての考察が書かれています。ちなみに、7大合戦とは以下の合戦です。

  1. 厳島
  2. 川越の夜戦
  3. 桶狭間
  4. 川中島
  5. 姉川
  6. 長篠
  7. 賤ヶ岳(しずがたけ)

 それぞれ、教科書ではわからない史・資料から得た情報を元にさまざまな考察がかかれていてなかなかに読み応えのある記事でした。

 そのなかでももっとも目を引いたのが6番目にあげられている「長篠」の合戦です。

 ご存知のように長篠の合戦は織田信長(と、徳川家康の連合軍)と武田勝頼との争いで、一般に騎馬中心から鉄砲中心の戦術へ移行した戦いといわれています。この戦いで、無敵を誇った武田の騎馬隊は信長が考案した「3段撃ち」に全滅の憂き目にあった、とも言われています。果たして、これは本当のことでしょうか?と、いうのが記事の導入です。
 確かに、この大量の鉄砲を立ち代わり間断なく打つ、といったことができたのか疑問に思うことがあります。この、3段撃ちは1隊1000人で行ったといわれていますが、1000人もの人間に一糸乱れない隊列行動を取らせることができるでしょうか?訓練していたとしても、戦場でその成果が出ていたかというとちょっと疑問です。

 さらに、長篠は織田信長が「初めて戦場に大量の鉄砲を投入した」合戦ともいわれることもあります。すくなくとも、私が中学を卒業するまでに読んだ戦国物はほぼ例外なくそのような記述がありました。
 そうなると、「雑賀衆」の立場はどうなるの?という疑問があったりします。が、そんなことを気にする人は「信長の野望」で雑賀衆に痛い目に会った人か、歴史を趣味の範囲を超えて調べている人のどちらかなような気がします。個人的にですが。

 と、まあそんなことが書いてある同じ号に、現在の歴史常識に疑問をなげている3人の著名人の対談があります。その中の1人に鈴木眞哉氏という方がいまして、この人の著作に「刀と首取り」と言うものがあります。はて、どこかで聞いた名と思っていたら何のことは無い、去年の夏ごろに買ったままほっぽり出していた本だったんですね。
 で、まあちょうどいい機会だったので読んでみたんですが、まさに目から鱗が落ちる落ちる。

 一般に、日本刀は何でも切れる上に霊験あらたかな無敵の武器と思われています。これだけでB29だって撃墜できるとし、炎だって噴出すし、頭上にかざせば雷光が落ちてくるし、ウィルオー・ウィスプの首だって落としちゃいます

 それはともかく、これだけ霊験あらたかな日本刀ですが、実際にはどうだったかというと使い物なんかにゃなりゃしねぇというのが、前述の本の趣旨です。著者はそこまで言い切ってませんが要約すればそういことです

 刀が使えない理由としては「白兵」主体の戦闘なんて珍しいほうだった、というのがあります。もともと、武士は弓を使う人でした。弓という遠距離から敵を倒せるのに、自分が負傷する可能性を増やしてまで接近戦をする必要なんかありません。しかし、場合によっては白兵を行わなければいけないこともあったでしょうが、そのときは刀よりも槍のほうが使われていました。刀よりも距離を取って戦える分、負傷する確率は減りますから。しかし、剣の達人なら槍を持っている相手にも勝てる、というイメージがあったりしますが(少なくとも私にはあった)、例えば荒木又右衛門は伊賀上野城下での敵討ちのときに、4人の手勢のうち2人を相手方の槍持ちを倒して、敵方の槍使いに槍を持たせないようにしています。
 また、刀は意外と脆いものだったようです。前述の荒木又右衛門はこの敵討ちのときに木剣で刀をたたき折られています。その昔、槍は突くだけではなく叩きあうためにも使われましたから、叩く上に突く武器(槍)相手に棒(木剣)ごときにたたき折られてしまう剣など到底かなうわけがありません。

 さらに、刀は実は鎧は「切れません」。たまに、鎧ごと切られてしまうシーンが時代劇でありますが、いくらなんでも刀で切れる鎧を着けて戦闘するとは思えません。仮に、切れたら切れたで切れない鎧を職人に作らせるのが普通でしょう(中には切れるものもあったみたいですが、そういうのは「兜割り」とか「篭手切り」などと名前が付けられ珍しがられていました)。

 では、なぜ武士といえば刀か?というと、「太平記」がすべて悪い、とまでは言ってませんが、まあそういうことです。この中に、「チャンバラ」といってすぐに想像つくような描写がいたるところに出てくるのです。さらに、この太平記、大変な人気で「太平記読み」という商売が成り立つほどだったのでその影響力はとてつもなく強かったに違いありません。武士にしてみればいい迷惑だったのではないでしょうか。


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