読  書  日  記  '01

実験・実習で忙しい年でした。

『旅で会いましょう』  グレゴリ青山:メディアファクトリー:950円
『水生無脊椎動物 世界大博物図鑑別巻2』  荒俣宏:平凡社:12621円
『タッチ、この素晴らしい手』  内田儀一朗:全音楽譜出版社:2200円
『手足を持った魚たち』  ジェニファ・クラック:講談社現代新書:860円
『東電OL殺人事件』  佐野眞一:新潮社:各1800円
『幕張サボテンキャンパス』1〜8  みずしな孝之:竹書房:各590円
『「科学者の楽園」を作った男』  宮田新平:日本経済新聞社:743円
『なつかしの小学一年生』  熊谷元一:河出書房新社:1200円
『大むかしの動物』  学研:1460円
『ラテン語のはなし』  逸身喜一郎:大修館書店:2500円
『餓鬼草子 地獄草紙 病草紙 九相詩絵巻』  日本の絵巻:中央公論社:3710円
『上村松園・伊東深水』 20世紀日本の美術A:集英社
『立花隆のすべて(下)』  文藝春秋編:文藝春秋:514円
『蛇 日本の蛇信仰』  吉野裕子:講談社学術文庫:960円
『絵筆のいらない絵画教室』  布施英利:紀伊国屋書店:1600円
『ハンニバル』(上)(下)  T・ハリス:新潮文庫:705/743円
『バイオ・ハンター』  細野不二彦:スコラ:600円
『羊たちの沈黙』 T・ハリス:新潮文庫:781円
『NHKためしてガッテン!4』 NHK科学番組部編:NHK出版:950円
『こんな英語ありですか?』  鈴木寛次:平凡社新書:660円

『旅で会いましょう』  グレゴリ青山:メディアファクトリー
楽しい紀行エッセイ漫画で知る人ぞ知るグレゴリ青山の新刊が出ていたので早速チェック。時間をかけた 貧乏ツアーが主だった若い頃に比べると、時間がなくなったので、それまでずっと避けてきた短い旅行に 挑戦。とあるが、短いといっても船でウラジオストックへ言って即日戻ってきたりと旅程が珍しいのは 相変わらずだった。そして本人も驚いていたが日程が短いとは思えないぐらい色んな出来事や人に出会って いて、やっぱりとても面白かった。
『水生無脊椎動物 世界代博物図鑑別巻2』  荒俣宏:平凡社
水に棲む軟体動物、貝類、微生物、珊瑚、海綿・・その造作の面白さや不思議さを存分に堪能できる 博物図鑑。古今東西の文献から素晴らしい図を集め、解説も生物学的な内容から利用法、歴史、神話、 民族学的分野から、関連の映画などの広範なもので、どのページを開いても濃密な楽しさが味わえる。

この本は大学生協の前の廊下で、平凡社の人が面白い本をいっぱいもって15%引きセールをやっていた所 で見つけた。この博物学シリーズはどれも魅力的だったのだが、特にこの本が気になって、(うわ〜すごく 欲しいなぁ・・・でもすごく高いなぁ・・・でもそれ以上の内容はあるよなぁ・・15%引きなんてめったに ないしなぁ・・・)と毎日毎日眺めては戻していたら、そのうちおじさんと顔見知りになってしまったの だった。そのおじさんは販売員としては押しが足りないんじゃないかと心配になるような物静かな人だった のだが、いいでしょーそれ。きれいでしょう。このシリーズの鳥の方はね・・などと色々教えてくれて とっても楽しかった。

『タッチ、この素晴らしい手』  内田儀一朗:全音楽譜出版社
ピアニスト、ピアノ指導者のための、解剖学的に見たピアノを弾くための様々な姿勢や型、テクニックの 解説書。解剖学に縁のなかった人が読むと結構体力がいる気もするが、ピアノのレッスンをしたことの ある人ならば興味深い個所がたくさんあると思う。子供の頃ピアノを習っていた時に何度も何度も言われた けど今ひとつよく分からなかった「手首や肘はぶらぶらに力を抜けた状態で強いタッチで」とか、「手に力を 入れずに指に体重を乗せて力強く鍵盤に落とす」といった基本と、解剖的な動きのつながりがすごく面白くて 納得してしまった。習っていた頃は「いったいどうしたらそんなことが〜???」と頭の中がいつも?で いっぱいになったものだった。

こういう本があるというのは、ピアノを弾いている医学部の友達に聞いたのだが、出版されたのが12年前と かなり古いので探すのに苦労した。本当はこれをしっかり読んだ上で大学祭の展示に何かピアノをやってる 人たちが見て面白いものを作ろうとも思っていたのだが、全然時間がなくて着手できず、とても残念。

『手足を持った魚たち』  ジェニファ・クラック:講談社現代新書:860円
動物の四肢はどういう経緯で出来てきたのか。ひれに骨格と筋肉がつき、それが徐々に背骨と連結し、 ついに陸上に、と言う進化論、比較解剖から手足の歴史を追った本。医学部に入って大きな嬉しい 誤算の1つは、解剖学などで体のつくりを学ぶと、ものすごく進化論に分け入ることになるという ことだった。カタカナの羅列の古代生物が次から次へと出てくる上に、解剖学的考察が続いて 読むのにやや力がいるが、もともと進化論をやりたいと思っていた時期も結構あった私には とても面白い内容だった。
『東電OL殺人事件』  佐野眞一:新潮社:各1800円
数年前、人々の耳目を集めたOL殺人事件。被害者はエリートOLと街娼の二つの顔を持つ女性。その 事件と関係者の周辺を丹念に追った力作。様々な事実関係や、被害者の細かな生い立ち、犯人や、 仲間の出稼ぎ外国人たちの世界、あの町の歴史が追う時代というものの深さ、という情報がもの すごくよく調べてあるのは極めて興味深く、すばらしい仕事だと思うのだが、それ以外のところが 私には全然いいと思えない。やたら思い込みである人物だけに肩入れしたり、因縁話風にいろいろ こじつけて、「・・と思うのは私の気のせいだろうか。」などと逃げながらも随所で感情を誘導している 部分は鬱陶しかったし、娼婦の心的内面を推測しているくだりのいくつかは、いかにも安直な男の発想って 感じがしてかなりげんなりした。一生懸命、誠実に取り組んでいるとは思えるのだけれど・・。

今、桐野夏生が明らかにこの事件をモデルにした小説の「グロテスク」を週刊文春に連載しているが、 そこに出てくる女性達の内面描写はぞくぞくするような迫力とリアリティーがある。桐野氏は当然 この本を読んだと思うが、この内面描写はやはり何じゃこりゃって思ったんじゃないかなぁ等と思った。

『幕張サボテンキャンパス』1〜8  みずしな孝之:竹書房:各590円

要約すれば、千葉ののんびりした大学を舞台にした、ほのぼの(?)キャンパスライフ・ギャグ4コマ、 ってとこだろうか。登場人物たちの味わいが連載中からなんだかとっても好きだった。いわゆる普通の ダラーンとした大学生活という雰囲気と、出てくるこまごましたネタがつぼだったのかな?なんだか 好きな理由を説明しにくいが、お気に入り。医学生のキャンパスライフとは別世界であるのは確か。

『「科学者の楽園」を作った男』  日本経済新聞社:743円

日本の徒弟制、権威のしがらみ、そういうシステムを打ち砕いた自由な研究者の楽園、そう謳われた 理化学研究所が一体なんでこの日本に生まれ得たのか、すごく興味深く思っていたので、その歴史を たっぷりと色々な方面から追ったこの本は本当に面白かった。類まれな才能と人徳で理研を育て上げた 「殿様」、貴族であり科学者の大河内正敏。そして、そこに様々な形で加わった、たいていの人が一度は名を 聞いたことのあるような、きら星のような科学者の数々。一人一人の伝記でも十分に面白いような 豪華なメンバーが次々に出てくる。その背景に流れる歴史の大きなうねりもまた面白い。

中でも意外だったのは田中角栄。初めて東京に出てきた、不安でいっぱいの角栄少年が初めて門を たたいたのが大川内邸。以来長い長い間、すさまじい勢いで理研コンツェルンの拡大に大きな役割を 果たし、強烈な実力や野心と共に、熱い人情で周りを引き寄せていく田中角栄。新潟の普通の家の 大学にも行かせてもらえなかった青年が、いったいどうしてあそこまでいったんだろう、という なんとなく頭にあった疑問も氷解した。

『なつかしの小学一年生』  河出書房新社:1200円

昭和20年代の長野県のある村の子供たちの写真集。一枚一枚に言葉に尽くせないような生命感があって、 見てて本当に楽しい。小学校の中の授業や、日常、家での暮らし、村の様子などなんでこんなに 撮れたんだろうと思ったら、著者は小学校の先生で、教室に当時村に一台であったカメラを常に置いて いたらしい。歴史風俗の資料としても貴重だし、子供の顔って変わらないなぁと思うのも面白いし、 労働が老若男女全ての生活の中にある風景というものに、はっとすることもたくさんある。

『大むかしの動物』  学研:1460円

子供の頃からおなじみの学研の図鑑シリーズ。解剖学、殊に骨格の比較解剖を学んでいると、動物の体 に残る、長い長い時間の物語の形跡が面白くて仕方ない。私の教わっている先生が殊の外比較解剖的な アプローチや進化に重点を置いて話している(らしい)というせいもあって、もともと進化論が大好き だったのに拍車がかかっている今日この頃。子供の頃に、"こんな変な形の生き物がいたんだ"と、目を 丸くして眺めていた図鑑の絵も楽しいが、後ろの方の図と文章による解説が今見るとひときわ面白い。 生き物の誕生から、進化、形態、骨格の変遷についてのお話が、子供に向けて平易に(もちろん振り仮名付き)、 しかしなかなか深く、そしてかなり詳しく書かれている。

『ラテン語のはなし』  逸身喜一郎:大修館書店:2500円

骨の名前をラテン語で覚えていると、今まで知らずに使っていた言葉の源流や、英語やフランス語の おおもとを感じて非常に興味深い。ラテン語の基礎も知りたいが、その辺の語学の歴史的事情も知りたいと 思って探したら雑学を交えて通読できる文法の本という珍しいコンセプトの本を見つけたのがこれ。 とは言ってもややこしい文法の解説が非常に多いのだが、とってもとっても面白かった。一歩踏み出すには 入り口の文法を覚えてモノにする作業は不可欠だという作者の主張に従わずつまみ読みで申し訳ない・・

『餓鬼草子 地獄草紙 病草紙 九相詩絵巻』  日本の絵巻:中央公論社:3710円

室町鎌倉までさかのぼる非常に古い現存する絵巻物とその解説。今見るとキワもの的な感じが強いが、 死と屍というものが日常の中にあった頃の感覚や、怖れと共にあるまっすぐな好奇心、観察眼を濃厚に 伝えている。中でも病草子には今の知識ならば病名がはっきりと分かるぐらい正確な図解が描かれ、 周りの人の好奇の目や怖れもリアルにユーモラスに描かれていてとても興味深い。白子、両性具有、 霍乱、虱をうつされた男と後ろでのんきに笑っている遊女、ヤブ医者の凄惨な目の手術、歯槽膿漏、 パーキンソン病と思われる男、不眠症の女、胃炎による口臭で周りが鼻をふさいでいる様子、肥満、 枕もとに小人の大群の幻が現れる精神分裂病、いずれもよく観察されている。

九相詩絵巻では、野ざらしの死体が腐乱し、骨になるまでの変化を九相に分けて詳細に描いたもので、 実は日本画では時代を超えてよく描かれているテーマで傑作も多いらしい。(以前掛け軸になっている ものを見たことがある)西洋的な写実とはまた違った凄まじいリアリズム。この様を否応なく知って いて生きた時代の人と、現代の人の感覚の違いを様々に思った。

『上村松園・伊東深水』 20世紀日本の美術A:集英社

近代の日本画、美人画の大御所の大判の画集。美しく、緊張感のある凛とした作品はいくら眺めても 飽きない。作品のほか、作者の生き様や、その時代の背景、様々な過程を経た創作の苦悩や喜びの解説も 面白い。一本の線を引くための膨大な習作や、ラフに書いたスケッチの線の恐ろしいような技量の高さ にもゾクゾクさせられる。

『立花隆のすべて(下)』  文藝春秋編:文藝春秋:514円

知の巨人たちが豪勢に寄稿し、本人の若かりし頃の雑誌への寄稿記事を満載し、とても数行で要約できる 内容では無い。どこを開いてもすっごく濃密で、しかも面白く、頭のいい人ってほんとにいいのねぇ〜と 傍観モードで感心してしまう。ハードな内容の中でも一転異色なのが、6歳の娘を編集長に家族で作って いた「たちばなしんぶん」。楽しい〜。そして立花氏、字と絵があのキャラクターからはとても想像できない ・・・かわいらしさ。というか娘の絵のほうがずっと上手だし(^_^;)。

昔の掲載記事は古いものが多いので、学生運動真っ只中の雰囲気が濃厚なものが多い。中でも運動家の父と、 息子へのインタビューから浮かび上がる「断絶」の絶望的な深さが胸に突き刺さるようだった。それと、私が 駿台でお世話になった山本義隆先生の若かりし頃、学生運動の総本山のリーダーとして潜伏真っ最中の記事 がその生い立ちのエピソードなども含めて興味深かった。今は、御本人は決して取材も受けないし、予備校 内でもその話はしないため、私はその辺の背景は殆ど知らなかったのだ。

あと、特に私にとって印象深かったのが69年の「少年マガジンは現代最高の総合雑誌か」という記事の中で 情報の視覚化について様々に触れた文章。"イラストレーションというものが無かったら、生物学は発達しな かったと思う。"一枚のイラスト、イメージの中に入っている情報量の膨大さ、がまさに普段自分でも、 いつもいつも考えをめぐらしていることにつぼだった。他に、脳死、商社etc・・書ききれない。

『蛇 日本の蛇信仰』  吉野裕子:講談社学術文庫:960円

蛇に対する感覚はキリスト教圏と日本ではすごく違う。怖れながらも深い親しみを持ち、敬い、様々な言語や 習俗の端々にしっかりと息づいている。その独特の存在の仕方を深く広く考察したとても面白い一冊。 「かか」、「なぎ」といった蛇を意味する古代日本語が実に様々な言葉となって今も生きているのには 特にびっくり。鏡餅の来歴など所々ちょっと(私なりに)異論があるのだが、扇や平安の衣装に残した影響 他、すごく面白かった。でも諸説をものすごくきっぱりと断言するので、(業界内的に)大丈夫なのかしら(^_^;) と時々人事ながら心配になったり。

読んでいて、私絶対この人知ってる・・・!と思ったら、案の定昔読んだ『陰明五行と日本の民俗』という これまたとっても面白かった本の作者だった。経歴を初めて知ったが、主婦を経て大学再入学、この道での 業績は50からという変り種の方だった。

『絵筆のいらない絵画教室』  布施英利:紀伊国屋書店:1600円

著者は芸大でダビンチの研究をし、「美術解剖学」が専門、東大で養老先生に師事していた人。母校の小学校で 2日間子供に絵を描くことを教えたときのドキュメンタリー。読んでてゾクゾクする。子供たちの目が変わり、 感性が爆発し、一日で描く絵が一転する様子に、何のものとも説明し難いような涙が出てくる。

まず、魚の絵を書かせる。皆、左を頭に固まった、格子じまのうろこの魚。次にヘラブナ釣りをする。うまく いく子、いかない子、最後に釣れる子、子供たちは大興奮。そして次は理科室で解剖。鋭利な刃物を扱わせる。 浮き袋に興味を示す。においで気分が悪くなる。血まみれになる。黙祷をささげる。そのあと、子供たちの 前に、残しておいた水槽で泳ぐフナが現れる。「あっ、生きてる!!」「動いてる!」目を見張る顔。泣きそうな顔。 その後の魚の絵はわずか一日前とは全く違う。数、大きさ、顔つき、動き、周りの水草、うろこ、恐怖や喜び。 周りや、他の魚との関係。

「だめな画家は画家に学ぶ。優れた画家は自然に学ぶ」と言うダヴィンチ。文学を極め、切り開くため「文学と 全く関係のないものを手当たり次第に学んだ」漱石。世界を見、実感するということを色々な角度で解説する 後半も面白い。キレる子供たち、世界から乖離した少年犯罪といった背景に押されて書いた面があるというのも よく分かる。

また、作者に小さい子供がいて、その関りからたくさんのことを見出したり驚いたりしている過程が 今の私にも非常に共感できて面白い。美術と解剖の関わりも、レオナルド・ダヴィンチもずっと私の好きな テーマだったし(*^_^*)!ダヴィンチの絵と文字が渾然となったノートを眺めていると(もちろん翻訳つきで。 岩波から出てる)ワクワクしてしまうのだ。

『ハンニバル』(上)(下)  T・ハリス:新潮文庫:705/743円 

『羊たちの沈黙』の続編。プロファイリングという新しい捜査法を軸に、精密に恐怖を織り成していった 前作から一転して、匂い立つようなイタリア文化の数々、幼児期の闇、警察、政治組織というものの腐り様 といったものが前面に出ている。10年を経てインターネットや携帯電話がすっかりお馴染みになっている 変化もまた一興。また、アメリカの厳然たる階級や育ちに対するこだわりの深さというものがあちこちでヒリヒリ 伝わって来る。日本人の私には半分も分かってはいないのだろうけど。

殺人鬼の主人公はその優雅さと深い知性で簡単にどんな人でも魅了してしまう。しかしその彼の目を一目 見ただけで、即座に「悪魔」と見抜き、畏怖するのは、かっぱらいのジプシー女達、そして腕っ節は強く 残虐だが、単純で兄弟とママを愛するイタリアの殺し屋達。この対比がまた冴えている。

それにしても唸ってしまいました。この作者は一体何者?

それと、今度は訳に全く不具合を感じることなく、すごく滑らかに読めた。早くも慣れたか?と思ったが 訳者が違う。前作も、この人の訳したのが読みたい。また、主人公が使っていた偽名の「フェル博士」、「私は あなたが嫌いです、フェル博士・・」っていう、おえらい博士に対する悪口雑言のイギリスの詩を連想して しまったのだけど、解説の人もそれに触れていてちょっと嬉しかった。

『バイオ・ハンター』  細野不二彦:スコラ:600円

この作者のものが割と好きなので、どんなのかな〜と覗いてみた一冊。悪魔のウイルスで超人的能力を 身につけた主人公とその親友が怪物を退治して回るというお話。「寄生獣」や、「パラサイト・イブ」や、 「デビルマン・レディー」や、なんかそのへんをそのま〜んま混ぜ合わせたって感じ。科学的説明もえらい 大雑把だけどこれは一々文句付ける様なものでもないのでしょう。娯楽作品ということで。作風は堪能 できるし、許す。

『羊たちの沈黙』 T・ハリス:新潮文庫:781円

週刊誌のお正月特大号のお勧めミステリー特集なんかを読むと、普段はあまり縁のないミステリーを手 にとってみようかという気になる。謎の連続女性殺人犯と、それを追う女性捜査官、そしてその協力者であり、 獄中の人でもある社会的には異常者とされる切れ者の元精神科医の話。すごく有名だし、テレビで映画版も 見たのだが(私はスプラッターやグロテスクなシーンがすごく苦手なのにうっかり見てしまった)、なるほど それでも十分ひきつけられた。

映画では気付かなかったが、ルームメイトのやさしい女性がなかなかの存在感。主人公は独身で、家族はおらず、 ハードな仕事をしている。が、疲れきったとき、迷うとき、いつも優しく、暖かく、そして控えめながら聡明に つつみこんでくれるこの明るくチャーミングなルームメイトがいつも彼女を支え、力づけている。まさに、 社会で戦う男には不可欠な古典的な妻の役割って感じ。

また、アメリカの(優秀な)学生が出てくる物語や映画を見ると、なんてまあ毎日たくさん勉強しているん だろうといつも感心してしまう。パワーが違うって感じ。

という内容はともかく、訳文になんか違和感を感じることが多かった。私が海外ミステリーを読みつけて ないというせいもあるだろうが・・。これだけ有名な作品を手がけるからにはきっと有名な翻訳家なん だろうし、欧米人がロジカルに話したり論争したりするときの言い回し等は、言葉の使い方だけでなく、 言動の根っこ自体が日本にあるものと大きく違うので自然に訳すということ自体に無理のあるのだろうが。 でも若い女の子が友達とボーイフレンドの品定めなんかして軽口をたたいてるときに「どっちがイカしてる と思う?」なんて言わないよねえ。普通・・・洋画の吹き替えも女性の言葉遣いがへんてこりんと思うことが 多いのだが。

『NHKためしてガッテン!4』 NHK科学番組部編:NHK出版:950円 

テレビでやっている日常のいろいろな疑問を分かりやすく解説する番組をまとめたシリーズ。色々な 食べ物の効能、健康、居眠り、片付け術、生活に密着した内容がすっごくか学的にしっかり説明されているし、 そのために独自に行った実験や、調査もとてもきめ細かくて、どのページもすっごく面白かった。 去年私が手伝っていた化学の教室にこの番組の作成の人が来ていて 大変興味深かったのだが、その時、一日分にこれだけお金と時間かけるのか〜さすがNHK・・。と思った ものだった。それがぎっちりと詰まっていてライトな雑学集っぽい見かけの割に読み応えがある。

『こんな英語ありですか?』  鈴木寛次:平凡社新書:660円

英語は変な例外や、変則、破格の文法の慣用表現が多くて、だからいいかげんな言語だ、というよく言われる 話に、いやいや、それは違うぞ!これも、あれも、そもそもはこのような歴史があり、こういう変遷を経て こうなったのだ。全て法則で説明できる!!と異議を唱えた英語の文法の本というよりは教養書、言語学の 歴史書といった内容。私は英語はあまり得意とはいえないが、言語学、中でも歴史的な変遷を追うのは大好き なので、本当に面白い内容だった。なんとなく変だなぁと思っていた慣用句もいっぱい載っていたし。

ただ、私は文法などをきっちり理詰めで整理しないと気が済まないというタイプでは全く無い。だから今まで も勉強していて、あれ?これ文法的に変なんじゃ・・??と思っても、まあ言語だし、なんか事情があるんで しょう、よしよし。とそのまま受け入れてきた。こんな面白いものが隠れていたとは、詰めが甘かったなぁ〜。


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