読  書  日  記  '99

あまり時間はなかったけど、落ち着いて読めて嬉しかった年でした。

『知名町地名考』  先間政明:八重岳書房:1360円
『アートの祭り』  カールスモーキー・石井:幻冬舎:円
『新しい生物学』 野田春彦 日高敏隆 丸山工作:ブルーバックス:1040円
『大江戸死体考』 氏家幹人:平凡社:680円
『左右を決める遺伝子』 柳澤桂子:講談社:742円
『ガリヴァ旅行記』 スウィフト:新潮文庫:552円
『仮定の医学』 清水ちなみ:幻冬舎:1260円
『僕は勉強が出来ない』 山田詠美:新潮文庫:400円
『医学生』 南木 佳士:文春文庫:419円
『太陽に灼かれて』 タミー・エバンス:翔泳社:2200円
『沖永良部島・国頭の島唄』 林正吉のノートより:シーサーファーム音楽出版:500円
『男が知りたい女のからだ』 河野美香:ブルーバックス:860円
『日本昔話と古代医術』 槙 佐知子:東京書籍:1800円
『もののけと日本人』 竹光 誠:KIBA新書:667円
『医学を志す若き女性へのメッセージ』 第11回国際女性技術者・ 科学者会議医療部門文科会記念医学論文集付随筆集:非売品
『新解さんの謎』 赤瀬川源平:文春文庫:448円
『サルでも出来る料理教室2』 清水ちなみ&OL委員会:幻冬舎:1200円
『「永遠の少年」の娘たち』 菅佐和子:星和書房:2266円
『検証アニマルセラピー』 林良博:講談社ブルーバックス:800円
『神童』@〜C さそうあきら:双葉社:各580円
『罪深い姫のおとぎ話』 松本侑子:角川書店:1500円
『光る生物』 アニタ・ガネリ:白水社:1900円
『目が語る生物の進化』 宮田 隆:岩波書店:1000円
『アマニタ・パンセリーナ』 :中島らも:集英社:480円
『週刊アートギャラリーNo.4/レオナルドダビンチ』 (株)デアゴスティーニ:560円
『神谷伝兵衛−牛久シャトーの創設者−』 :鈴木光夫:筑波書林:721円
『ヤクザの文化人類学−ウラから見た日本−』 :ヤコブ・ラズ:岩波書店:2900円
『医の現在』 :貴久史麿 編:岩波新書:700円
『アンダーグラウンド』 :村上春樹:講談社:933円
『村上春樹、河合隼雄に会いにいく』 :村上春樹・河合隼雄:新潮文庫:438円
『狂わされた娘時代』 :ビアンカ・ランブラン:草思社:1700円
『西郷隆盛と沖永良部』 :先間政明:八重岳書房:1500円
『英国貴族の城館』 :田中亮三・増田彰久:河出書房新社:1800円
『陰陽師』@〜E :岡野玲子::円

『知名町地名考』  先間政明:八重岳書房:1360円
沖永良部島シリーズ!家人の実家の隣町の様々な地名の来歴やそれにまつわる歴史、言い伝えを集めた本。 もともと、地名に染み込んだ時間や歴史の奥深さというものが大好きなうえ、家人の祖母などに直接聞いた 話などと重なるところもかなりあり、とても面白かった。また、古い日本語の細かな単語や音の変化などを 探る上でも興味深い。

『アートの祭り』  カールスモーキー・石井:幻冬舎:

カールスモーキー・石井が,子供の頃の思い出から、米米クラブの頃、創作するということについてなど、 について綴ったエッセイ集。売れ線の歌もとても好きだったし、それ以外の活動もいつもとても楽しみに していた人なので、大変面白かった。結構通づる部分もあったりして。

『新しい生物学』 野田春彦 日高敏隆 丸山工作:ブルーバックス:1040円

分子生物学のようなミクロの世界から、古来のマクロな生物学までを通して、生物学という物を知りたい人の ために分かりやすく広範囲に解説した本。とても面白い。物質名がうじゃうじゃ出てきて読みにくい、という 人はミクロを飛ばして、マクロなところ、「生命の体のデザインと改良」などだけを読むと楽しいのでは。 ここは私も最近解剖して観察しまくった鳥の骨格の秘密について色々書かれているところが特に面白かった。

『大江戸死体考』 氏家幹人:平凡社:680円

近頃大評判の本。江戸時代には当然の事として行われていた刑死体の試し切り用&貴重な薬としての再利用。 それを専業として栄えた山田家の様子。品薄で奪い合いになる死体。それらに関する膨大な公私の資料、図。 小さい頃よく見ていた時代劇には(当時テレビでは昼も夜も様々な時代劇を気軽に放映していた)、生首や、 死刑を竹やらい越しにワイワイ見物する民衆といったシーン、辻斬りという言葉は出てきたが、この事に 関しては完全に隠されていたんだなぁということも新たな発見だった。 立て続けに(意識的に)殺生した今日この頃、時代によって変遷する死生観、死体観を考えていたところに タイムリーな一冊だった。子供におとぎ話をしていても、骸骨、どくろが気軽にそこらに転がっている時代 のお話に出会うことは多く、恐らくこのお話が出来た頃の人々の感覚と自分の感覚の違いはどんなだろうとか、 それが産み出す物は何だろうかとか、考え出すときりがない。

『左右を決める遺伝子』 柳澤桂子:講談社:742円

昔から、左右というのがどうやって発生レベルで体が認識しているのか不思議でならなかったので、 すごーく面白かった。分かったことは、まだほとんど分かっていないと言うこと。つい先日、何で心臓は 左にあるんだと素朴な質問をして先生を困らせてきた所なのだが、それを決定する遺伝子の最初の一個が ようやく95年に発見されたところだということもわかった。それに光学異性体の一方の化学物質しか 生体内にはないし、働くこともできないと言うのが謎なのだが、(初めてそれを知ったのはZ会の旬報の サイエンスエッセイで、サリドマイド薬禍がそれに起因することも知った。このサイエンスエッセイシリーズ はすごく面白い内容のものが多くて好きだった)これについても色々触れていて興味深かった。 今年の初め、これがビッグ・バンの頃の条件によるのもではという証拠になり得る天体観測のデータが 出たと新聞に出たことがあって、一人大騒ぎしていたものだが,誰もそれを共有してくれる人がいなくて ちょっと寂しかった。今は大学に入れて、そういう勉強もできると思うとしみじみ嬉しい。

『ガリヴァ旅行記』 スウィフト:新潮文庫:552円

英語の教科書で一部読み、日本も出てくることを知ったので読んでみた。子供用の本以来で原作の翻訳は初めて。 大変ひねくれたイギリス人らしく細かく執拗で慇懃無礼な回りくどい表現の皮肉や当てこすりだらけの文章で, しかも当時の何かを風刺していることが多く、訳注が山のように着いている。「これは当時のローマカトリック 教会を表し、・・・はヘンリー8世との争いを表し・・」子供にも親しまれているあらすじの構想の面白さ 以外の所を新たに知れて面白かったが何せ量もあるのでちょっと疲れた。日本はただ通過しただけで、ほんとに ちょっとだけ出ていただけだったが踏み絵のことなども出ていて結構リアルだった。

『仮定の医学』 清水ちなみ:幻冬舎:1260円

OL委員会主催メディカルエッセイ。と言うか素人の素朴な疑問をお医者さんに聞きに行きました。 と言う集大成。ハゲはスケベ?元気がないと顔がでかくなる?寝冷えって何?飲んで記憶が無くなるのは? 専門家の説明はどれもとっても面白い。と同時に、分かっていないことがまだ世の中には沢山あるんだなあ ということにも驚く。清水さんは随所で,人間の体って何てスゴイ!偉い!と驚嘆しているが,私にはその 感覚がすご〜くよく分かる。それと説明してくれる先生方も色々でまた面白い。自分が聞いたこと無いって 言うだけの理由であり得ないと言い張る人、自分が知っているのはここまで、世界で分かっているのは ここまで、これはまだ分かってないと至極素直に説明する人、自説を熱く語り続けて、数十分に一回やっと 質問をねじ込めて「ぜーぜー」させてくれる先生。色々ですね。

『僕は勉強が出来ない』 山田詠美:新潮文庫:400円

今年のセンター試験で痺れさせてくれた「眠れる分度器」の入った短編集。主人公はずっと同じ高校生の 少年。主人公、周りの大人達、素晴らしい人、愛すべき人、かっこわるい人、つまらない人、どれも本当に 素晴らしい。息遣いや体温やその場の空気を肌で感じているような感覚にとらわれる。文章がまた美しい。 飾ったりもったい付けたりすることを一切せず、真をつかみ取ったような美しさ。ほれぼれ。

『医学生』 南木 佳士:文春文庫:419円

医学生達を描いた青春小説(?)として時々聞いたことはあった。華々しく輝かしいという雰囲気からは 対極とも言えるかっこ悪さが、リアルでほの苦い。しかし、とても吹っ切れた落ち着いた読みやすさがあり、 これは後書きでこれを書く心境にまで至った作者の辿ったものを読むと納得できる。もっとも医学生という 限定で見ると自身に近しく引き寄せて思い入れられるタイプの人物は登場しなかったが、評判通りの 面白さはあった。

『太陽に灼かれて』 タミー・エバンス:翔泳社:2200円

原因不明の激痛、吐き気、皮膚・神経症状、日光過敏症・・非常に希な、そして過酷な遺伝病、ポルフィリン症 であるの著者の半生記。苦痛の原因は分からず、周りには忌み嫌われる彼女の、孤独と不安につけこみ、 虐待するのを楽しむ前夫との生活までの前半は読んでいてとても辛い。しかし、ひたすら自分を押し殺し、 忍従するだけの彼女が次第に自分を育て、神様から遣わされたとしか思えないような素晴らしい伴侶と 出会い、歩んでいく後半は、病気が次第に進行し、悪化してくいにもかかわらず、明るい光に満ちている。 宗教の介在もあるのだろうが、本人やその周りの素晴らしい友人達の、暖かな強さには敬服する。

また、自分の専門だけにこじつけて診断を下す医師、検査に引っかからなければ、気のせいだと言い張る医師、 分からないともうシャットアウトする医師・・、様々な医師が登場する。希な難病と診断されてからも、 自分より患者自身が知識が多いだろうから、と受け付けてもらえない日々。読んでてホントにやきもき、 イライラする。それでも、真摯で、患者からも学び取ろうという姿勢のある、立派な暖かい医師に出会った のが救いだった。

最後に、この病気は遺伝的にある酵素がないために起こる病気だが、後発性、つまり遺伝とは関係なく ダイオキシン等の化学物質への被爆によって、後天的に引き起こされるものが増加していることは,非常に 重く受け止めた。

『沖永良部島・国頭の島唄』 林正吉のノートより:シーサーファーム音楽出版:500円

ウチナーグチ(方言)の歌詞、標準語による訳、欄外に様々な注釈を加え、島に伝わる唄を広く集めた貴重な本。 様々な情を歌ったもの、祭りや自然を歌ったもの、子守歌、恋歌、労働歌、悲しい唄、嬉しい唄、古い伝説。 読んでいると、これらが歌われていたその世界が、生き生きと浮かび上がってくる。

『男が知りたい女のからだ』 河野美香:ブルーバックス:860円

こういう事に関しては、情報溢れ帰っている割には大変不正確で、希望観測的なウソが大量に混じって いたりするので、この本はとても貴重だと思う。大人になるまでに一回は読むように。と配布しても良い ぐらいだ。丁寧で正確、分かりやすい図も多い。女性から見て、えーこんなこと聞きたい〜?とか、 こんな事も知らんのか〜といったものも入っているのがまた面白い。(←作者の女医さんもこう思ったこと が多かったらしい)

『日本昔話と古代医術』 槙 佐知子:東京書籍:1800円

桃太郎、浦島太郎、さるかに合戦、かちかち山・・。誰もが知っているお話の中に出てくるディティールが 一つ一つ、深い歴史的意味を持っていることを実に綿密に考証していて、非常に面白い。特に『医心方』 など和漢の古典医書との関連に注目している。これは労作だと思いつつ解説を読むと作者は十年来『医心方』 を研究する専門家であり、その他日本のごく初期の医書である『大同類聚方』を初訳した人で言いたいことが いっぱいで、読者にとって性急すぎる展開になっていないか心配だと書いてあった。莫大な蓄積と情熱と 熟成を経たこういう作品を見つけると大変嬉しい。

『もののけと日本人』 竹光 誠:KIBA新書:667円

源氏物語に出てくる生き霊がどういう系統のものかを調べたくて探し、その日はあまりいいものが無く、 手に取ってみた書。資料は結構広く網羅していて、文学的解釈も、科学的解釈もしているし、現代の思想の 奥底に生き残っている流れも説明しているのは満足だが、「わからぬもの」に無理矢理説明をこじつける 愚かしさを繰り返し言っておきながら、しょっちゅう「これも物の怪に取り付かれたためと言えないだろう か」って前言と正反対な安易なまとめ方をしているのが読んでてちょっとイラつく。

『医学を志す若き女性へのメッセージ』 第11回国際女性技術者・ 科学者会議医療部門分科会記念医学論文集付随筆集:非売品

第11回国際女性技術者・科学者会議の会場に置いてあった 冊子。沢山の現場の方々、ゲストの方々のエッセー集で大変面白く充実している。ゲストの向井万起男さんの エッセーはいつも通り愉快な文章だが、一番スルドク現状を付き、かつエールを送っていると思う。

『新解さんの謎』 赤瀬川源平:文春文庫:448円

流行ったときも知ってはいたのだが、あらためてじっくり読んで爆笑。ほんとに新解さんったら。 私も小さい頃から辞書の変な用例を集めるのが好きだったのでやられたーという感じ。

『サルでも出来る料理教室2』 清水ちなみ&OL委員会:幻冬舎:1200円

平均3行。品数1028。イージークッキングレシピ集ながら、実生活に根ざしたOL達の工夫と発明が詰まっ ていて楽しい。「目的別」インデックスは、朝食、お弁当、、お菓子・・・から、WITH BEER、二日酔いの時、 ヘルシー&ダイエット、その他ここで書くのはちょっとはばかられるdeepなタイトルも楽しい。 素材別索引も便利。

『「永遠の少年」の娘たち』 菅佐和子:星和書房:2266円

カウンセラーである著者が自分の持ったケースを元にフィクションにして再構築した、問題を抱えて苦しむ 老若の娘達のケース集。ここに集められたケースはいずれもその根に「少年のような」父の存在がある。 身勝手で、自分中心で、冷酷で、家族を背負うことを拒否し、あるいはあくまで自分のペースで愛情深く、 しかし魅力的な「少年のような」父親達。憎しみ、病み、しかし深い愛着から逃れられない娘達。 この手の内容は同業の男性には激しい拒否反応にあうと著者は言っているが、そのことがすなわち、 最も触れたくない深部に繋がっていることを示唆していると思える。 娘が語った父を集めた名著「お父さんに言えないこと」(清水ちなみ)を読んだ男性書評者が、同様な 非常に揺れ動く自らの心理を割と率直に語っていたのを思い出す。

『検証アニマルセラピー』 林良博:講談社ブルーバックス:800円

昔からあったけど、近頃とみに話題な動物との交流によって心や体を癒す「アニマルセラピー」について、 多くのケースを紹介し、その謎に迫っている。作者はとても動物が好きなんだなぁと言うのがとても 伝わってくるが、その短所や失敗例、問題点も上げ、感情的な贔屓の引き倒しにならないよう、冷静な 科学者としての姿勢も持ち合わせている姿勢がよい。読むととても動物が飼いたくなってしまう。

『神童』@〜C さそうあきら:双葉社:各580円

手塚治虫文化賞優秀賞受賞!文化庁メディア芸術祭優秀賞受賞!というわけで既にあちこちの書評で目にして いたのだが・・・本当に一気に読んだあと、ほ〜〜〜。と出るのはため息のみ。の感動を味わえて大変満足。 天才ピアニストの少女を巡る話。しかし書評を書く人達はやっぱりうまいと言うか慣れてるなぁ。 私にはうまく言葉に出来ない。さぼりがちに惰性でピアノを続けていた中学生の頃、同級生のきれいな ピアノ演奏を聴いて、こんな風に弾けたらいいなぁと思った、その週のレッスンの時に、「音が変わったけど、 どうかした?」と先生に聞かれて、ぎょっとしたことを思い出す。

『罪深い姫のおとぎ話』 松本侑子:角川書店:1500円

グリムや昔話と言ったものの原型が残酷でエロチックだというのは昔から有名で、そういう本も沢山あるのに 何で最近やたらブームなんだろう。少女漫画チックな表紙が良かったんだろうか。でもこの本の表紙は俗っぽく なくていいやと思ってつい手に取った。文献紹介ではなく、それを元に最解釈風に書き起こした実にエロチック で、辛口なお話。それに加えて、お話の奥底に潜む男性又は男性社会の女に対する本音の暴きぶりは容赦ない。 男性にはこうは書けまい。

『光る生物』 アニタ・ガネリ:白水社:1900円

「鳥」、とか「海辺の生き物」といった図鑑は良くあるが、この「光る」というカテゴリー分けがよい! 魚、虫、軟体動物、クラゲ、菌類・・。子供にも読める平易な丁寧な解説文が着き、図鑑イラストの王道と いった感じの、正確で美しい迫力のあるイラスト。おまけのポスターは夜光塗料付きで暗いところで光る!

『目が語る生物の進化』 宮田 隆:岩波書店:1000円

「目」というのは不思議な精密機械だ。一体どういう流れでこの器官が出来上がってきたのかという興味で 手に取った本。目についても面白かったが、進化の過程で新しいものを作るときの遺伝子の動きの方が、 はるかに驚異で面白かった。この手のものを見るといつものことだが、すごいなあ、生物ってすごいなあ、 一体何でこんなものが??と思ってしまう。ところで内容は面白かったが、あまり読みやすいという気は しなかった。カタカナの専門用語や物質名がやたら溢れているところ、もっとはしょれないものだろうか。 これは私が生物に関してど素人だからか?一応素人向けの本ではあるのだろうけど、ハイレベル素人向け という事なのだろうか。

『アマニタ・パンセリーナ』 :中島らも:集英社:480円

中嶋らもの体験を中心とする様々なドラッグ体験集。友人知人の体験、伝聞も含め、話題は縦横無尽。 古今東西の文学や作家の生活などの逸話も多くて面白い。鋭いけれども大上段に構えることも自己正当化に 走ることもなく、時に情熱的で人に対するまなざしは暖かいけど、ベタベタした感じではない、 ひょうひょうとした、らも氏独特の世界がドラッグも魅力と地獄を紹介しつつ、人間は何故快楽を求め、 すがるのかという事を通して、人の本質を垣間見ている感じ。

『週刊アートギャラリーNo.4/レオナルドダビンチ』 (株)デアゴスティーニ:560円

オールカラーでレオナルドの作品や生い立ちを特集したアート週刊誌。あまり詳しくはないが初心者向け には十分楽しめる。写真も美しい。

『神谷伝兵衛−牛久シャトーの創設者−』 :鈴木光夫:筑波書林:721円

茨城県の牛久にある日本のワイン醸造所の先駆けである牛久シャトーがある。明治の洋館としても極めて 貴重な美しい煉瓦の建造物が現存し、資料館となっている。その創設者である神谷伝兵衛の一代記。 昔の人の伝記を読むといつもその今では想像もつかない大変な苦労と、それを乗り越える凄まじいパワー に驚く。以前、良く知らずに牛久シャトーに遊びに行き,あの地にいきなりフランス風な、しかも非常に古い 壮麗な建物があったのにとても驚いて、その創設者には非常に興味を持った。今回また訪れたついでに、 売店でこの本を見つけ、更に詳しいことが分かってとっても嬉しかった。浅草の神谷バーもこの人。 牛久シャトーのレストランのメニューにもしっかり電気ブランがある。ここ数年で敷地内を大改装し、 更に立派な施設になっている。

『ヤクザの文化人類学−ウラから見た日本−』 :ヤコブ・ラズ:岩波書店:2900円

ガイジンである著者がねばり強い、好奇心で一杯のフィールドワークを通して深く考察したヤクザとその世界。 社会学や心理学の専門用語がぎっしりで読むのが大変なところもあったが、とても面白かった。 単にキワモノ描写というのではなく、ある集団の逸脱者、陰の部分は表舞台である中心的自己の投影に他ならない と言う視点から、繰り返し深い洞察を加えており、日本文化論として「本書に類するものは一冊もないと 言っても過言ではない」と評される著作となっている。

『医の現在』 :貴久史麿 編:岩波新書:700円

日本医学会総会25年を記念して編まれた本で、先端医学についてや医療と社会について等11項目に ついて、各専門家が寄稿している。私には特に老化、癌に関する遺伝子の研究がとても興味深く 面白かった。

『アンダーグラウンド』 :村上春樹:講談社:933円

出たときからずうっと読みたかった本。随分あちこちで書評も見かけた。地下鉄サリン事件の被害者の インタビュー。「あの日、本当は、何があったのか」知りたい。という信念の元、本当に丁寧に、誠実に、 押しつけのバイアスがかからないよう細心の注意を払って積み上げた大変な労作。その人がどこで生まれ、 どういう風に育ち、その日までどんな暮らしをしていたかから始まり、事件の日やその後までを聞いている のが特徴。これは人間というものを見る上でとても興味深い資料の山だった。その深さ、多様さ。 人の生まれついての資質という先天的なものが縦糸なら、時代、生まれ、育ち、仕事、生活といった後天的 要素が横糸となって、初めてその人という織物が完成する。縦糸もしくは横糸だけを見ても、織り物=人間は 見えてこない。それを熟知した上で人に迫り、あの日の真実に迫ろうとする作家の静かな気迫が伝わってくる。

『村上春樹、河合隼雄に会いにいく』 :村上春樹・河合隼雄:新潮文庫:438円

作者のアメリカ体験や、小説を産み出す過程、学生紛争やオウム、阪神大震災などを巡り、人の心について 様々な角度から対談していて非常に面白い。集団や組織というものについてもとてもうなずかされる。 私は村上春樹をはじめて読んだのが「羊を巡る冒険」で、感想は失礼ながら「なんじゃこの作文は」。 でも読めなかった人、というかチャンネルを合わせられなかった人は、多くこんな風に見当違いに取ったのでは。 歳を取って、また、週刊朝日に連載していたエッセーというか雑文から色々読み解いていくようになって はじめて、ちゃんと(?)感じて、深く染み込んでうるようになった。だから、これから色々読んでみる予定。

『狂わされた娘時代』 :ビアンカ・ランブラン:草思社:1700円

サルトルとヴォーヴォワールの二人と当時に愛人関係となり「トリオ」(三角関係)にあった女性の自伝。 サルトルとヴォーヴォワールの事をろくに知らないのに、いきなりこれから読むのはちょっとなんだと 自分でも思ったが・・・。良く知らないながらも、有名な二人の関係は実際、ヴォーヴォワールからして 見ればこうではなかっただろうかと漠然と考えていたような事が、描かれている。つまり、対等と言う よりはサルトルにかなりエゴイスティックに食い物にされているというような面が、そしてヴォーヴォワ ールもその事を分かっていて苦しんでいるような面が。作者があまり冷静になれていない様子が随所に 見られるので全部そのまま取るのもどうかと思うが、やはり人間は人間だなあと思った。でも、かの二人の 信奉者には許せない本だろう。

『西郷隆盛と沖永良部』 :先間政明:八重岳書房:1500円

沖永良部に行く度に空港の売場で関連の本を買う。今回はこれがあったので買ってきた。 沖永良部に流刑で来た西郷隆盛の様子や、島の人達との交流が資料を基に丁寧に描かれている。 西郷の近来希にみる実直で誠実で温かい人柄、彼を心から尊敬し、誠意を持って尽くし、 師と仰いで熱心に学んだ当時の島の人達の熱意が伝わってくる。

『英国貴族の城館』 :田中亮三・増田彰久:河出書房新社:1800円

イギリスのカントリーハウスを写真と文で紹介。カントリーハウスは貴族の壮麗な屋敷から地方領主の いごごちのいい住まいまで様々であり歴史、背景を良く知らないと一言では説明しにくいが、この本で はその歴史や文化に広く触れながら、美しく豊富な写真で目も頭も楽しめる。またこれだけ内部の写真を 取らせてもらえることは希と言うぐらい、貴重な写真も多いので(作者の豊富な人脈によるらしい) 嬉しい一冊。

『陰陽師』@〜E』 :岡野玲子::円

数々の奇跡を起こした陰陽師として平安時代の史上に残る安倍清明の話。夢枕貘原作。 異界との交感のイメージの豊富さがただ者ではない両者のマッチングが最高。後書きにもこういう (原作と漫画家の)両思いはなかなか無いとあったが本当にそう思う。ずっと昔の岡野玲子の作品 で、中世(かもっと古い時代)のヨーロッパを舞台にした世界を描いた『消え去りしもの』でも こういった時間と、空間と、物質と、魂とが混沌と形を変えて流転していく感じはかなりあり、 その映像イメージに独特のセンスを感じたので、それが一層パワーアップして、今度は日本を舞台に 縦横無尽に展開しているこの作品を見るのはのは非常に嬉しい。


読書日記 目次  HOME