★トホ妻のミルミル・エクソシスト

 の恐怖描写が日本中にセンセーションを巻き起こし、いわんやが高校生の時に大ヒットした映画「エクソシスト」。4万アクセス記念フクスケにも「首グルリンネタ」などを借用させてもらったくらいの有名な映画でございますし、昨年には新たに未公開フィルムを加えた「封印バージョン」なども封切られておりますから、このHPを御覧の方の中でも御存知の方が多いはずでございます。

 の映画、コワい要素はいろいろございますが、何と申しましても平凡な12才の少女に悪魔が乗り移ってだんだん顔カタチが変わっていくあたりの描写が極めてリアルに映像化されておりまして、今見てもこのへんのオッカナさはちっとも色褪せておりませぬ。長い年月の間に徐々に老けていくというならともかく、家族の顔が短時間のうちにミルミル変わっていくなどということはフツーの人にとってはあり得べからざる恐怖体験以外の何物でもございますまい。もちろん、ワタクシも自分が「フツーの人」であり、配偶者の顔がミルミル変わっていくなどという恐怖体験を味わうことになろうとは想像もしておりませんでした。つい先日までは、でございますが…。

 4月中旬のある夜のことでございます。3〜4月は仕事ジゴクを送っていたワタクシはこの夜も帰宅したのは確か10時頃だったと記憶しておりますが、いつものように自転車に乗って自宅に帰って参りました。ところが家の門のワキで自転車を降りると、先にあるはずのトホ妻の自転車がございません。ウチの照明はついておりますし、明らかにトホ妻はワタクシより先に帰っている様子。「何で自転車置いて歩いて帰ってきたんだ?」と思いつつカギを開けて玄関に入ろうとすると…

 雑に靴の置かれた玄関になぜか傘が1本打ち捨てられております。しかもその傘、グンニャリと激しく折れ曲がっているではございませんか。傘を武器にしてチャンバラでもやればこんな感じになろうか…いや、フツーの状態では人間がどんな力を加えてもスボめた状態の傘がこんな風になるわけはございません。「な、何だ?!誰かとケンカでもしたのか?!」と思って2階に行くと…暗い部屋の中にトホ妻が右頬にタオルを当てた姿でたたずんでいます。ここからいよいよ恐怖の「ミルミル・エクソシスト」の幕が開くのでございます…。

 「アタシ実はね…さっき自転車でころんで、顔、ケガしたの…」「ど、どれ、ちょっと見せてみなよ」と部屋の明かりをつけて髪の毛をどけて見ると…うわわッ、ワタクシもいささかビックリ致しました。右頬のあたりにバッコリと壮絶な打撲+スリ傷の痕(下図参照)があるではございませんか!しかしワタクシの明敏なる頭脳は「顔のケガ+玄関に置いてあった折れ曲がった傘+消えた自転車」という3つの手がかりから瞬時に全てを理解したのでございます。

いわんや「わかった!自転車で走ってて傘を車輪に噛まれたんだろ!」

トホ妻 「…そう…」

 様の中にもひょっとすると同じ経験をされた方がおられるかも知れませんが、自転車のハンドルなどに傘を引っ掛けてブラブラさせながら走っていて、何かの拍子に傘が自転車の前輪に巻き込まれますと、当然のことながら制動距離もヘッタクレもなく車輪は瞬時に回転が止まりますから、運転者は大抵の場合スピードに乗ったまま自転車からフッ飛ばされ、空中をしばし浮遊したのち地面に激突するのでございます。これはマジで危のうございます。皆様くれぐれもお気を付け下さい。

いわんや「じゃ、そ、空を飛んで、しかるのち顔から地面に落っこちたってことか…?」

トホ妻 「…うん…でもそんなにスピード出してなかったから…でもね、横を走ってた車のドライバーから“オイ大丈夫か?”って言われちゃった…」

 りゃ目の前で女が空を飛んだアゲクに顔から地面に落ちれば誰だって「大丈夫か?」くらいのことは言うものでございます。それに致しましてもついこの間ギブス+松葉杖で「裏窓騒動」を引き起こしたと思ったら今度は自転車で顔にケガとは!トホ妻のこの粗忽と申しますか、注意力散漫と申すべきか、とにかくホトホト呆れるばかりでございます。まぁ幸いにも骨折のようなヒドいことにはなっていないようなので、とりあえず冷凍庫にあった保冷材をタオルにくるんで傷口を冷やしてみたのでございますが…

トホ妻 「ねぇ〜、何だか冷やし過ぎてだんだん顔に感覚がなくなってきたよウ…」

いわんや「タオル2重巻にしろって。ドレちょっと見せてみ…!め、目の形が変わってる!」

 はりどんなに冷やしても打撲の腫れは避けられなかったようでございます。トホ妻の顔は今やヘタクソ漫画家のデッサン狂いのように左右の輪郭が違ってきてしまい、腫れている右頬はかなり悲惨なアリサマになって参りました。右頬が腫れているせいで右目の形まで左目とは違うものになってしまい、まるで顔の右半分と左半分が別人のよう。この頃からトホ妻の「ミルミル・エクソシスト」変化は加速し始め、いわんやの心胆を寒からしめたのでございます。

 夜になってワタクシがiMacの前にうずくまってシコシコと仕事の続きをしておりますと、またもやトホ妻が「ねぇ〜、また顔がヘンになったよゥ」と訴えて参りました。見てみると…、さっきまでなかったのに、今や右目尻に小さなムラサキ色の内出血が形成されているではございませんか。まさに分単位でミルミル変貌していくトホ妻の顔。こんなヘンな女と結婚したおかげで色々と数奇な経験も積んで参ったワタクシでございますが、まさか「ミルミル変わる配偶者の顔」という稀有な現象に立ち会うことになろうとは思いませんでした。

トホ妻 「どうしよう…これ、だんだん大きくなるのかなぁ?」

いわんや「う、うう…なるかもな」

トホ妻 「ああ〜どうしよう…どんどん醜くなるアタシ…」

いわんや「それよりもさ…その顔で明日会社行くのかオイ?周りのヒト怖がるぜ…」

トホ妻 「まぁこの顔見りゃ『きっとダンナさんに殴られたのよ…』『いわんやサンのダンナさんって、やさしい人って聞いたけど、実は家庭内暴力なのね』ってウワサになるわねぇ、きっと…」

いわんやオニッ!!オレの名誉のためにチャンと自分で自転車からトンだって言えよな!」

 …などとおバカな会話をしつつ迎えた翌朝、前夜の夜ナベ仕事で疲れたワタクシをトホ妻は無慈悲にも揺り起こし、寝ぼけマナコのワタクシに向かって「今日だけは一緒に電車乗ってくれ」と頼んで参りました。「んん?どれ?カオどうなった?」と寝ぼけマナコでワタクシがトホ妻の顔を見ると…!…トホ妻の顔は昨晩よりもまた一段と右目下部の内出血が進行し、ますますヒドいことになって参りました。一段と磨きのかかったエクソシスト顔を朝っぱらから見れば、寝起きの悪いワタクシもイヤでも目が醒めようというモノでございます。しかしまぁ、顔面打撲の人間の顔ってこういう具合に“エクソシスト化”するものだったのでございますねぇ…。

トホ妻 「ねぇ、一緒に電車乗ってよ。アナタの身体でこの顔隠さないと…」

いわんや「オレはツイタテかよ?!うう、もうしょうがねぇなぁ…」

 ホ妻としてはとりあえず新宿まではワタクシをツイタテにして顔を隠し、薬屋の開く時間を待って眼帯を買ってから会社に行こうという計画のようでございます。まぁ確かにこのエクソシスト顔のまま会社に行けば、気の弱い同僚は恐怖のあまり失神しかねませんから眼帯は必要でございましょう。

いわんや「眼帯買うのもいいけどさ、まず医者に行けよ、医者に…」

トホ妻 「…う〜…わかった…行く」

 ころで皆様御存知でございましょうか?「殴られた人間」の記号として、よく目の周りに青アザを描きますが、あれは決して「目の周りを殴られた」からではございませんで、頬などを殴られた場合に起きる顔面内出血が「内圧の低いところ」に溜まるため、内圧の低い目の周りに内出血の変色部分が形成されるらしゅうございます。こんなこと我々も存じませんでしたが、トホ妻が医者に行って教えてもらったのでございます。そしてその予言通り、トホ妻の顔面内出血もその日の夜にはチャンと目の周りに集まったのでございまして、ワタクシが家に帰ってみますと、幸い頬の腫れはかなりひいていたのですが…

トホ妻 「ねぇ、ねぇ、何だか目の周りがキミドリ色になってるでしょう?」

いわんや「…ええ?…うひゃっ!ホントだ!なんかすげぇおマヌケだな」

 の夜ワタクシが見たモノは「片目だけ黄緑のアイシャドウをしたエクソシストと化したトホ妻」でございました。目元の紫のアザと目の周囲の黄緑色とが相まって、実に何と言うか…色彩感豊かな顔と申しましょうか、バイオレンス映画の撮影所から特殊メイクをしたまま家に戻ってきたようなアリサマと申しましょうか…。もちろん、トホ妻自身にとっても「自分の顔が突然変わる」というのは初めての経験でございましたから、どうもいろいろ思うところがあったようでございまして、その翌日頃でございましたでしょうか、突然何を言い出すかと思いきや…

トホ妻 「…ねぇ…」

いわんや「ん?」

トホ妻 「…アナタは…アタシの顔がこんな風に醜くなってから冷たくなったわねぇぇ…」

いわんや「い、い、い、いきなり何だよ!とんでもねぇ言い掛かり!」

 っかく自分の顔が変わったので、トホ妻としては「四谷怪談」のお岩サンと伊右衛門の会話みたいなことを一度やってみたかったようでございます。ワタクシが仕事ジゴクで大変な時期だったというのに、とんでもない女でございます。映画「エクソシスト」では悪魔に取り付かれた少女は壮絶な悪魔祓いを経てマトモな女の子に戻るのですが、トホ妻の場合は顔カタチが変わろうが変わるまいが、その内面に潜む悪魔性はちっとも変わっていないようでございます。

 なみに、トホ妻はこのミルミル・エクソシストの一番ヒドかった日、つまり事故発生の翌日に美容院に行って髪をカットしております。「予約入れちゃったんだからしょうがないじゃないよ」と本人は申しておりますが、その日トホ妻を担当した美容師サンはずっとこのエクソシスト顔を見ながら…あるいはなるべく見ないようにしながら恐怖に耐えて仕事に励んだのかと思うと同情を禁じ得ません。

 かし幸いなことに事故後1週間程度でトホ妻の右目周囲の内出血斑もかなり薄くなり始め、現在ではもうきれいサッパリ復元してエクソシストの痕跡は跡形もなく消えております。ですから5月のオフ会に仮にトホ妻が参加したとしても少なくともエクソシスト顔で皆様を恐怖に陥れることはございませんのでどうぞ御安心下さいませ。もっとも、彼女がその時までにまた新しいケガをこしらえないという保証はどこにもないのでございますが…。

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