★恐怖のアルファベットしばりカラオケ

 れは2002年の12月30日の夜の出来事でございました。昨年の暮れも暮れ。年末も押し迫った頃でございます。大晦日前日ともなれば、マトモな方なら大掃除とか、オセチ料理の準備とか、年賀状書きとか、仕事の打ち上げとか、とにかくまぁ色々と「年末らしいコト」に慌ただしく奔走しておられる時期。しかしマトモとは到底言いかねるトホ妻&いわんやでございますから、2002年最後のトホホ事件はこんな年末に炸裂したわけでございます。

 年末〜今年の初めにかけてはトホ妻は仕事が修羅場でございまして、実はこの30日も会社でシゴト。一方ワタクシの方もこの日は会社に行きましたが、こちらは単に会社のコピー機で年賀状のはがきコピーをとるためというノドカな目的でございまして、その出勤内容には大幅な落差がございましたが、いずれにしてもこの日我々は二人とも出かけたわけでございます。どうせ家に帰ってもロクな食料はございませんし、府中で待ち合わせて晩飯でも食うか、ということになるのも自然な流れと申せましょう。

 羅場のトホ妻もさすがに明日の大晦日は休み。トックにお休み気分に浸っていたワタクシから3日遅れでトホ妻もようやく「クソッタレ今年の仕事もとりあえず終わったぜバカヤロウ」というしばしの開放感に浸れるわけでございます。となれば、まぁメシを食うだけで帰るのもナンだし、いっちょカラオケにでも行って仕事の終わった開放感を発散しようではないかという気になるのも、これまた自然な流れでございましょう。。

 ホ妻&いわんやのカラオケと言えば以前にも一度ネタにしておりますが、今でも我々たまに二人で行くのでございます。しょせん最新ヒット曲など全く知らぬ我々でございますから、いつも唄われるのはヤタラに暗い歌だったり、知る人も少ないような洋楽だったりするわけでございまして、あまりヒトサマには聞かせられませんが、まぁ我々だけで行くのであれば気楽なもの。この日も府中駅そばのカラオケ屋に入り、利用時間2時間と告げて「2002年の唄い納め」に向けて指定の部屋に入っていったわけでございます。

 こでちょっと話は変わりますが、皆様カラオケに入られた時、選曲に何かの「しばり」を付けるということをしたことがございませんでしょうか?よく聞く話では例えば「男性は女性ボーカルの歌を、女性は男性ボーカルの歌を唄わなければナラヌ」といった「性別しばり」ですとか、あるいは「80年代の歌しか歌ってはナラヌ」といったような「時代しばり」、あるいは「全て演歌の中から選曲しなければナラヌ」といった「ジャンルしばり」等々、いろいろあるようでございます。こういう「しばり」を付けると普段なら絶対唄わないような歌を唄うハメになったりして、それはそれでなかなか楽しいらしゅうございます。

 屋に入り、飲み物を注文した我々は最初の数曲はいつものように漫然と唄い始めたわけでございますが、この日入ったカラオケ屋はたまたま初めての店で、曲目一覧のブ厚い本をパラパラとめくって見るとなかなか洋楽部門も充実しております。洋楽と言えば我々の得意分野。そこでワタクシがその場の思い付きをフと口にしてみたところ…

いわんや「なぁ、洋楽をアルファベット順に1曲ずつ唄わなきゃいけないってコトにしようか」

トホ妻 「あ、ソレ面白い。ってことはアナタがAでアタシがBか。そうしようそうしよう」

 ッと言う間に話はまとまりました。「2002年の唄い納め」はなぜか「アルファベットしばりカラオケ」ということになったわけでございます。しかしよりによって「アルファベットしばり」とは…かなり高度なしばりでございます。アルファベットの場合、文字によって曲目の数にもかなり差がございますから自分がどの文字を“担当”するかによって選曲の難易度もかなり違って参ります。なかなかスリリングな展開が予想されます。

 りあえず「アルファベットしばり」を提案したワタクシから、というわけで「A」で始まる曲をザッと見渡して選んだのは名曲「A Song For You ア・ソング・フォー・ユー」。この曲は作曲者レオン・ラッセル自身の歌も有名ですが、ワタクシはカーペンターズの方のバージョンで軽やかに唄ったわけでございます。なかなか順調な滑り出しではございませんか。すると「B」を担当したトホ妻は、こちらも有名なスタンダード・ナンバー「Begin The Begin ビギン・ザ・ビギン」で応戦。ふむ、なかなかやるではないか。開始早々から二人とも「アルファベットしばりカラオケ」にノメリ込んだようでございます。

 タクシがギルバート・オサリバンの心洗われる名曲「Clair クレア」を唄って聞かせれば、トホ妻はディオンヌ・ワーウィックの歌で有名な「Do You Know The Way To San Jose サン・ホセへの道」などという意外な選曲をカマしてまいります。いや確かに「サン・ホセへの道」はバート・バカラック作曲の名曲ではございますが、このカラオケ屋でこんな歌を唄った客が我々以前に一人でもいたとは思えないのでございます。

 んな調子で「アルファベットしばりカラオケ」は意外にも途絶えることなく順調に進行致しましたが、「K」に来たところでちょっと異変が起きました。「K」で始まる曲というのがかなり少なく、ワタクシが知ってそうな曲と言えばクィーンの「Killer Queen キラー・クィーン」くらい。しかしアレを歌えるかと言われると…。するとトホ妻が懐かしき「Knock Tree Times ノックは3回」を自分で唄うと主張。そこでトホ妻が「J」と「K」を連続して担当し、ワタクシは一つ飛んで「L」になったわけでございます。言わば先攻・後攻が入れ替わったわけで、この頃はもう二人とも完全に真剣でございます。

 Aから連綿と続けてきた「アルファベットしばり」もいよいよ後半。やや苦しい「N」や「P」をワタクシがビートルズナンバーでかろうじて通過すれば、トホ妻はまず無理だろうと思われた「Q」で、何とドリス・デイの歌で有名な「Que Sera Sera ケ・セラ・セラ」を発見し、乗り越えてくるではございませんか。ぬぬぬ…こればかりは降参かと思われた「Q」を見事クリアするとは…さすがにヘンな歌ばかり知っているトホ妻ならでは。敵ながらアッパレ。といった具合に「アルファベットしばりカラオケ」は後半に突入してますます白熱の度を増していったわけでございます。

 うこうするうちにいよいよ終盤。残るアルファベットもあとわずかでございます。ワタクシが「T」でデューク・エリントン作曲「Take The“A”Train A列車で行こう」を唄っている間にトホ妻が「U」を探しておりますが、ここでいよいよ本格的ピンチが訪れました。知ってる歌がございません。そこでトホ妻が「これなら聞けば思い出すかも」と苦し紛れに入力した曲が「Up Where We Belong」…と言ってもピンと来る方はいらっしゃらないでしょう。だいぶ前に封切られた映画「愛と青春の旅立ち」という映画のテーマソングでございます。アルファベットしばりでもなければ唄うことなど絶対になかった曲でしょうが、ここまで来たらそんなコトも言っておれませぬ。

 記憶の方もいらっしゃるでしょうが、この曲は一応男声&女声のデュエットでございます。ワタクシもかり出されて唄ってみましたが…うーん…何という駄曲。大体こんな曲、サビのところしか覚えておりません。「あー早くこんな駄曲終わらねーかな」と思いつつ、ここまで続けてきた「アルファベットしばりカラオケ」を途切れさせるのはシャクであるという執念だけで唄ったようなものでございます。何度も繰り返し出て来るサビのところを繰り返し唄うほど、ますます駄曲に思えてまいります。トホ妻も「あー何て駄曲かしら」などと文句を言いながらようやく「U」をクリア。さて次の「V」にとりかかろうと思ったその時…事件は起きたのでございます。

トホ妻 「あ…ああああ?鼻血が出て来た」

 ラオケボックスで鼻血?!見るとかなり盛大な鼻血のようで、鼻にあてた紙ナプキンがミルミル赤く染まってまいります。トホ妻はと言えば「きっと今唄った歌があまりにも駄曲だったからショックで鼻血が出たんだわ…ふが」などと言い出す有り様。ヒドい曲を「噴飯ものの駄曲」と形容することはあり得る話でございますが、「噴血ものの駄曲」などというものが存在したとは!しかし実際に鼻から血を噴いているのですからこれは否定しようがございませぬ。「愛と青春の旅立ちのテーマ」は明らかにトホ妻にとって「噴血モノの駄曲」なのです!ワタクシもこんなヘンな女と12年もの長きにわたって夫婦を続けておりますが、まさか自分の妻に「駄曲噴血反応」とでも言うべき信じ難い機能が付いているとは思いませんでした。

 …などと騒いでいる間にすでに入力済みだった次の曲、「V」の曲の前奏が容赦なく始まります。「V」で始まる曲も非常に少ないのですが、ワタクシはかろうじて知っていそうな「Volare ヴォラーレ」を選択しておりました。発泡酒のCMにも使われた陽気な曲でございます。しかしこの陽気な曲を唄うワタクシの目の前では、トホ妻が次々とテーブルの上に鮮血で赤く染まった紙ナプキンを積み上げ、ティッシュを鼻の穴に突っ込んだまま、「まだ止まらないわ…」などと言いながらクチ呼吸しております。フタ目と見られぬ凄惨な光景でございます。こんな光景を目にしながらワタクシは「Volare」を唄ったわけでございますよ?

 うやく「V」が終わって次は「W」。トホ妻の番でございます。まぁいくらナンでもちょっと休憩を…と思いきや、「アタシもう入れてあるんだから」と言い出すではございませんか。つ、続けるのか?そんな身体で!などと思う間もなく「When You Look Upon A Star 星に願いを」の前奏が始まります。どなたでも御存知、ディズニーの名曲でございます。これならワタクシも知っておりますから「じゃ、代わりにオレが唄うよ」と申し出ますと、何とトホ妻はその申し出を拒絶し、右の鼻の穴に血のニジんだティッシュを突っ込んだままの凄惨な姿で自ら唄い始めます。何という執念!何というバカ夫婦!

 いに流血の惨事にまで発展した恐怖の「アルファベットしばりカラオケ」も完走まであともうひと息。次は「X」です。「X」で始まる曲なんてあるか?と思いきや、意外にもコレがあるのでございまして、オリビア・ニュートンジョンの「Xanadu ザナドゥ」でございます。今や誰一人かえりみることもないような曲でございます。ワタクシは殆ど覚えておりませんでしたが、トホ妻がかろうじてゴマカしつつ何とか「X」もクリア。次の「Y」はエルトン・ジョンの名曲「Your Song 君の歌は僕の歌」で華麗にキメて、ついに最後の「Z」だ!「Z」で始まる曲は…。

 論から申し上げますと、我々はついにここで挫折してしまったのでございます。幾多のピンチ、流血の惨事まで乗り越えて続けてきた「アルファベットしばりカラオケ」は最後の最後で頓挫したわけでございまして、全くトホホな結末と申す他ございませぬ。しかし「Z」で始まる曲と言えば「Ziggy Stardust ジギー・スターダスト」1曲だけしかないのでございますよ?これでは降参する他ございませんでした…。それにしてもまぁ暮れも押し迫った12月30日に、こんな非生産的なおバカカラオケに熱中していた夫婦など、日本中探しても我々だけだったのは絶対に確実でございましょうね…。

 近はオフ会の2次会などでカラオケに行くケースもございますし、実際にトホ妻が皆様とカラオケを御一緒させて頂いたこともございます。しかしこの日の恐ろしい経験から、ワタクシはぜひ皆様の注意を喚起したい。トホ妻と一緒にカラオケにいらした時は、あまりヒドい駄曲は唄わぬ方が安全なようでございます。何しろ駄曲を聞くと鼻血を噴出しかねないトホ妻でございますから…。しかもどんな曲がトホ妻の「駄曲噴血反応」にヒットするかは唄ってみないとわからないようでございますから、いつ噴き出すかわからぬ鼻血におびえながらカラオケをすることに…実に恐ろしい話でございます。

 いでながら、この恐怖の「アルファベットしばりカラオケ」。御参考までにワタクシ、その軌跡を一覧表にしてみてございます。こうして眺めると名曲・駄曲入り混じってなかなかの壮観。まさにバカ夫婦によるカラオケ金字塔でございます。ちなみに、ワタクシはこの一覧表を作成するために乏しい記憶力を総動員し、それでも埋まらない部分に関してはカラオケ某社の全曲検索サイトなどというところにまで足を運んで必死に完成させたわけでございまして、正月早々、こんな非生産的な一覧表作成行為に熱中したバカ男は日本中探してもワタクシだけであったのは絶対に確実でございましょうね、はい…。

  

アルファベットしばりカラオケの軌跡  (赤字:トホ妻担当、青字:いわんや担当)

A Song For You ア・ソング・フォー・ユー Just The Way You Are  素顔のままで Sound Of Silence サウンドオブサイレンス
Begin The Begin ビギン・ザ・ビギン Knock Three Times    ノックは3回 Take The“A”Train A列車で行こう
Clair           クレア Love Me Tender  ラブ・ミー・テンダー Up Where We Belong            愛と青春の旅立ちのテーマ
Do You Know The Way To San Jose             サンホセへの道 Mack The Knife   マック・ザ・ナイフ Volare        ヴォラーレ
El Condor Pasa コンドルは飛んで行く Norwegian Wood   ノルウェーの森 When You Wish Upon A Star  星に願いを
First Of May       若葉の頃 Over The Rainbow    虹の彼方に Xanadu         ザナドゥ
Goodbye To Love グッドバイ・トゥ・ラブ Penny Lane      ペニー・レイン Your Song     君の歌は僕の歌
Have You Never Been Mellow そよ風の誘惑 Que Sera Sera     ケ・セラ・セラ Z・・・・・・・   ぢぎじょ
I'snt She Lovely   可愛いアイシャ Rainy Days And Mondays  雨の日と月曜日は

   

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