トホ妻と行くモロッコ紀行・カスバ行くのに必携のものは…?

 回のスペイン旅行において、我々のトホホな事件はいろいろございましたが、その中で実に「トホ妻的」と言えるのがモロッコを訪れた時の出来事でございます。モロッコは、御存知のようにジブラルタル海峡をはさんでスペインとは目と鼻の先のアフリカ大陸にある国でございまして、スペイン南端のアルヘシラスという街で現地ツアーに申し込み、モロッコのタンジールまで日帰りで足を伸ばすという胸踊る大冒険を敢行することは今回のスペイン旅行の中でも重要な計画の一つだったのでございます。

 地旅行代理店でのツアー申込にも成功し(ちなみに船賃・昼食代込みで一人7000ペセタ・日本円で約5000円といったところでございましょうか)、翌日ついにいわんやとトホ妻は生まれて初めてアフリカ大陸・モロッコの港町タンジールに降り立ったのでございます。いやもうその時は本当にここまで来られたことが信じられないような、何とも言えない嬉しさと不安の入り混じった高揚した気分でございました。

 ンジールと言えば観光の目玉は何と言っても「カスバ」。カスバという所はアヤシゲな迷路のように入り組んだ狭い路地にアヤシゲなヒトとモノがグチャグチャに混在する、事前の想像をはるかに超えてアヤシゲな街なのでございますが、とにかくこういう「アラブ的混沌の世界」というのは初めての経験でございましたから、それはもう実に刺激的で面白うございました。

 て、大体こういうアヤシゲな街の常として、観光客相手のいわゆる「物売り」というのが寄って来ることが多うございますが、カスバではその物売りの数とエネルギーも半端ではございません。ただでさえ狭い路地で構成されている街ですから「道路単位面積当たりの物売り密度」では世界トップレベルなのは間違いないところで、とにかく路地を歩いている間じゅう、大げさではなく平均10秒おきくらいの間隔で物売りが入れ代わり立ち代わり、我々外国人旅行者の前にブレスレット・ラクダの置物・首飾り・ツボ・民俗楽器その他諸々ワケのわからぬものを次々に差し出してくるという状態でございますよ。そのスサマジさを御想像頂けますでしょうか。

 たや、物売りのターゲットとなる我々外国人旅行者の方はと申しますと、ガイドに先導された約20人ほどのグループなのですが、日本人はワタクシども夫婦ともう一人の3人だけ。あとはアメリカ人、ドイツ人、イギリス人などが入り雑じった、まぁ要するに多国籍旅行者混成チームでございまして、この混成チームが狭い路地を歩けば自然とほぼ2列縦隊のような縦長の隊列を形成致します。物売り達はそれぞれ左右からこの隊列に接近し、一人につき数メートル程度くっついていきながら前の方から順々に後ろのメンバーまで“巡回”するというのが大まかな接近パターンでございました。

 のようにアヤシゲな状況でカスバを歩きながら、ワタクシは物売りの接近に時々変則的なパターンがあることに気がつきました。それは、観光客の隊列の先頭から順々に後ろのほうに巡回してきた物売りが、なぜかトホ妻だけは時々“飛ばして”、彼女の後ろの客に移行することがあるということでございます。全部が全部、というわけではございませんが、ほぼ三人のうち一人の物売りはどう見てもトホ妻を“飛ばして”商売しているように見受けられたのでございます。

 のことはトホ妻自身も程なく気が付き、「アタシにはあんまり来ないわ」などと言っておったのでございますが、ではなぜカスバの物売りは時々トホ妻を“飛ばす”のか?しかしこの疑問の解決にはさほど時間はかかりませんでした。そう、カスバの物売りの何割かはトホ妻を完全にコドモであると認識して物売りのターゲットから除外しているとしか考えられないのでございます。「ウィーンの怪」をすでにお読みの方ならこの推測が極めて妥当なものであることを御納得頂けるはずでございまして、ご参考までに外人観光客に混じったトホ妻の姿を絵に致しますと、まぁ左図のような感じになるわけでございます。

 うトホ妻も実際にはいいトシなのですが、どうも海外では極端にコドモに見られるという傾向は新婚旅行当時と何ら変わっていないようでございます。事実、モロッコに渡る船の中でも彼女は隣に座ったアメリカ人夫婦から「Student?」などとトホホな質問を受けたくらいでございますから、カスバの物売りたちがトホ妻のことを「金を持たないコドモ」であると認識したとしても、それは彼らを責められぬというものでございましょう。

 かしこれは見方によっては、トホ妻は画期的な「物売り駆除」機能のついた女であるという言い方も出来るわけでございます。もし彼女がアメリカ人の奥様などと同じように見るからにお金持ちっぽい中年女のルックスを持っていたら、連れであるワタクシも含めもっと強力な物売り攻勢でオチオチ観光などしていられなかったということも考えられるわけで、その意味では夏のキャンプに蚊取り線香を持っていくのと同じように、カスバ観光にトホ妻を持参していくのは「物売り駆除」としてそれなりの効能があると考えないわけにはまいりません。

 くところによると、タンジールに限らずモロッコの街はどこも外国人旅行者に対する物売り攻勢はスサマジいものがあるそうでございますから、これからモロッコ方面をじっくり旅行してみようなどとお考えの独身男性がいらっしゃいましたら、今からでも遅くはございません。旅の準備としてパスポートを作るついでに、地味で小柄でとてもお金持ちに見えそうもないトホ妻を一人メトって、それを物売り除けとして旅行に携帯していくというのは如何でございましょう?もちろん旅行からお帰りの後、そのトホ妻をどのように扱うべきか、という点まではワタクシとしてもアドバイス致しかねるのでございますが…

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