ACT-4 妖鬼乱舞
吹抜と大道寺は、その日の夜には飛行機の機内にいた。
成田発シンガポール行きの便である。
昨夜の闘いの疲労など微塵も見てとれない程リラックスした態度の吹抜に向かって、大道寺が口を開いた。
「さてとまず聞きたいんだが、そのパオパオってのはインドネシアの一体どこなんだ」
シンガポール空港で国内便に乗り換えて、スラウェシ島のウジュンパンダンに行き、そこからさらにジープで3時間の所だという吹抜の説明に、さすがの大道寺もげんなりとした顔になる。
そこに何が待つのかまで尋ねる大道寺に軽いウィンクだけ返すと、吹抜は手元の本に視線を戻した。
「…まあ、いいがな。何者だか俺にはさっぱり判らんあいつの仲間達も、さすがに昨日の今日では我々の後追いでしか動けまいからな」
そこで大道寺は吹抜の視線が本にも彼にも向けられていない事に気づいた。
「そうでもないらしい…さすが『ルルドの聖母』、手の打ち方が早い」
そう言った吹抜の視線は分厚いガラス越しの窓外へと向いていた。
同じ頃、コクピット内には悲鳴にも似た叫びがあがっていた。
「機長これは!」
「むう…」
現在0:12JST、順調にいけばじきにシンガポール空港がみえはじめるころだ。
だが今は空港の灯火どころか、空にも星の光すら見えない。
少し前にB747の前に突如出現した黒い霧のせいだった。
それは機体の進行方向の空間の一角から前触れ無しに湧いて出たように見え、パイロットに回避の余裕を与えず、見る見る内にコクピットの視界一杯に広がった。
通常の自然現象では到底ありえぬ奇怪な霧だ。
それだけならば、熟練したパイロット2人が驚愕の叫びをあげることもなかっただろう。
霧の中、2人が見たのは、その中を無数に漂う異形の影だった。
悪夢に出てくる小鬼そっくりのシルエットを持つそいつらは、意志をもって飛んでいるというよりも風に吹かれて舞う雪片を思わせた。
ペタリ、ペタリとそいつらがコクピットの窓に当たりだした。
そのままガラスに貼りつく。
大きさは大人の掌程度といったところの、そいつらはカリカリとガラスを引っ掻きだした。
「何とかしてこの霧を脱出するんだ」
2人の脳裏にはしかし、尋常の飛行を続けていたのではこの空域からは永久に脱出出来ないだろうという絶望的な予感しか浮かんでこなかった。
(ACT-4未完)