2004.11.08

誤字等No.120

【インフレエンザ】(外誤科)

Google検索結果 2004/11/08 インフレエンザ:2,160件

前回の「プラグラム」に引き続き、日本語における「外来語」の表記の多様性について考えてみましょう。
今回の題材は、毎年冬になると全国各地で猛威を振るう流行性感冒、「インフルエンザ」です。

近頃では、人間だけではなく、鶏への集団感染がニュースになったりもします。
また、職場や学校などで一斉に予防接種を行っているところも多いでしょう。
外来語に由来する病名の中では、極めて「日常的」な部類に属する言葉と言えます。

これほどにメジャーな言葉であるにもかかわらず、いや、だからこそかもしれませんが、ネット上には様々な表記バリエーションが実在します。
件数は少ない誤記でも、それぞれをじっくりと見ていると、なかなかに興味深いものです。
打ち間違いなのか、ふざけているのか、それとも素で間違えているのか。
誤字の原因も、いろいろと想像することができます。

今回表題にした「インフレエンザ」は、数ある誤記の中でも件数が比較的多いものでした。
物価が上がる「インフレーション」と語感が似ていることから、間違えられやすいのかもしれません。

あるいは、「インフルエンザ」の「」と「」を一体化させた結果が「」になっているとも考えられます。
その一体化がさらに進めば、「」は消えて「インフレンザ」となります。
両者の件数を、実際に比較してみましょう。

インフレエンザ:2,160件
インフレンザ:2,070件

ほぼ、匹敵しています。
ルエ」の部分が「レエ」に変化したという仮説は、ある程度の信憑性がありそうです。

さて、それでは変種を追ってみます。
まずは、「」が「」に変わったように、「行」の他の文字に変わったものから。

インフラエンザ:449件
インフリエンザ:447件
インフロエンザ:3件

続いて、「」が変化したもの。

インフルアンザ:6件
インフルインザ:203件
インフルウンザ:213件
インフルオンザ:1件
インフルウェンザ:23件

インフルウェンザ」など、いかにも外誤科らしいですね。
「英語風」の発音をする自分に浸る、「自己陶酔派」の人たちが使いそうな言葉です。

次に、「」の部分が変化すると、こうなります。

インヘルエンザ:5件
インウルエンザ:31件
インフィルエンザ:109件
インフェルエンザ:75件

インフィルエンザ」や「インフェルエンザ」も、典型的な外誤科です。
インフルウェンザ」と組み合わせた「インフィルウェンザ」「インフェルウェンザ」が見つからないのも不可解ですね。
どうやら「自己陶酔派」の人たちは、一箇所でもひねってみれば、それで満足してしまうようです。

お次は、先頭の「」を変化させてみましょうか。

アンフルエンザ:2件
ウンフルエンザ:125件
エンフルエンザ:98件
オンフルエンザ:1件

ここでも「ウィンフルエンザ」なんてのがあるかなと期待したのですが、見つかりませんでした。

今度は、末尾の「」を変えてみます。

インフルエンズ:20件
インフルエンゼ:218件
インフルエンジャ:28件
インフルエンダ:17件

残ったのは、二つある「」ですね。まとめて行きます。

イルフルエンザ:10件
イイフルエンザ:12件
イーフルエンザ:593件
インフルエイザ:6件
インフルエルザ:87件

そして、毎度恒例の「濁音や半濁音」に関するもの。

インプルエンザ:410件
インブルエンザ:38件
インフルエンサ:231件

さらには、なぜか文字がひとつ小さくなったもの。

インフルェンザ:291件

以上のように、「インフルエンザ」を構成する全ての文字が、何らかに変化している実態が確認できます。

ここまでは、「文字が他の文字に変わる」パターンでした。
誤字の原因は、まだまだあります。
他のパターンも見てみましょう。
文字の順序を入れ替えた「替誤科」は、どうでしょうか。

イフンルエンザ:5件
インルフエンザ:158件
インフエルンザ:3件
インフルエザン:2件

予想通り、しっかりと見つけることができました。

一文字足りない、あるいは多い、といった「過不科」もありそうです。

イフルエンザ:90件
インルエンザ:140件
インフエンザ:960件
インフルンザ:607件
インフルエザ:382件
インンフルエンザ:15件
インフフルエンザ:15件
インフルルエンザ:9件
インフルエエンザ:203件
インフルエンンザ:134件

(ん)」と形の似ている「 (そ)」を使った「似字科」も、あるでしょうね。

イソフルエンザ:818件
インフルエソザ:5件
イソフルエソザ:1,760件

(ふ)」の代わりに「 (わ)」を使うパターンもあるはず。

インワルエンザ:5件

となれば当然、「 (え)」が「 (こう)」になったものも。

インフル工ンザ:36件

さすがに、漢字に変換してしまう「誤変科」となると、「故意」としか思えませんが…

印古円座:529件

以上のように、「こんな誤記もあるかなぁ」と検索してみれば、大抵は実在します。
ちょっと考えただけで簡単に思い付くような誤字は、既に誰かが使っているのです。
三桁のヒットを記録した誤字だけでも、ゴロゴロ見つかりました。
「組み合わせ」を調べてみれば、まだ相当数の種類が隠されていることに間違いありません。
こんなにも大量の表記が、たったひとつ、「流行性感冒」を意味するための言葉として現実に使われています。

その多くは、何事もなく意味が通じていることでしょう。
これらの事例は、「言葉は正しく使われているはずだ」という思い込みなど、全くの幻想でしかないことを物語ります。

人間は、間違える生き物。
そしてその間違え方は、人の想像が容易には及ばないほどに、多種多様なのです。

[実例]

日本人とは、かくも「外国語の発音」に弱いのでしょうか。
このような「外国語の発音」が原因と思われる誤字等の品種を、「外誤科(がいごか)」と命名しました。

[亜種]

inflaenza:1件
inflienza:1件
infloenza:3件
infleenza:2件
inflenza:23件
インフレザ:6件
インフレェンザ:2件
インフゥルエンザ:1件
インフルンエンザ:10件

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