2004.04.04

誤字等No.054

【思考錯誤】(誤変科)

Google検索結果 2004/04/04 思考錯誤:14,100件

思考錯誤」とは、興味深い言葉です。
検索結果の件数も非常に多く、「普通の言葉」として一般的に使われている印象があります。

単純に「試行錯誤」の誤変換であれば誤字と言えますが、検索結果を見る限りでは、そうでもないものがあるようです。
本来の、試みと失敗を繰り返しながら前進するという意味ではなく、「考えあぐねる」「思い悩む」などのニュアンスを持たせたと思われる使い方が目立ちます。
いわば「思考」による「試行錯誤」といったところでしょうか。
そのような使い方では、普通に「試行錯誤」と表記するよりもあえて「思考錯誤」と表記する方がしっくりくるのかもしれません。
特に、同音異義語であることを「分かって」書いている人の場合には、誤字というよりも「造語」の感覚となります。
それが広く使われている現状を見れば、「思考錯誤」は既に日本語における地位を築きつつあるとも言えます。

思考錯誤」と「試行錯誤」をわざわざ並べて表記しているページなどは、「思考錯誤」が「普通に通用する言葉」であると信じ込んでいるようです。
指向錯誤」という誤変換を「思考錯誤」に「訂正」しているページもありました。
このような事例を見ていると、「思考錯誤」が本当に誤字なのかどうか、よく分からなくなってしまいます。

しかしこの言葉、私の感覚ではあまり馴染めません。
錯誤」とは「間違い」という意味ですから、文字通りに解釈すれば「誤った思考」です。
「頭が混乱してよく分からなくなっている」という雰囲気も漂います。

試行錯誤」であれば、漢字を逐語訳すれば「trial and error」となることが分かります。
しかし「思考錯誤」では「」の文字がありませんので、「trial」の意味が感じられないのです。
思考による試行錯誤」を意味する造語なら、「試考錯誤」の方がふさわしいとも思えます。
とはいえ、断り書きを入れておかなければ、「誤字ですよ」という指摘を受けかねませんね。

しこう」と読む同音異義語は、他にもまだあります。
嗜好」や「指向」など、いくつもの亜種を見つけることができました。
詳細は [亜種] の項で後述します。

これらの言葉を使う方たちは、「」の文字がなくても違和感がないのでしょうか。
もしかすると、「錯誤」の用法として「試行錯誤」しか知らないために、「錯誤」だけで「試行」の意味があると思い込んでいるのかもしれません。
そう考えると、「思考」や「施行」を試行することを示す言葉として「思考錯誤」や「施行錯誤」が登場することも理解できます。
でも実際には、「錯誤」の意味は「error」の部分です。
trial」に相当する言葉がない限り、単なる「間違い」でしかありません。
間違った考え方、間違った行い、間違った方向性にしかならないのです。
trial」の意味を入れたいのなら、いっそ「思考試行」とでもするべきでしょう。

確かに「思考錯誤」は興味深い言葉ではあります。
しかしこれが新語として市民権を得るような事態は、歓迎したくない心境です。

[実例]

日本人とは、かくも「誤変換」に弱いのでしょうか。
このような「誤変換」が原因と思われる誤字等の品種を、「誤変科(ごへんか)」と命名しました。

[亜種]

試考錯誤:33件
至高錯誤:17件
施行錯誤:575件
嗜好錯誤:208件
私行錯誤:1件
志向錯誤:127件
指向錯誤:114件
志功錯誤:2件
施工錯誤:3件
歯垢錯誤:16件
志行錯誤:1件

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