2004.05.13

誤字等No.070

【を向かえる】(誤変科)

Google検索結果 2004/05/13 を向かえる:12,100件

今回は、「先立つ不幸」の回と同じ匿名希望さんからの投稿を元ネタにしています。

決して難解な言葉ではなく、日常的に使われているにもかかわらず、実は普通に間違っている人が多い。
今回の誤字等は、そんな言葉です。

来る者を待ち受ける、あるいは受け入れる、といった意味の「むかえる」を漢字で表記すると、「迎える」となります。
歓迎会」「迎賓館」といった用例もありますので、これで正しいことはすぐに分かるでしょう。
ところが、これを「向かえる」と書いてしまう人が結構いるようです。
向かえる」だけだと「向かう」の活用形と区別が付かないので、「〜を向かえる」の形にしました。
これなら、ほぼ間違いなく誤字と言えます。
検索結果の数字は、予想以上となりました。

「〜を向かえる」という表記の多くは、ただのミスで誤変換しているケースでしょう。
その場合は、誰かに「間違ってますよ」とひとこと言ってもらえれば、すぐに直せるはずです。
しかし、そうではないケースもかなり多そうです。
見直しただけではどこが間違っているのか分からない、という人ですね。

それでも、本当は「迎える」だと聞かされれば、「そういえば、そうだ」と気付く人の方が多いのではないでしょうか。
無論、「知らなかった」と答える人もいるかもしれません。
そんな人でも、実際には「迎える」という表記を普通に「むかえる」と読んでいる可能性があります。
「どっちでもいいと思っていた」という回答も十分に考えられます。
人間の記憶力とは、本当にあいまいなものです。

現代の日本語では「迎える」ですが、文語では「迎ふ(むかふ)」とも表記します。
これを現代仮名遣いに直すと、「むかう」ないし「むこう」となるでしょうか。
向かう」、あるいはその「目的地」である「向こう」と同じ読みになりますね。

もともとは、自動詞である「向かう」を他動詞にしたものが「迎える」であり、両者は同じ系列の言葉だという解釈があるようです。
確かに、自分がどこかへ移動して行くのが「向かう」であり、向ってくる他人を受け入れるのが「迎える」であるとすれば、同じ場面を違う立場で描写しただけ、という見方も可能です。

とはいえ実際にはその「方向」こそが重要なわけですから、区別は大切。
迎え撃つ」は敵を待ち受けて戦うことですが、「向かえ撃つ」ではわざわざ敵陣まで出向いてしまいます。
祖先の霊を迎え入れるはずの「迎え火」も、「向かえ火」ではまるで追い出しにかかっているようです。

個人のページであれば、思い込みによる間違いもあることでしょう。
一度や二度なら、ミスを見逃すこともあるでしょう。
しかし、とある「お役所関連」の「記者発表」で、何度も同じ間違いを繰り返しているのは少しあきれてしまいました。
「第4回目を向かえる今回は」に始まり、「第5回目を向かえる」「第6回目を向かえる」と、毎回律儀に同じ文章を使いまわしています。
この組織には、文章をチェックできる人材はいないのでしょうか。
これだけ繰り返していれば、誰か一人くらい気付いてもよさそうなものなのですが…

[実例]

日本人とは、かくも「誤変換」に弱いのでしょうか。
このような「誤変換」が原因と思われる誤字等の品種を、「誤変科(ごへんか)」と命名しました。

[亜種]

向かえて:9,400件
向かえ入れる:94件
向かえ撃つ:83件
向かえうつ:69件
向かえ打つ:55件
送り向かえ:95件
向かえ酒:14件
向かえ火:11件
お向かえして:9件

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