2005.07.09

誤字等No.138

【具の骨頂】(誤変科)

Google検索結果 2005/07/09 具の骨頂:592件

今回は、「uri」さんからの投稿を元ネタにしています。

骨頂」とは、「このうえない」という意味の言葉です。
辞書によると、現代では主に「悪いこと」について使われているようです。
真骨頂」の形にすれば、「本来の実力」といった「良い意味」の言葉になりますが、これは例外でしょうか。
いずれにせよ、「愚の骨頂」という形になったときは、間違いなく「悪口」としての意味を持ちます。

このうえない愚かさ。
愚かさ、ここに極まれり。
一片の妥協も許さない、完全なる「否定」。
他人の評価として使うなら、それは完膚なきまでに見下した「侮蔑」の表現。
使いどころには、慎重さが要求される言葉です。

とは言うものの、このような「他人を罵る」言葉は、往々にして「感情に任せて」発せられるもの。
少し冷静になった方が良さそうだ、といった場面も少なくありません。
まして、そんな状態で使った言葉が「誤字」になっていたとしたら。
他人を嘲る前に、まず自分の身を省みるべき、と言われてしまうでしょうね。
今回の表題である「具の骨頂」は、まさにそんな誤字等です。

もし、掲示板などで、他人を攻撃するために「具の骨頂」と書き込んでしまったら。
「お前の方がよっぽど『愚の骨頂』だ」と返されて、一気に窮することになりそうです。

さて、この誤字の原因を考えてみます。
普通に考えれば、「」と「」が同音異義語であることに起因する「誤変換」でしょうね。
ただの変換ミスなら、よくあることです。
落ち着いて見直す余裕さえあれば、問題にはなりません。

しかし、一部には「具の骨頂」で正しいと思い込んでしまっている人もいるかもしれません。
特に、「具の骨頂」のように鉤括弧を使ってわざわざ「強調」している人は、かなり怪しいです。
」の文字がなくても不審には思わず、「ぐのこっちょう」という「読み」だけで満足しているとしたら。
「漢字の意味」を深く考えることなく、感覚だけで言葉を選ぶ人なら、それも有り得る話です。

」なんて侮辱的な漢字は使いたくないという、とても「優しい」人である可能性もないとは言い切れませんが……
そんな人なら、もっと別の言葉を選ぶはずですね。

ところで、「具の骨頂」を「文字通り」に解釈してみると、はたしてどうなるでしょうか。
」という漢字には、「必要なものが十分に揃っている」という意味が含まれています。
そのまま「具する」という言葉もありますし、「具備」や「具有」などの熟語もあります。
その意味では、「具の骨頂」は「このうえなく完備している」と解釈することが可能です。
悪口から一転、「誉め言葉」になってしまいました。
これなら、誰かに「具の骨頂」と言われたとしても、気にすることはありませんね。
なにせ、「称賛」されているのですから。

ここで、恒例の「亜種」探し。
色々なパターンで、検索を試してみます。

まず、途中の「の」を省いた「具骨頂」。
」の読みを「ぐ」で止められず、「ぐう」と伸ばす癖のある人から生じたと思われる「遇の骨頂」。
骨頂」を別の言葉と取り違えた「愚の誇張」「愚の骨董」、そして「愚の滑稽」。
(「骨董」と「滑稽」は、目安箱から投稿されたネタです)
さらに、類似の表現である「愚にもつかない」の誤変換、「具にもつかない」。

以上すべて、実在を確認できました。
どれも見つかる件数はそれほど多くありませんが、種類はそれなりにあるようです。

人を見下す言葉遣いは、好ましいものではありません。
人畜無害なだけでは面白みがありませんが、人を不快にさせる一方的な侮蔑は論外です。
私自身も、このようなサイトを開いている以上、気をつけなければならないことだと思っています。

そんな侮蔑の文章であっても、その中にもし「具の骨頂」のような誤字が紛れ込んでいたとしたら。
文章の「攻撃力」は、かなり低下します。
なにせ、「人のこと言えんだろう」という、「付け入る隙」を与えることになるわけですから。
自滅を誘う「カッコ悪い」誤字であることは間違いありませんが、場合によっては硬直した雰囲気の緩和に貢献できるかもしれません。
そう考えると、意外と「平和的」な誤字とも言えそうですね。

[実例]

日本人とは、かくも「誤変換」に弱いのでしょうか。
このような「誤変換」が原因と思われる誤字等の品種を、「誤変科(ごへんか)」と命名しました。

[亜種]

具骨頂:7件
遇の骨頂:16件
寓の骨頂:8件
偶の骨頂:2件
ぐうの骨頂:27件
愚の誇張:26件
具の誇張:3件
愚の骨董:65件
愚の滑稽:10件
具にもつかない:357件
具にもつかぬ:20件

※ 2005/07/15
このページにあった「ありえる」という表記について、「ありうる」と読んでほしいというご意見を頂きました。
確かに、正しい読みは「ありうる」です。
でも、これって古語の文法なんですよね。
掘り下げてみると、面白そうではあります。
とりあえず、ここでは「漢字表記」にしておきました。

※ 2005/08/20
誤変換をひとつ修正しました。ご指摘ありがとうございます。

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