2005.06.15

誤字等No.137

【個人除法】(過不科)

Google検索結果 2005/06/15 個人除法:83件

除法」とは、要するに「割り算」のことです。
四則演算のひとつであり、日本人なら小学校で習います。

では、今回のお題目「個人除法」とは、何のことでしょうか。
人それぞれで答の異なる割り算?
それとも割り算とは関係なく、特定の個人を除外する方法とか?
…さっぱり、わかりません。

と、ボケるのもそれくらいにして。
無論、これは「個人情報」の間違いです。

誤字の原因は、おそらく「かな」で入力した際に文字をひとつ忘れたことによるものでしょう。
こじんじょうほう」と打つべきところで、「」がひとつ欠けて「こじんじょほう」となり、そのまま変換した結果です。
という推察のもとに、ここ誤字等の館では「個人除法」を「過不科」に分類します。

近年、情報化社会の到来とともに、個人情報の漏洩は重大な社会問題として認識されるようになりました。
2005年には「個人情報保護法」も施行され、個人情報を扱う業者には、その適切な取り扱いが義務化されました。
今では、ありとあらゆる団体が、自らの個人情報保護に関する姿勢をWebサイト上に明記するようになっています。
そんな中に、ごくまれに混ざっている突然変異種が、「個人除法」です。

見つかる件数自体は少ない「個人除法」ですが、そのインパクトは大きいです。
何しろ、その書いてある場所が場所ですから。

この言葉が登場する文面は、そのほとんどが、「個人情報」の取り扱い方に関する規約や宣言文など。
この上なく「真面目」な文章です。
そして、その文面の中で最も重要な単語は何かといえば、それはまさしく「保護対象とする主体」である「個人情報」です。
その最も大事な「個人情報」自体が間違っているようでは、ちょっと情けなさすぎます。
それでは、なんのために公開している文章なのか、全然わからなくなってしまいます。

たったひとつの誤字です。
キーをひとつ押し損ねただけの、単純なミスです。
これくらいのミスは、誰にでもあることでしょう。
別の言葉と紛らわしくなることもないですから、文意に誤解を生むこともありません。
しかし、そのページが書かれている目的からすれば、こんな間違いをそのまま放置するなど考えられません。

よくわからないけど法律ができたそうだし、他の会社もみんな書いているみたいだし。
うちの会社も、サイトに何か文章を載せた方がよさそうだなぁ。
でも、個人情報を真面目に守るなんて、そんな面倒なことする気はさらさらないし。
適当に、そのへんから拾ってきた文章をつなげて載せておけば十分でしょ。
誰か担当者を決めて、その人に作らせればいいや。
こんなの誰も読まないから、文章のチェックなんて要らない要らない。
さっさと済ませて、別の仕事をやってくれ。

…もちろん、これは私の勝手な空想です。
が、まるっきりでたらめとも言い切れません。
少なくとも、その文章を公開する目的がわかっていれば。
ほんの少しでも、この問題に真面目に取り組む意思があるのなら。
そのページで最も重要な単語である「個人情報」の誤字を放置しておくなど、できるはずがないのです。

個人のサイトではなく、組織のサイトです。
にもかかわらず、文面を組織的にチェックする体制すらないとしたら。
こんな「おざなり」な態度で作られた宣言に、いったい何の価値があるでしょうか。
それでは、個人情報そのものに対する姿勢までも疑われてしまいます。

実際に「漏洩事件」が起きたとき。
「規約には『個人情報』を保護するなんて書いていない。我が社が保護しているのは『個人除法』だ。」
などという言い訳をしないとも限りません。
…というのは冗談ですが。

個人情報の漏洩は、その被害者に対する具体的な「脅威」です。
一度漏洩すれば、増殖し続ける卑劣な詐欺師たちが、たちまちのうちに群がります。
そして実際に、迷惑メールや架空請求などの「攻撃」を仕掛けてきます。
簡易裁判を利用した悪辣な手法までが使われるようになり、その危険度はさらに上がりました。
某IT企業のおかげで、漏洩させた業者が被害者に払う「お詫び」は「1件500円」などという相場ができあがっていますが、そんなもので済むような話ではありません。
また、「自分たちには落ち度がないから補償もしない」などと開き直る人たちもいますが、まったくもって論外です。

しかし、今では業者が個人情報を漏洩させても、話題になるのは一瞬だけです。
露骨な責任逃れをして責められたとしても、結局はすぐに忘れられてしまいます。
詐欺師たちも次々と逮捕されてはいますが、全体の件数に比べれば、その検挙率はごくわずか。
逮捕されても立件は難しく、多くは罪に問うことすらできません。
そして、たとえ有罪となっても、その罰則は極めて軽いものです。
詐欺だけで死刑になることもある中国とは、法治体制の仕組みが根本から違います。
残念ながら、日本という国は詐欺に対する抑止力を持っていないと言わざるを得ません。

結局は、自分自身で気をつけるしかないわけです。
怪しい業者には、個人情報を渡さない。
これは、自助努力の第一歩です。
本当に信頼できるかどうか、しっかりと確認しましょう。
個人情報」が「個人除法」になっているような業者なら、特に念入りに。

[実例]

日本人とは、かくも「文字の過不足」に弱いのでしょうか。
このような「文字の過不足」が原因と思われる誤字等の品種を、「過不科(かぶか)」と命名しました。

[亜種]

個人乗法:1件
個人定法:9件
個人上方:6件
個人叙法:5件
個人譲歩:34件
故人情報:265件
古人情報:2件
個人晴報:5件
個人惜報:7件

たまには、亜種にもコメントしてみましょうか。

個人乗法……正しく「じょうほう」と入れたのに、また別の四則演算に誤変換してしまいました。
個人譲歩……万一漏洩しても、譲歩しろってことでしょうか。おことわりです。
故人情報……殺さないでください。葬儀関係か新聞記事なら、故人の情報も扱うんでしょうけど。
個人晴報……今日の予報は、個人的に「晴れ」です。
個人惜報……惜しい。あとちょっと。

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