2006.07.29

誤字等No.157

【自転者】(誤変科)

Google検索結果 2006/07/29 自転者:689件

自転者」とは、どのような意味の言葉でしょうか。

  1. 自ら転ぶ者。自分自身の愚かな行為が原因で、その報いを受けて転落する者のこと。自業自得。
  2. その場でくるくると自転する者。単なる趣味なのか、方向感覚を失ったことによる迷走なのかは不明。

逮捕直前の某社長が、TVのCMでくるくる回っていたことを思い出しました。
転落への秒読み状態にあることに気づかず、歌いながら自転していた彼。
まさに「自転者」の称号にふさわしいと言えます。

自転者」を使った用例も、いろいろと見つけることができました。

[自転者競技]:どれだけ長時間、くるくる回り続けられるかを競う競技。
鍛えられた三半規管の持ち主でなければ、上位入賞は難しいでしょう。

[放置自転者]:自業自得のため、誰からも救いの手を差し伸べられず、見放された転落者。
流行語にもなった「自己責任」の考え方の犠牲者です。

[通勤自転者]:満員電車に適応できず、ドアの前でくるくる回っている人。
降りる人のジャマです。いったんホームに降りて道を譲ってください。

[自転者操業]:自転車操業が深刻化し、資金繰りが追いつかなくなった状態。
あとはひたすら転落するのみ。破綻寸前です。

世の中、いろいろな「自転者」がいるものですね。

以上、「誤字等の館」名物(?)、「強引に文字通り解釈してみました」のコーナーでした。

無論、本気でここに並べたような意味を持たせた、「洒落」としての使い方は、ごくわずかです。
検索結果として登場する「自転者」のほとんどは、「自転車」の誤変換にすぎません。
特に深い意図もなければ、勘違いなどもからんでいない、単純なケアレスミスとしての誤変換と考えるのが妥当です。
ですが、出来上がった誤字にはなんとも言えない味わいがありますので、誤字等として取り上げてみることにしました。

間違いの原因はただの誤変換と考えられますが、それが見逃される原因は「」と「」の形にもあるはずです。
「よく似た文字」とまでは言えないかもしれませんが、それほど「かけはなれた形」というわけでもありません。
その上、読み方も同じとくれば、「斜め読み」程度で間違いに気付くことは難しくなるでしょう。

類似の誤変換に、「自動車」の誤変換である「自動者」があります。
実は、Googleでヒットする件数で比べると、「自動者」の方が圧倒的に多いです。

自動者:24,600件
自転者:689件

世の中でメジャーな存在は、「自転者」よりも「自動者」のようですね。

自動者」とはすなわち、自ら動く者。
……文字通りに解釈しても、あまり面白くありませんね。
いまひとつ「妙味」に欠けますので、誤字等の館としては「自転者」を採用することにしました。

もっとも、使い方次第では「自動者」の用例もそれなりに面白くなります。
例えば…

[自動者税]:自力で動ける人間にかけられる税金。新種の人頭税。
[自動者教習所]:他人に頼らず、自分から動く方法を教えてくれる施設。
[自動者メーカー]:人型ロボットを製造する企業。

……いまいちですね、すみません。

ところで。
自転車」も「自動車」も、それ自体をひとつの単語としてとらえれば、誤変換など発生するはずがありません。
すなわち、誤変換の発生している状況では「自転」+「」と分解された状態で解釈されていることになります。
前半部である「自転」や「自動」が独立した単語として実在しているため、そのような解釈が可能なのですね。

これは、「かな漢字変換プログラム」の実力そのものを指し示す指標となります。
じてんしゃ」という平仮名入力から「じてん」だけを抜き出さず、正しく「自転車」を見つけられるかどうか。
自転者」や「自動者」と書いてしまった人たちの使っている環境では、この実力が不足していると考えられます。
時点車」や「自転社」などの亜種も、同じ原因ですね。

亜種の中には、これとは違った原因によって生まれてきているものがあります。
自電車」、あるいは「字電車」「時電車」といった表記です。
すべて、おそらく「じでんしゃ」と読みます。
多くは「電車」に関連する文面でしたが、中には明らかに「自転車」のつもりで表記されている文章もあります。
これは、「発音」が原因で生じた間違いです。

自転車のことを「じでんしゃ」と発音する人は、珍しくないようです。
それが訛りによるものなのか、音韻変化によるものなのかは分かりません。

じてんしゃ」と発音しているつもりでいながら「じでんしゃ」になっている人。
じでんしゃ」こそが正しいと思い込んでしまっている人。
じてんしゃ」も「じでんしゃ」も同じだと思っている人。
そもそもその違い自体に気づいていない人。
いろいろなパターンが考えられますが、「自電車」なる表記をしている人は、確実に「」を意識していますね。

たとえ「」が正解だと信じ込んでいたとしても、一度でも「変換」すれば、「気づく」ことが可能なはずです。
じでんしゃ」では「自転車」に変換されない、という事実に。

今の世の中、パソコンや携帯電話で、「文字を打ち込む」ことを日常的に行う人は増加しています。
そのような習慣を持つ人が、「じでんしゃ」のような間違いを「正さない」ままでいることは、実は難しいことなのです。
もし、「自電車」なる妙な変換で満足しているとしたら、その人の日本語に対する「関心」の低さが露呈します。

ただし、ひとつだけ例外があります。
それは、日常的に使用している「かな漢字変換プログラム」が、度を超えて「親切」だった場合です。
実際、「せんたっき」と入力して「洗濯機」に変換してくれるプログラムは実在します。
同様に、入力が「じでんしゃ」であったとしても、何事もなかったかのように「自転車」へと変換する機能が提供されていたら。
そのような「親切」な機能を常用していると、せっかくの「間違いに気づくチャンス」を喪失してしまいます。

いえ、それどころではありません。
何事もなく「じでんしゃ」で「自転車」に変換されたとしたら。
じでんしゃ」こそが「正しい読み」であるという、誤った認識を助長しかねません。
そのような状態の人が、いつもとは違う、「親切度」の低い環境で文章を作ったら、どうなるでしょうか。
まさか変換ミスが起こるなどとは夢にも思いませんから、たとえ「自電車」と表示されていても、簡単に見逃してしまうでしょう。
便利すぎる機械が「人間の能力」を低下させてしまう例のひとつと言えます。

じてんしゃ」を「自転車」に変換できない能力不足。
じでんしゃ」を「自転車」に変換してしまう能力過剰。
どちらも、問題をかかえています。
機能が多すぎても少なすぎても良くないとは、困ったものです。
かな漢字変換に限ったことではないかもしれません。
人間と「道具」との関係とは、結構難しいものですね。

[実例]

日本人とは、かくも「誤変換」に弱いのでしょうか。
このような「誤変換」が原因と思われる誤字等の品種を、「誤変科(ごへんか)」と命名しました。

[亜種]

時点車:47件
自転社:64件
自電車:15,000件
字電車:298件
時電車:14,800件
自働車:9,560件
自働者:13件

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