2004.06.05

誤字等No.080

【申し訳け】(平誤科)

Google検索結果 2004/06/05 申し訳け:7,450件

「申し訳ない」「申し訳ありません」「申し訳ございません」…と、世の中には「謝罪」があふれています。
謝罪しなければならないような失態が、それだけたくさんあるということでしょう。

しかし、よく読むとこれが「申し訳けありません」だったりすることが時々あります。
これを書いている人が本当に謝罪する気があるのかどうか、疑わしくなってしまう誤字です。

どれほど言葉を飾り立てようと、たったひとつの誤字ですべては台無し。
うわべだけを取り繕うために、その場限りのごまかしを並べているという「本音」が現れてしまいます。

申し訳」は相手にかけた迷惑の理由を説明する弁解や弁明であり、その余地がないことをもって謝罪の意を示す言葉が「申し訳ない」です。
ある種の「決まり文句」であり、「申し訳け」と表記する必要はまったくありません。
」と「話し」のような「意味の違い」など存在しない、ただの誤字です。

にもかかわらず、これほどたくさんの「申し訳け」が氾濫する理由は何でしょうか。
ひとつの原因は、おそらく、「もうしわけ」を「申し訳け」と変換してしまうかな漢字変換プログラムの存在でしょう。
筆者の環境ではそのような選択肢は出現しませんが、存在すると仮定しない限り説明がつきません。
そして、そのようなプログラムと、表示された変換結果に疑問を持たず確定してしまう人が出会ったときに、「申し訳け」が生まれてくることになります。

無論、それだけではなく、「手書き」のミスから生まれる「申し訳け」もあることでしょう。
原稿を手書きで書いておいて、OCRで読み込む、あるいはオペレーターに入力させるといった面倒な手続きがどの程度行われているかは分かりませんが、古い人間が幅を利かせる組織ではあり得る話です。

わけ」と読む言葉には、もうひとつ「分け」があります。
こちらは「分ける」という動詞から派生した言葉で、送り仮名が付きます。
この「分け」と「」を混同した結果、「訳け」という表記になってしまうことも考えられます。
訳け」で「わけ」と読むのはずいぶん違和感があるのですが、そう感じない人も多いのでしょう。

」の代わりに「分け」を使って、「申し分け」という表記もあります。
誤字のように見えるのですが、「間違いではない」とする向きもあるようです。
「理屈」や「道理」といった意味の「わけ」を「分け」と表記するという主張なのでしょうか。
私には、ちょっと理解できません。

繰り返しになりますが、謝罪の言葉に「申し訳け」と表記する人は、本当に謝る気があるとは思えません。
心から謝罪する気があるのなら、ひとつひとつの言葉を大事にするはずです。
このような誤字を放置した文章は、それだけの心構えがないことを証明してしまいます。
これでは、どれほど謝罪を重ねても空虚なだけです。

もっとも、「とりあえず謝っとけ」が本音であり、それを隠す気もないのであれば、止めはしません。
いくらでも誤字を使ってください。その方が、見分け易くて楽ですから。

[実例]

日本人とは、かくも「平仮名の間違い」に弱いのでしょうか。
このような「平仮名の間違い」が原因と思われる誤字等の品種を、「平誤科(ひらごか)」と命名しました。

[亜種]

申訳け:204件
言い訳け:679件
言訳け:51件
内訳け:115件
訳けあり:4件
訳け知り:3件
訳けがない:12件

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