2004.07.16

誤字等No.095

【ユキビタス】(替誤科)

Google検索結果 2004/07/16 ユキビタス:536件

今回は、「たなけん」さんからの投稿を元ネタにしています。

ユビキタス」、最近になって、よく聞くようになった言葉です。
特に、情報関連企業の「お偉方」たちは、まるで呪文のように、この言葉を唱え続けています。
その意味は、一般の人にどれだけ浸透しているでしょうか。

その意味を「なんとなく」でも知っている人は、結構多いと思われます。
しかし、「耳にすることは多いけれど、なんだかよく分からない」という認識の人も、相当に多いことでしょう。
あるいは、世の中が便利になる「魔法のキーワード」らしい、という感覚かもしれません。
かつて流行した「マルチメディア」や「IT革命」といった言葉たちと、同じような立場にいるとも言えます。

このような状態では、「ユビキタス」の素晴らしさをどれほど熱弁しようと、聴衆の反応は「何か難しいことを言っている」程度にしかなりません。
訴えかけるものが伝わらないばかりか、むしろ、流行のキーワードで「ごまかし」を図っているかのような怪しささえ感じられてしまいます。

ましてや、「ユキビタス」などと言っているようでは、「言っている本人も、実は理解していない」ことを白状しているも同じです。

自らの実力もわきまえず、ありもしない知識をあるように見せかけて虚勢を張る姿。
人、それを「はったり」といいます。

言葉に対する「共通認識」を確認できない状態で、いかなるコミュニケーションが期待できるものでしょうか。
新しい言葉でうわべだけを飾り立てる虚飾は、簡単に見破られます。
自らの底の浅さを露呈する前に、言葉の使い方を見直した方が賢明です。

さて、「ユビキタス」の本当の意味とは、何でしょうか。
語源はラテン語の「ubiquitous」で、日本語に訳すと「遍在」という言葉になるようです。
簡単に言えば、「どこにでも存在する」といったところでしょうか。

しかし、この「ユビキタス」を「遍在」と訳すことには、致命的な欠点があります。
その欠点とは、文字の形がよく似ていて、発音まで同じ「偏在」という言葉があることです。
こちらの意味は「かたよって存在する」ですので、「遍在」とは完全に「逆」の言葉となります。
そっくりなのに「対義語」とは、なんとも紛らわしい言葉ですね。
実際、「ユビキタス」に言及した文章で、「遍在」を「偏在」と誤記しているページは大量に見つかります。
これでは、「遍在」も「偏在」も、日常会話に定着させることは至難と言わざるを得ません。

かと言って、「ユビキタス」のままでしっかりと意味が通用するわけでもありません。
最近よく使われている「ユビキタス」は、実際には「ユビキタス・コンピューティング」もしくは「ユビキタス・ネットワーク」の省略形であることが多いです。
その両者の意味を取り違えている人も、これまた大量に存在します。
それはそうですよね。
両者は「違う意味の言葉」なのに、同じ省略形で表現していては、どっちがどっちだか分からなくもなろうというものです。

これは、浸透していない新語であるにもかかわらず、不用意に省略して話をする怠慢が招いた結果です。
そのために、余計に「浸透しづらい」言葉となってしまったという要素もあります。
今では、聴衆を煙に巻きたい「お偉方」にとって格好のハッタリ用語に成り果ててしまいました。

どこかで「ユビキタス」という言葉を聞いたら、その話者が「本当の意味」を知っているかどうか、チェックしてみることをおすすめします。
そうすれば、その人の「本当の姿」が現れてくるかもしれません。
さらに、よく見れば「ユビキタス」ではなく「ユキビタス」だったとしたら。
その人の話全般に対して、かなり「疑ってかかる」必要がありそうです。

[実例]

日本人とは、かくも「入れ替え」に弱いのでしょうか。
このような「入れ替え」が原因と思われる誤字等の品種を、「替誤科(かえごか)」と命名しました。

[亜種]

ユビキスタ:25件
ユビタキス:28件
指キタス:18件

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