2004.09.20

誤字等No.111

【見れれる】(平誤科)

Google検索結果 2004/09/20 見れれる:228件

れ足す言葉」と呼ばれる言葉遣いがあります。
それは、「ら抜き言葉」と同じような「日本語の乱れ」として論じられることが多いようです。
本来、必要のないはずのところに「」を加えてしまう現象。
それは、「ら抜き」よりもさらに日本語を「単純化」する思想とも考えられます。

日本語は、動詞に「可能」の意味を加えるとき、二つの方法があります。
まずひとつは、可能の助動詞「れる」「られる」を付加する方法。
見る」を「見られる」にする変化が、これにあたります。
このとき、「れる」と「られる」の使い分けを拒否し、「れる」だけで済まそうと考えると…
それが、「見れる」という「ら抜き」になります。
ら抜き」を非難する人たちの多くは、この側面を重視しているように見えます。

もうひとつは、動詞を「可能動詞」に変化させる手法。
文法的に説明すると、「五段活用」の動詞を「下一段活用」に変化させることで可能動詞になる、ということらしいです。
具体的に例示すると、「書く」が「書ける」になったものが「可能動詞」にあたります。
ら抜き」言葉は、この変化を「五段活用」以外の動詞にも適用したものだと考えることもできます。
見れる」は「」+「れる」ではなく、下一段活用に変化した「見れる」という可能動詞である、とする解釈です。

筆者は、「見れる」が生まれた原因としては、後者の考え方を支持します。
また、これは「合理的な変化」であるとも考えています。
ら抜き」を咎める気にならないのは、そういった背景があります。
もっとも、この場合、厳密に言えば「ら抜き」という名称はふさわしくありません。
ですが「見る」という動詞を可能表現に変えるという意味合い自体に違いはありませんので、統一して「ら抜き」と呼ぶことにします。

さて、冒頭の「れ足す」は、上記の内、後者の考え方に馴染めない人たちが使う表現という見方が可能です。
すなわち、助動詞の必要ない「可能動詞」という概念を理解しきれず、「れる」を追加してしまう行動です。
その結果、「書ける」「読める」「言える」は、「書けれる」「読めれる」「言えれる」となります。
仮にこのような意識があるとすれば、それは「可能」=「れる」とまで図式を簡略化してしまった「単純思想」の成れの果てとなります。
筆者も、さすがにここまで許容する気は起きません。

無論、方言などで普段からこのような言葉遣いをしている人たちは別です。
しかし、普通の現代標準語を使っていながらの「れ足す言葉」は、なんとも情けないもの。
とは言っても、「日本語の乱れ」などという大層なものとは思っていません。
むしろ、まだ日本語に慣れていない、未熟な「カタコト言葉」といった印象を受けます。
それは、言葉の使い方をちゃんと学ぶ機会を得ていない「お子様」の言葉遣い。
そのような相手に、「誤用」を指摘しても得るものはあまりありません。
責めるでも笑うでもなく、ただ見守るだけにしておきたいものです。

長々と前置きをしましたが、今回のテーマは「れ足す」自体ではありません。
上記の「ら抜き」と「れ足す」を複合させた現象と見られる「見れれる」が表題です。

なぜ、「複合技」と考えられるのか。
見る」から「見れれる」への変化の過程を見てみましょう。

まず、「見る」を可能動詞に変化させ、「見れる」にします。
形としては、「見られる」からの「ら抜き」と同じものとなります。
前述のように、このような変化を世間一般では「ら抜き」として批判しています。
ただし助動詞「れる」が付いていると見るとそこで終わってしまいますので、ここでは「可能動詞」になっていると考えます。

見れる」を「可能動詞」として解釈すれば、「書ける」が「書けれる」になる現象と同じ「れ足す」が発生しても不思議ではありません。
こうして、「見れれる」という表現が生まれます。

このように、文法的に分析すれば、「ら抜き」と「れ足す」の二つの誤用が重なったものが「見れれる」となります。
結果としてできあがったものは、「本来の可能表現」である「見られる」と結構近いものとなりました。
形だけを見れば、「」が「」になっただけです。
平仮名がひとつ変化しただけというところから、誤字等の館ではこれを「平誤科」に分類します。
見られる」から生まれた誤字等は、過不科、替誤科に続き、三種目となりました。

変化の過程は複雑でも、落ち着いた先は意外と身近なところ。
なかなか、興味深いものではありませんか。

[実例]

日本人とは、かくも「平仮名の間違い」に弱いのでしょうか。
このような「平仮名の間違い」が原因と思われる誤字等の品種を、「平誤科(ひらごか)」と命名しました。

[亜種]

着れれる:7件
出れれる:10件
起きれれる:3件
食べれれる:158件
投げれれる:9件
逃げれれる:8件

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