2006.06.03

誤字等No.154

【かろうじで】(平誤科)

Google検索結果 2006/06/03 かろうじで:22,300件

今回は、「だい」さんからの投稿を元ネタにしています。

「かろうじて」と「かろうじで」
おそらく前者が正解でしょう・・・。私は30年間後者を使ってきましたがつい先日気がつかされました。

頂いた投稿です。
ご本人が気付かれたように、正解は「かろうじて」ですね。

この投稿、私には少々意外でした。
この言葉に間違いが存在すること自体を、まったく意識していなかったからです。

実際に検索してみると、結構みつかるものですね。
単なる「タイプミス」も混ざっていることでしょうが、それだけでは説明できません。
かろうじで」で正しいと間違って思い込んでいる人も、相当な人数になりそうです。

なぜ、このような間違いが発生するのでしょうか。

もともと、日本人が「清音」と「濁音」の区別をはっきりつけないことは以前にもご紹介しました。
特に「語尾」の発音が曖昧になることは、よくあることです。

さらに、「訛り」が入るとその傾向は顕著になります。
東北や北関東では「行く」を「行ぐ」と発音する地方も多いようですし、「東北」自体も「とーほぐ」と発音するケースがあります。
「茨城」の正しい読みは「いばらき」ですが、現地の人たちの発音は「えばらぎ」に聞こえるという例もあります。

かろうじて」と「かろうじで」を特に区別せずに使っている事例の原因は、おそらくここにあります。
全般的に「清音」と「濁音」の違いを気にしない人なら、「」でも「」でも構わない、という事態になるでしょう。

一方、筆者自身の個人的な感覚としては、「かろうじで」の発音にはかなりの違和感があります。
「ドッグ」と「ドック」のように、場合によっては等価とみなせる「許容範囲」からは相当外れた位置です。
「とーほぐ」のように、訛りとして認識できる範囲からも逸脱しています。

その理由は、「かろうじて」の使い方にあります。
かろうじて」は「副詞」として、他の言葉を修飾する役割を持っています。

実際に使い方を考えてみましょう。
かろうじて始業時間に間に合った」「我がチームはかろうじて勝利した」
いずれも、その文章自体が伝える意味の「中核」として、「かろうじて」は非常に重要な位置にある言葉です。

そのため、上記の文章を発話する際、「かろうじて」はかなり「強調」されます。
特に語尾の「」は、言葉を次につなげるために、よりはっきりと発音します。

このように「曖昧」とは程遠い状況にあることが、濁音化の許容範囲から外れる理由と考えています。

上記は、「かろうじて」に疑問を持ったことのない筆者自身の感覚です。
無論、普段から「かろうじで」を使っている人は、その感覚も異なっているはずです。
私とは逆に、「かろうじて」と清音化して発音することに抵抗があるかもしれません。

清音と濁音の曖昧さが原因の場合、その発音も曖昧になることでしょう。
しかし、そうではなく、はっきり語尾を「」と発音しているのなら、その理由は別にあります。
ここで推察されるのは、類似する他の言葉との「混同」です。

分かりやすいのは、「接続詞」としての「」。
「それで」「ところで」「そういうわけで」など、「」を使って文章をつなげるケースは豊富にあります。

動詞に付く助詞としての「」もあります。
「飛んで」「泳いで」「畳んで」「見ないで」など。

断定の助動詞「だ」や形容動詞の活用語尾としての「」も考えられます。
その場合、「かろうじ」+「」と分解して解釈していることもあるかもしれません。

同じような意味として、「やっとのことで」「ようやくのことで」といった表現もあります。

このような言葉の仲間であるという思い込み。
それが、「かろうじで」という間違いの背景にあるのではないでしょうか。

その思い込みが強固であれば、「かろうじで」こそが「自然な言葉」と感じられるはずです。
いまさら正解が「かろうじて」であると教わっても、強烈な違和感が残ることでしょう。
「それで、」と文章をつなげる部分が「それて、」に変わるようなものですから。
正しい言葉を「覚えなおす」ことは、かなり困難なものとなりそうですね。

さて、ここで類似のパターンをいくつか探してみます。

まずは、濁点の有無を変化させたものから。

かろうして:548件
かろうしで:31件
がろうして:4件
がろうしで:0件
がろうじて:2件
がろうじで:0件

「う」の部分の表記を変えたものも、少数ながら見つかりました。

かろーじで:4件
かろーして:3件
かろぅじで:7件
かろおじで:1件
かろぉじで:2件

漢字に変換したものもあります。

辛うじで:44件
辛うして:32件

そして、妙な誤変換も。

過労じで:9件

やはり、簡単に思いつくようなバリエーションは大概誰かが既に使っているものですね。
毎度のことながら、言葉の多様性には感心させられます。

[実例]

日本人とは、かくも「平仮名の間違い」に弱いのでしょうか。
このような「平仮名の間違い」が原因と思われる誤字等の品種を、「平誤科(ひらごか)」と命名しました。

[亜種]

そしで:12,300件
そうしで:81件
総じで:24件
断じで:131件
概しで:3件
決しで:114件
今にしで:2件
時としで:5件
果たしで:506件
つなげで:105件
いかにしで:3件
期せずしで:2件
もしかしで:71件

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