2006.07.08

誤字等No.155

【脊椎反射】(取違科)

Google検索結果 2006/07/08 脊椎反射:28,100件

今回は、「はくたか」さんからの投稿を元ネタにしています。

脊髄反射」とは、外部からの刺激が脳まで伝わる途中、脊髄で折り返して反応が起こる現象です。
代表的なものは「膝の下を叩くと足が上がる」反応で、「膝蓋腱反射」と呼ばれています。
かつての日本では、「国民病」であった「脚気」の診断にも使われました。

辞書に載っている「本来の意味」は、このような「医学用語」です。
医学関係者でない人たちの日常会話で、この意味での「脊髄反射」が使われることなど滅多にありません。
一般的に広く使われているのは、この言葉を比喩的に用いた、「もうひとつの意味」です。

脊髄反射」の特徴は、「脳」を経由していないことにあります。
このことから、「頭」を使っていない、「思慮の浅い」反応、行動を揶揄して「脊髄反射」と称します。
多くは、行動の当事者を侮蔑する意図、あるいは自虐的な謙遜が含まれている用法です。

掲示板などで、記事の内容を理解しようともせず、字面だけに反応した書き込みがあったとき。
そのような書き込みに「脊髄反射」というコメントがついたなら、それは「少しは考えろ」という指摘です。

世の中、ものごとを深く考える習慣を持たず、その場限りの対応をする人間は多いものです。
それがあまりにも粗忽で浅はかな態度であった場合、その対応は「脊髄反射」として評価されます。
定常的に「脊髄反射」ばかりを繰り返す者がいれば、「愚人」とみなされ、相手にされなくなるでしょう。

本来の意味での「脊髄反射」に「脊髄」という言葉が含まれていることには、重要な意味があります。
なにしろ、文字通り「脊髄」を中枢として生じる反応のことを指しているわけですから。
脊髄」以外の言葉を使ったら、完全に「別の言葉」になってしまいます。

しかし、「専門用語」から派生した「一般用語」としての「脊髄反射」の場合は、そうとも限りません。
要は「頭」を使っていないことを表現したいだけですから、反射が起きる場所はどこでも良いのです。
そのような意識から生じた変化のひとつが、今回の表題である「脊椎反射」です。

脊椎」とは、要するに「背骨」のこと。
中枢神経である「脊髄」とは、別物です。
しかし、医学に関心のない人たちにとって、この違いはさほど重要ではありません。
実際、「脊髄」は「脊椎」の中を通っていますので、両者は非常に「近い」関係です。
少なくとも「日常会話」の範囲では、この二つを明確に区別する必要性は薄いでしょう。
大抵は、それで何の支障もありません。

その違いを気にしないのなら、「脊髄反射」が「脊椎反射」になっても同様です。
変化自体が意識の範囲外にあれば、違いが存在することにも気付けません。

実際、二つの言葉を混ぜて使っている人もいます。
どちらも同じ意味と思っているか、違いに気付いていないか。
気付いていながら、どちらが正解かで悩んでいる人もいるようです。

さらには、「脊椎反射」こそが正しい用語であると考えている人も存在します。
言葉の意味を冷静に考えれば、「脊椎」すなわち「骨」で反射が起きるかどうかで判断できそうなものですが。
本来の意味からは離れた「比喩的」な表現手法に、正解も間違いもないのかもしれませんね。

前述の通り、比喩的表現においては「脊髄」自体に深い意味はありません。
したがって、「脊椎」以外の、「似た言葉」への変化も発生します。
そのひとつが「骨髄反射」です。

実は、今回の元ネタとした投稿は、「骨髄反射」でした。
脊椎」であれば、まだ「近い」感じがありますが、「骨髄」では無理がありすぎます。
検索結果には、本当に間違えているのか、言葉遊びのつもりでわざと間違えているのか判別しづらい文章も目立ちました
本当に「骨髄反射」だと思っているのなら、もはや「元の意味」は「どうでも良い」状態になっているのでしょうね。

もうひとつ、別の変化がありました。
無脊椎反射」という表現です。
脊椎動物」「無脊椎動物」の分類と混ざってしまったのでしょうか。
これはもう、完全に「言葉遊び」の範疇です。

脊椎動物」よりも単純な「無脊椎動物」並みの反応だ、ということで、「無思慮さ」を強調した表現のつもりかもしれません。
脊椎が「無い」状態で、どこで「反射」が起きているのか理解不能ですが、そのような論理的解釈など不要なのでしょうね。

もし、意図的な「言葉遊び」ではなく「無脊椎反射」などという表現を使っていたら。
それは、意味を「考える」ことなく、感覚だけで言葉を選んでいることを示します。
そのような態度こそ、「脊髄反射」的な言葉遣いといえます。

だとすれば、それに対する「間違いの指摘」も詮無きこと。
間違いを見つけても、それに「脊髄反射」はしない方が良さそうです。

[実例]

日本人とは、かくも「別の言葉との取り違え」に弱いのでしょうか。
このような「取り違え」が原因と思われる誤字等の品種を、「取違科(とりいか)」と命名しました。

[亜種]

骨髄反射:676件
無脊椎反射:32件
背髄反射:1件

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