2004.01.25

誤字等No.023

【領布】(似字科)

Google検索結果 2004/01/25 領布:5,230件

今回は、ペンネーム「FX」さんからの投稿を元ネタにしています。

領布(りょうふ)」という言葉があります。
「広く配って行き渡らせる」という意味で使われているようです。
同様の意味を持つ「配布」が「無料で配る」という場面で使われることが多いのに対し、「領布」は「有料で提供する」ような場面に多く登場しています。

しかし、この「領布」という言葉、辞書には載っていません。
りょうふ」でかな漢字変換を行っても、「領布」は出てきません。
なぜなら、それが誤字であり、そんな言葉は存在しないからです。
(「薄く細長い布飾り」の意味で「領布(ひれ)」と表記することもあるようですが、正しくは「領巾」です。)

「広く配って行き渡らせる」という意味を持つ本当の言葉は「頒布」、読みは「はんぷ」です。
」は「分配する、ばらまく」といった意味の漢字で、「広く行き渡らせる」という意味を持つ「布」と組み合わせて作られた熟語が「頒布」です。
」に「分ける」という漢字が含まれていることに気付くと、覚えられます。

一方の「」は、「領地」「占領」「大統領」といった熟語を見れば分かるように、「統治する、支配する」といった意味を持つ漢字です。
「布」と組み合わせても、「配る」という意味にはつながりません。

この誤字ほど、「本気で間違えている」人が多い言葉も珍しいでしょう。
存在しないはずの「領布」で意味が通じ、話が成立してしまうというということは、既に「新しい言葉」として実質的な市民権を獲得していることになります。
りょうふ」で変換されないことを不思議に思い、わざわざ単語登録する人までいるそうです。
また、「頒布」のままで「りょうふ」と読む人や、「はんぷ」と読んでいるのに「領布」と表記する人など、間違え方にも複数のパターンがあるようです。
しかし、いずれにしても間違いは間違い。
企業や団体の公式ページで「領布」なんて表記していては、「恥」というものです。
株式会社○○技術研究所さん、「沿革」のページにひたすら「領布業務を受託」と書いてあるあたり、見直した方が良いですよ。

なぜ、これほどに間違いが横行してしまうのでしょうか。
WEB上の表記だけを見れば、他の似字科誤字等と同じように「OCRの読み取りミス」という原因もあることでしょう。
しかし「りょうふ」で正しいと思い込んでしまうことの理由にはなりません。

勘違いの生まれる大きな原因は、やはり「」と「」の認知度の違いにあります。
」は小学校五年生で習う学習漢字であり、前述の熟語のほかにも「領主」「要領」「領収書」など、様々な使われ方をする「馴染み深い」漢字です。
対して「」は、「頒布」「頒価」以外の用例はほとんど目にしない、「馴染みの薄い」漢字です。
」という漢字の存在自体を知らない人がいても不思議ではありません。
そのため、「頒布」という表記を目にした人が、無意識のうちに「」を「」と読み違えたとしても、仕方のないことと言えます。
似字科の誤字でありながら、逆の現象(「」の代わりに「」を使う誤字)が極端に少ない事実が、それを立証しています。

もうひとつの原因として、これがいわゆる「書き言葉」であることも関係すると考えられます。
頒布」という言葉は、どちらかと言えば「堅い」言葉です。
口に出しての会話より、紙に記した文書に登場する機会の方が圧倒的に多いでしょう。
そのため、紙に書かれた「頒布」という言葉を初めて目にしたとき、無意識のうちに「」を「」と読み違え、「りょうふ」と読んで分かった気になってしまう人が出現します。
言葉に対する関心が高ければ、「本当は何と読むのだろう」と調べることもあるでしょう。
しかし、「りょうふ」で満足してしまった人は、その読み方に疑問すら抱かないかもしれません。
そして「領布」という言葉が存在するという「思い込み」を学習してしまうのです。

自分の知らない言葉を目にしたときは、適当な読みで「分かった気」になるのではなく、ちゃんと調べる習慣を身に付けたいものですね。

[実例]

日本人とは、かくも「似たような字形」に弱いのでしょうか。
このような「似たような字形」が原因と思われる誤字等の品種を、「似字科(じじか)」と命名しました。

[亜種]

領価:710件
頒地:1件
頒土:3件
占頒:4件
大統頒:4件
要頒:10件
頒主:2件

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