2004.10.21

誤字等No.118

【ファイアフォール】(似字科)

Google検索結果 2004/10/21 ファイアフォール:1,070件

ファイアフォール。英語で書けば「fire fall」、「火の滝」でしょうか?
そんな名前のバンドもあるようですが、検索結果に登場する文章の多くは、全くの別物です。
そこには、コンピュータやネットワークに関する専門的な文章が並んでいます。
いったい、「ファイアフォール」とは何物でしょう?

…などと疑問に思うまでもなく、それは「ファイアウォール」の間違いです。
コンピュータ業界における「ファイアウォール」とは、ネットワークの外からの不正なアクセスを防ぐ仕組みのこと。
コンピュータウイルスが蔓延し、「クラッカー」と呼ばれる小悪党が跳梁跋扈する現代、コンピュータを安全に使うためには必要不可欠なものとなりつつあります。

ファイアウォール」という言葉は、火の手を防ぐ「firewall」、すなわち「防火壁」に由来します。
その意味さえ知っていれば、「ファイアフォール」などといった変な表記になるはずがありません。

外来語の間違いと考えれば「外誤科」になる「ファイアフォール」ですが、「wall」を「フォール」と発音するのは無理がありすぎます。
ということで、今回分類には迷いましたが、結局「似字科」にしました。
」と「」の字形が似ていることで発生した「読み間違い」あるいは「書き間違い」が誤字の原因であると推察したことが根拠です。

前述のように、「防火壁」という語源に思い至っていれば、「ファイアフォール」では意味が通じないことは一目瞭然です。
にもかかわらず、妙に「専門的」な文章の中に、平然と「ファイアフォール」なる表記が登場するのは何故なのでしょうか。

一過性の「書き間違い」なら、やむを得ないかもしれません。
しかし、どう見ても「間違えて覚えてしまっている」としか思えない人もいます。
そのような人は、はたして「ファイアウォール」の何たるかを本当に理解しているのでしょうか。
「聞きかじりの知識だけで文章を書いている」と揶揄されても、反論できそうにありません。

あるいは、「firewall」という英語に相当することを想像もせず、単なる「カタカナの羅列」として認識しているのでしょうか?
そんな姿勢で、技術解説文など、書けるものでしょうか。
疑念は尽きません。

さて、この「ファイアウォール」という言葉。
表題の「ファイアフォール」以外にも、様々な表記バリエーションを生み出しています。

まずは、「フォール」という勘違い用語を、さらに音だけで覚えてしまった「ファイアホール (fire hole? fire hall?)」。
それから、元の「ウォール」から一文字欠けた「ファイアウール (fire wool?)」。
ウォール」から派生したと見られる「ファイアオール (fire all? fire oar?)」。
わざと書いているフシが濃厚な「ファイアヲール」。
まるで「ウォール」の仲間のような「ファイアウァール」「ファイアウィール」「ファイアウェール」。
そして、大きさが微妙に変化した「ファイアゥオール」。

さて、これらの言葉がどれだけ使われているか、実際に調べてみましょう。

ファイアホール:16件
ファイアウール:30件
ファイアオール:322件
ファイアヲール:74件
ファイアウァール:4件
ファイアウィール:14件
ファイアウェール:9件
ファイアゥオール:5件

どれもこれも、なんでこんな表記になってしまうのか、書いた本人に聞いてみたいものです。

バリエーションは、まだあります。

fire」の外来語表記は、「ファイア」以外にも「ファイアー」「ファイヤ」「ファイヤー」などが使われています。
となれば、それらの表記を使ったパターンも、当然みつかることでしょう。

ファイアーフォール:399件
ファイアーホール:36件
ファイアーウール:13件
ファイアーオール:551件
ファイアーヲール:106件
ファイアーウァール:1件
ファイアーウィール:1件
ファイアーウェール:14件
ファイアーゥオール:2件

ファイヤフォール:38件
ファイヤホール:4件
ファイヤウール:2件
ファイヤオール:56件
ファイヤヲール:83件
ファイヤウァール:4件
ファイヤウィール:1件
ファイヤウェール:2件
ファイヤゥオール:0件

ファイヤーフォール:917件
ファイヤーホール:35件
ファイヤーウール:18件
ファイヤーオール:615件
ファイヤーヲール:115件
ファイヤーウァール:1件
ファイヤーウィール:8件
ファイヤーウェール:1件
ファイヤーゥオール:3件

みごとに、揃いました。
もっと探せば、きっとまだまだ隠れています。
亜種の項にも、少しだけご紹介しましょう。

専門的な文章で、こういった「技術用語」を間違えてしまうと、文章全体の信頼度は大ダメージを受けます。
素人ならいざ知らず、「専門家」がやっていいことではありません。
ましてや、「文章書き」を本業としているライターなら、赤っ恥もいいところ。
世間一般で「コンピュータ用語が難しい」と言われる一因には、言葉を大事にしない「専門家」の存在も無視できないのかもしれませんね。

[実例]

日本人とは、かくも「似たような字形」に弱いのでしょうか。
このような「似たような字形」が原因と思われる誤字等の品種を、「似字科(じじか)」と命名しました。

[亜種]

firefall:262件
firehole:146件
firehall:26件
firewool:47件
fireall:24件
ファイアウゥール:1件
ファイアウウォール:4件
ファイアオォール:1件

前 目次 次