2004.10.17

誤字等No.116

【いただた】(過不科)

Google検索結果 2004/10/17 いただた:3,180件

ヒットした件数はなかなかのものですが、表題だけだと何のことだかよく分かりませんね。
検索結果の文面を眺めていると、「いただた」なる言葉が記載される経緯は、いくつかの種類がありそうです。

まず、「いただいた (頂いた)」と書こうとしたところで、途中の「」が抜け落ちて「いただた」になったもの。
「お買い上げいただた書籍の」などといった文例が、これにあたります。

次に、「いただく (頂く)」と書くべきところに「」がひとつ余分に入り、「いただたく」になったもの。
「御批判をいただたく原因になった」などの実例が見受けられます。

また、「いただきたい (頂きたい)」となるはずのところで「」が抜け落ち、「いただたい」になったもの。
「ご説明をいただたいと思います」などがそうですね。

上記三種は、文字がひとつ抜け落ちるか、余分に入るかといったミスから生まれていますので、今回の「いただた」は「過不科」に分類しました。
しかし「いただた」の原因には、他の分類に入るものもあります。

それが、「いただいた (頂いた)」の「」と「」が入れ替わり、「いただたい」になったもの。
「ご契約いただたい場合は」などが該当します。
この場合は、「替誤科」となりますね。

それから、「いただいた (頂いた)」の「」が「」に変化して「いただたた」になったもの。
「お買い上げいただたたお客様には」などがありました。
なんとも「あわただしい」印象となりますが、これは「平誤科」に分類できるでしょうか。

他にも、バリエーションはあります。
」が余分に入ったものだけでも、いくつも見つけることができました。
いただいた (頂いた)」から「いただたいた」になったもの。
いただける (頂ける)」から「いただたける」になったもの。
いただきます (頂きます)」から「いただたきます」になったもの。
探せば、まだまだ出てくることでしょう。

語尾の違いは色々ありますが、すべては「いただく (頂く)」という言葉から変化したもの。
間違いの数は、それだけこの言葉が頻繁に使われていることの証左でもあります。

頂く」は、それ自身が「もらう」「食べる」「飲む」などの謙譲語としての役割を持ちます。
しかし、それ以上に、他の動詞に付く「補助動詞」としての使われ方が重要な側面となっています。

誰かに何かをしてもらうとき。
「説明していただく」「お買い上げいただく」などの表現にすることで、自分自身を低い位置に演出することができます。
逆に、自分が何かをするときにも。
「説明させていただく」「購入させていただく」などの形にすることで、他人に許可を得るような謙遜の雰囲気を醸し出すことができます。
これらは、自らをへりくだることで間接的に相手を敬う、「謙譲表現」に類する言葉遣いです。

日本人は、「礼儀」を求められる場面では、とりあえず「へりくだる」という習慣を持っています。
相手を高めるよりもまず、とことんまで姿勢を低くして、へりくだればへりくだるほど良いとされる。
諸外国から見れば、その風潮はなんとも「奇妙」なものと映ることでしょう。
まるで、国民が皆、体面を捨てて実益を取る「商人」の集まりのようです。

そんな「へりくだり文化」で非常に重宝される言葉が、まさにこの「いただく」です。
面倒な「敬語」の使い分けなどを考慮しなくても、とりあえず「いただく」を付けるだけで「謙譲語」になる。
なんと便利なアイテムでしょう。
丁寧な言葉遣いが必要とされる場面で「濫用」されるのも、当然のこと。
そして、その「濫用」こそが「いただた」のような誤記を大量に生み出す原因となっているのでしょう。

「謙譲語」は、「敬語」の一種です。
そして「敬語」は、日本語の体系にがっちりと根付いています。
にもかかわらず、日本人の多くは、実際には「敬語」が苦手です。
「日本語の専門家」が「日本語の誤用」について語るときには、必ずと言って良いほど「敬語の間違い」が登場します。
曰く、尊敬語と謙譲語と丁寧語の区別がついていない、あるいは「二重敬語」は間違いだ、などなど。

しかし、「敬語」とは、そんなに大事なものなのでしょうか。
企業から送られてくる案内書などに記載された、流麗なようで実は空虚な文言の数々。
「敬語」にうずもれた文章はあまりにも「機械的」で、人間味のかけらもありません。
本当の「敬意」もなく、ただ「ビジネスの道具」として使われている言葉。
それが、「敬語」の実態です。

日本人は「敬語」が苦手なのです。
「最近の若い者」だけではありません。
中年だって老人だって、「正しい敬語」なんて使えていないのが実情です。

「正しい敬語の普及」などを試みたとしても、それは徒労というもの。
たとえ正しくとも、強要された敬語が与える印象は、「慇懃無礼」にしかなりません。

いいじゃないですか、敬語の使い方が多少間違っていても。
丁寧な文章を書こうとしているかどうかの気持ちの方が、大事です。
「正しい敬語」とやらで尊大に書かれた堅苦しい文章より、よほど「まし」というものです。

と、言いつつも。
やはり、「誤字」はいけません。
いただたた」などと書く前に、まずは、「落ち着け」というところでしょうか。

[実例]

日本人とは、かくも「文字の過不足」に弱いのでしょうか。
このような「文字の過不足」が原因と思われる誤字等の品種を、「過不科(かぶか)」と命名しました。

[亜種]

いたたいた:220件
いだたいた:467件
いたたきたい:23件
いだたきたい:260件

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