2005.05.28

誤字等No.136

【間際らしい】(替誤科)

Google検索結果 2005/05/28 間際らしい:10,200件

間際らしい」という言葉が誤字等の館に登場するのは、二回目です。
初登場は「まぎわらしい」の回でした。

紛らわしい (まぎらわしい)」を「まぎわらしい」と覚えてしまった人たち。
そのような人は、漢字にすると「間際らしい」なる妙な言葉に変換されることを不満に思っているに違いない。
以前の私は、そう考えていました。

しかし、それから一年以上が経ち、私は認識を改めました。
不満なんて、とんでもない。
想像以上に大量の人々が、「間際らしい」という言葉を、抵抗なく受け入れています。
検索結果の件数、表示されるページの数々。
その現実は、これが「正しい言葉」だと素直に信じ込んでしまった人たちの存在を、明確に浮かび上がらせました。

こんな誤字は、ひと目見れば気がつくはず……
それは、私の思い込みに過ぎませんでした。
甘かったです。調査不足、そして想像力の不足です。

中には、「わざと」遊んでいる人もいます。
「流行語」扱いしている記載もありました。
しかし、「真面目な」文章中であれば、「わざと」であることはありえない話です。

そして、多くの「間際らしい」の使用例を見る限りでは、「何か変だ」と疑っている様子すら見られませんでした。
こんなにもあっさりと「これで正しい」と確信できてしまう言語感覚。
「間違い」というレベルではありません。
これこそが今の日本人の「真実の姿」なのだとしたら。
「言葉の正しさ」という概念自体が、「どうでもよいこと」になっているのでしょうね。
ならば、様々な誤字が爆発的な勢いで増殖しているのも、当然のことと言わざるを得ません。

無論、「間際らしい」という言葉そのものは、間違いではありません。
ここで話題にするのは、それを「紛らわしい」の意味で使っている文面に限ります。
実際、本来の意味で「間際らしい」という言葉を使った文章は、あまり見つかりません。
検索結果のほとんどは、「間違い」の実例として該当する文章だと考えられます。

言うまでもなく、この誤字は「二段階の間違い」を重ねたものです。
ひとつは、「まぎらわしい」と「まぎわらしい」の間違い。
さらに、それを「間際らしい」という漢字に変換してしまう間違い。
当然、「間際らしい」という表記を使う人は、発音も「まぎわらしい」になっていることでしょう。
すなわち、その人たちは「まぎわらしい」という覚え間違いをしている人の数に含まれることになります。
妙な漢字表記に変えてしまった「間際らしい」だけでこれだけの件数が検索されるのが現状です。
他の表記も含めた「まぎわらしい」の浸透度は、相当なものだと言えます。

なぜこれほどまでに「まぎわらしい」が受け入れられているのでしょうか。
その原因のひとつは、語尾の「らしい」にあるのではないかと私は思います。

らしい」は普通に使われる平易な言葉ですが、ひとつの特徴を持っています。
それは、文脈によって全く異なる役割を持つこと。
たとえば、こんな感じです。

「彼は非常に男らしい」
「彼が話題の男らしい」

このふたつの「らしい」は、意味が違います。
一方は「接尾語」として形容詞を作り、もう一方は「助動詞」として推量を示します。
そして特筆すべきは、その両者ともが「日本人の価値観」に実によく馴染むことです。

前者は、「男らしい」「女らしい」「子供らしい」など、「かくあるべきだ」という模範思想。
後者は、ストレートな断定を避け、曖昧で婉曲的な表現を多用する嗜好。
いずれも、いかにも「日本人的」な考え方と言えます。

らしい」という言葉自体が、それこそ「日本人らしい」言葉なのだとすれば。
その響きが、日本人の言語感覚に刷り込まれていても不思議ではありません。
刷り込み度合いの高い人なら、「まぎらわしい」という言葉から、存在しないはずの「らしい」を読み取ってしまうことも考えられます。
そのような感覚の持ち主なら、「まぎらわしい」よりも「まぎわらしい」の方が「自然な印象」の言葉として受け取るかもしれません。
こうして、「まぎわらしい」という言葉を定着させてしまうことが、間違いの第一歩です。

そして、そこから漢字への変化。
まぎわらしい」を「間際らしい」と変換しても、語尾の「らしい」は残っています。
むしろ、より「際立って」います。
まぎわらしい」という言葉の響きを「自然なもの」として捉えていれば、「間際らしい」もまた自然に受け入れることが可能です。
パソコンで漢字に変換してみて、「へぇ、『まぎわらしい』って、漢字で書くとこうなるんだー」と素直に納得してしまう人がいるという現実。
その思想は、このようなところに根付いているのではないかと考えられます。

「WEBサイト」の世界では、もはや「正しい日本語」など、崩壊する間際らしいです。

[実例]

日本人とは、かくも「入れ替え」に弱いのでしょうか。
このような「入れ替え」が原因と思われる誤字等の品種を、「替誤科(かえごか)」と命名しました。

[亜種]

間際しい:10件
間際わしい:1件
間際らわしい:5件
真際らしい:64件
真際わしい:1件

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