2004.03.04

誤字等No.039

【手持ちぶたさ】(替誤科)

Google検索結果 2004/03/04 手持ちぶたさ:2,190件

手持ちぶさた」とは、することがなくて退屈だったり、間が持たなかったりする様子を示す言葉です。
これを「手持ちぶたさ」と表記する人がいます。
検索してみたら、「禁煙グッズ」が大量にヒットしました。
どうやら韓国から売りに来ている商品のようですが、日本市場に進出したいなら、まずはちゃんとした日本語の使えるスタッフを雇った方がいいと思いますよ。

かな漢字変換で入力していれば「手持ち豚さ」となりますので、それを「手持ち豚さん」という駄洒落にしてしまう人も結構いるようです。
でも、あまり面白いとは思えません。
ぶさた」と「豚さん」では駄洒落としても苦しいですし、「ぶたさ」が正しいと思い込んでしまっているようで、みっともないです。

ところで、「ぶさた」を漢字で書くと「無沙汰」となります。
ご無沙汰しています」というときの「無沙汰」です。
文字通り、「沙汰(通知)がい」という意味から来る挨拶ですね。
これもまた「ごぶたさ」と書く人が、それなりにいるようです。
ごぶたさしております」なんて挨拶されても、丁寧なのかふざけているのか分かりません。
素で間違えている人たちは、「ぶた」という言葉が見えた時点で「何か変だ」と思わないのでしょうかね。
不思議なものです。

これほど「ぶたさ」が使われる理由として、仮説をひとつ考えてみました。
それは、この言葉を「形容詞の名詞形」として使いたいという思いにあるというものです。
日本語では、姿や性質などを表すための「形容詞」や「形容動詞」から、その性質の「程度」を示す名詞を作るときには、語尾を「さ」に変えることが一般的です。
「楽しい」→「楽しさ」、「静かだ」→「静かさ」などですね。
そう考えると、「禁煙グッズ」の例文が生まれた理由が分かります。
タバコをやめられない原因として、禁煙していると「口寂しい」と感じることを使ってみたらどうでしょうか。
「禁煙の敵、口寂しさを完全解消!」
元の文(「実例」の項に後述)と並べてみると、同じ形をしていることが分かります。
つまりこの言葉は「名詞化した形容詞」として、ここに入っているのです。

だとすると、名詞化する前の「本来の形」は、何でしょうか。
「形容詞」だとすると「手持ちぶたい」、「形容動詞」なら「手持ちぶただ」になりますね。
そんな言葉はありません。
ここまで深く考えると、「手持ちぶたさ」が間違いであることはもはや明白となってしまいます。

ということで、校正してみましょう。
「禁煙の敵、手持ちぶさたを完全解消!」
これなら、意味的にも文法的にも問題ありません。
手持ちぶさた」は、形容詞的な意味を持ちつつ名詞化した言葉としての役割をちゃんと果たしています。

では、名詞化する前の元の形とはなんでしょうか。
実は、そのままなんですね。
語尾に「だ」を付けて「手持ちぶさただ」とすることで、この言葉はしっかり「形容動詞」になります。
つまり、名詞であり、同時に形容動詞の語幹でもあるわけです。
文法を厳密に適用すれば、名詞化するには語尾を「さ」に変えて「手持ちぶさたさ」とするところですが、その必要はないというわけですね。
同様の言葉には、「健康」があります。
健康が一番」と言えば名詞ですし、「健康な人」と言えば形容動詞になります。
これらの言葉を名詞化する際に「さ」を付けるのは、「程度」のニュアンスが必要なとき、と考えられます。
「ちょっとだけ健康な人」と「とてつもなく健康な人」を比べる際には、「健康さ」が基準になる、といった具合ですね。
同じように、「手持ちぶさた」という「状態」を示したいなら「さ」を付ける必要はないのですが、禁煙グッズでは「非常に手持ちぶさたである」という「程度」を言葉に含めるため、「さ」を付けたくなる心理が働くのかもしれません。

[実例]

日本人とは、かくも「入れ替え」に弱いのでしょうか。
このような「入れ替え」が原因と思われる誤字等の品種を、「替誤科(かえごか)」と命名しました。

[亜種]

手持ち豚さ:136件
てもちぶたさ:209件
ご無汰沙:9件
ごぶたさ:464件
ご豚さ:33件

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