2004.03.28

誤字等No.051

【ASDL】(替誤科)

Google検索結果 2004/03/28 ASDL:3,230件

ADSL」は「Asymmetric Digital Subscriber Line(非対称デジタル加入者線)」の略で、電話回線の音声通話に使わない周波数帯を利用した通信方法で…
などという解説は巷にあふれていますが、そういった「仕組み」は、ほとんどの人にとってどうでもいい話。
単にパソコンを「インターネット」に接続するために必要なもの、といった程度の認識しかない人が大部分なのではないかと思います。
実際、それだけの知識があれば普通は十分です。
ついでに言うと、「A」を「Asynchronous」の略とする解説もときどきみかけますが、「非同期」であることより「非対称」であることに特徴のある方式ですから、「Asymmetric」の方が正確かと思います。

さて、ADSLは業者の低価格戦略によって爆発的に普及し、日本の家庭におけるインターネット接続環境を一変させてしまいました。
「8メガ」「12メガ」「24メガ」「40メガ」など、通信速度をアピールする数字も年々上昇の一途を辿っています。
パソコン売り場に行けば「ご一緒にADSLはいかがですか?」と声をかけられ、街角を歩けば「今ならADSLが無料です!」と紙袋を押し付けられる、そんな光景も珍しくなくなりました。

このように「英単語の頭文字」を組み合わせた言葉は「頭字語(とうじご)」と呼ばれます。
それは英語圏のみならず、日本語の文章中にも頻繁に登場します。
そして日本人の中には、頭字語を苦手とする人が数多くいます。
省略前の、元の綴りを知らずに使っているような言葉であれば、なおさらです。
その結果、「ADSL」のつもりで「ASDL」「ADLS」などと表記してしまう人が現れます。

「Authority Service Description Language」や「Abstract-Type and Scheme-Definition Language」など、本当に「ASDL」と綴る言葉もあるようです。
しかしそれはごく一部。検索結果のほとんどは「ADSL」の間違いでした。
しかもよく見ると、IT関連の話題を多く取り扱う、名だたるニュースサイトが次々と登場しています。
「専門家」のはずの人たちが、「ADSL」を話題とする記事で「ASDL」と表記してしまっているのです。
間違いが1ヶ所だけだったり、「ADSL」と「ASDL」が混在して使われているような場合は、単なるミスと言えます。
反対に、同一のページ内に大量の「ASDL」があったりすると、この担当者は「ASDL」が正しいと思い込んでしまっているのではないかと心配になります。

ADSL」と「ASDL」では、中央の「S」と「D」が入れ替わっています。
このようになる原因のひとつには、「ISDN」の存在が考えられます。
少し前までさかんに宣伝され、ADSL普及の阻害要因とまで言われた「ISDN」の存在は、IT関連の記者なら当然知っているはずです。
ともに「接続環境」であり、「フレッツ」という定額サービスも両方にあり、アルファベット四文字で、「S」と「D」を含む。
ここまで共通点があれば、両者を混同してしまうケースが現れるのも、やむを得ないところでしょう。
それでも、「ASDL」程度ならまだマシです。
これが「ASDN」や「IDSL」などと書かれてしまうと、もうどっちを指しているのか分かりません。
その文章を書いている本人も実はよく分かっていないのではないかと疑いたくなります。

頭字語は、長い言葉を短く表記/発音することができるという利点を持ちます。
フルスペルに比べたら、覚えるのも簡単です。
しかし、それは「専門家」ですら失敗するほど「間違えやすい」言葉なのです。
安易な省略語に頼らないという心掛けは、これからの時代、ますます必要となってくるのかもしれません。

[実例]

日本人とは、かくも「入れ替え」に弱いのでしょうか。
このような「入れ替え」が原因と思われる誤字等の品種を、「替誤科(かえごか)」と命名しました。

[亜種]

ADLS:826件
ADSN:720件
ASDN:379件
IDSL:504件

前 目次 次