2004.05.06

誤字等No.067

【腹ただしい】(替誤科)

Google検索結果 2004/05/06 腹ただしい:1,510件

世の中、「腹立たしい」と感じることは、たくさんあるものです。
絶え間ないストレスに苛まれ続ける現代人であれば、なおのことでしょう。
そんな思いを文章にして、WEBにぶつけている人々がいます。

気持ちは分かりますが、よく見ればそれが「腹ただしい」だったりすることがあります。
漢字にすれば「腹正しい」です。
「腹黒い」の反対で、心の中まで誠実な人間のことでしょうか。
素晴らしいじゃありませんか。
一転して「誉め言葉」になってしまいました。

…というわけもなく、無論これは「腹立たしい(はらだたしい)」の間違いです。
」と「」が入れ替わった替誤科の誤字等となりますが、文字そのものではなく、濁点の付く位置だけが入れ替わったと見ることもできます。

発音上、「はらだたしい」と「はらただしい」を明確に区別することは難しいのかもしれません。
一語ずつはっきりと発音せずに、「はらたたしい」と言ってしまっても、大抵の場面では通用することでしょう。
そのあたりから、知識を「あいまい」なままにしてしまう人が出現するものと思われます。

が、文字になると話は別です。
はらただしい」を一度でも変換してみれば、「腹正しい」という結果が見えるはずです。
あるいは、「原正しい」となるかもしれません。

こういった変換に疑問を持たないような不思議な人も中にはいるようです。
であれば、言うべきことは何もありません。
そうではない、一般的な言語感覚の持ち主であれば、「?」と思うことでしょう。
その時点で自分の知識を疑ってみることさえできれば、「腹立たしい」という正解にたどり着くことができます。
反対に、「自分は正しい。間違っているのはかな漢字変換プログラムの方だ」などと考えてしまう人は、「正しい」の部分を「ただしい」と平仮名書きすることで「良し」としてしまうことでしょう。
いえ、「腹ただしい」を使う人が全員そうだというわけではありませんが。

その論拠のひとつとなるのが、Googleの検索結果です。

腹ただしい:1,510件
腹だたしい:551件

なんと、誤字の方がずっと多いではありませんか。
これは、「正しい言葉を知っている」人の多くは、ちゃんと「腹立たしい」という漢字表記を使っていることを意味しています。
当然ながら、「腹立たしい」の件数は、上記ふたつとは桁違いに多いですから。
この場合、部分的に平仮名表記を混ぜる必要は、全然ないわけですね。
腹が立つ」という言葉は十分に日本語としての市民権を得た言葉ですから、「腹立たしい」という表記も普通に受け入れられるはずです。
すなわち、半端な平仮名表記を使っていること自体が、「思い違い」をしていることの証となっている可能性があるのです。

それにしても、「思い込み」とは根強いものです。
腹が立つ」という言葉を知っていながら「はらただしい」で覚えてしまった人は、苦し紛れに「腹立だしい」という表記を編み出してしまいました。
これなら確かに「はらただしい」と読めないこともありませんし、字面的にも合っているように思えてしまいます。
とはいえ、素直に読むと「はらだだしい」というわけのわからない言葉になってしまいます。

…と思ったのですが、「はらだだしい」も「腹だだしい」も、しっかり見つけることができました。
濁点を全部取った「はらたたしい」や「腹たたしい」もあります。

やはり、日本人は濁点の関わる言葉が相当に苦手なようです。

[実例]

日本人とは、かくも「入れ替え」に弱いのでしょうか。
このような「入れ替え」が原因と思われる誤字等の品種を、「替誤科(かえごか)」と命名しました。

[亜種]

はらただしい:199件
はらたたしい:4件
はらだだしい:12件
腹正しい:210件
腹だだしい:27件
腹たたしい:30件
腹立だしい:995件
原立たしい:3件
原だたしい:1件
原ただしい:2件
原正しい:9件

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